Facebookはこうやってフランスを引き裂いた

    フランスの「黄色いベスト」運動は、Facebookがアルゴリズムを変更してローカルネットワークを強調するようにした後で起こった。目下の問題は、それをどうやって鎮めるかだ。

    フランスで、数週間連続で発生した暴動において、デモ参加者たちは凱旋門によじ登り、車に火をつけ、警察と衝突した。3週目の週末だけで、パリでは300人以上が逮捕され、秩序を回復するために、フランス中に3万7000人の警察官が配備されている。

    フランス語で「Gilets Jaunes(黄色いベスト)」と呼ばれるこの抗議行動は、11月に始まって以来、激化の一途を辿った。12月22日までに10人が亡くなり、3000人近くが負傷した。

    デモ参加者たちの言い分を聞くと、彼らは、燃料価格の上昇と高い生活費に抗議しているという。しかしそれ以外は、イデオロギー的には何でもありだ。デモ参加者の間で乱闘も目撃されているし、ほかのデモ参加者から「殺す」と脅された人もいる。

    しかし、現在フランスで起きていることは、偶発的なものではない。デモ参加者が着ている鮮やかな色の安全ベストにちなんで「黄色いベスト」と呼ばれるこの厄介な運動は、Facebookから生まれたと言っても過言ではないのだ。そしてこの運動は、ますます支持を広めている。

    12月はじめの世論調査では、大多数のフランス人が抗議者を支持している。「黄色いベスト」の抗議者たちは、ほとんどのコミュニケーションを、規模の小さい地方のFacebookページでしている。彼らはミームや拡散されている動画を介して連携する。何であれ、最も多くシェアされたものが、彼らのプラットフォームになる。

    2018年初頭にFacebookのアルゴリズムが変更されたことと、フランスにおける地域のローカルなアイデンティティへの強い愛着が作用し合ったことから、フランスでは、ここ何年もなかったようなひどい暴動が起きている。パリでの暴動は、ここ50年間で最悪だ。

    Facebook上で "話題になっている" 騒動に続いて現実に暴力が発生したのは、今回が初めてではないし、今回が最後でもないだろう。Facebookによって起こった、ミャンマースリランカでの反ムスリムの暴動については、すでに多くの報道がある。ブラジルインドでは、「WhatsApp」で広まった噂によりリンチ事件が起きている。今、ヨーロッパでも、同じようなことが大規模な形で起きているのだ。

    Facebookは、どのようにしてフランスを引き裂いたのだろうか。

    2018年1月、フランスのFacebookのそこここに、「Groupes Colre(怒りのグループ)」が登場し始めた。1つ目のグループは、南西部にあるドルドーニュ県に住んでいたレアンドロ・アントニオ・ノゲイラというポルトガル人のレンガ職人が立ち上げた「Vous en avez marre? C'est maintenant!! (Colre+Dept)(もううんざり? 今が行動のときだ!〈怒り+県番号〉)」というグループだ。

    ノゲイラのグループはメンバーに対して、道路を封鎖することによって、地元の当局に平和的に抗議するよう呼びかけた。それからノゲイラは、フランス中のほかの県でも「怒りのグループ」を立ち上げるべく、素早い協力をした。こうした動きは、たちまち小さな町の下位中流階級や労働階級の人々に、地元の問題について不平不満を述べる機会を与えた。ノゲイラの1つ目のグループは、現在公開されていないもので、約9万人のメンバーがいる。

    こうしたFacebookページが爆発的な人気を得たのは、偶然ではない。ノゲイラが1つ目のグループを立ち上げたのと同じ月に、マーク・ザッカーバーグCEOは、Facebookのニュースフィードで「信頼に足る、有益なローカルニュースを優先する」ため、2つのアルゴリズムの変更を発表した。この変更の目的は、パブリッシャーのページよりもローカルネットワークを強調することにより、センセーショナルな記事や偽情報を阻止し、政治的分極化を避けることだった。

    2つの変更のうち1つ目は、地元のパブリッシャーからのニュースだけを優先するもの。同じ月に取り入れられたもう1つの変更は、友人や家族からの投稿を優先するものだった。投稿のコメント欄で、活発なやり取りが起こることを願っての変更だ。

    当時Facebookのニュースフィード部門を率いていたアダム・モッセーリは、その後ブログで、こう説明した。

    「グループの中では、公のコンテンツをめぐって交流することがよくあります。投稿が友人同士の会話を促すようなFacebookページは、変更による違いをそれほど感じないでしょう」

    Facebookの広報担当はBuzzFeed Newsに対して、「われわれは、このプラットフォームで誤った情報が広まるのを防ぐこと、そして、誤ったコンテンツを見分けて知らせる方法を伝えることに力を入れています」と語った。

    「また、ファクトチェックをするフランスの組織と強固な協力関係を結んでおり、プラットフォームで共有される情報を検証することによって、誤報の問題に取り組んでいます」

    Facebookがローカルのコンテンツに力を入れ続ける計画であるのは、間違いないようだ。同社は2018年12月、アメリカにおける400の試験都市にローカルニュースのハブをつくるため、機能を拡張するという計画を発表した。

    Facebookがアルゴリズムを少し変更したことで、ローカルの「怒りのグループ」は、フランスのFacebook全体に恐ろしい速さで広まった。そして2018年はじめから、かなりの規模の抗議行動が十数件、組織された。

    フランスの県には番号がつけられているのだが、1月から2月にかけて、「怒り24」や「怒り87」といった名前のデモが出現した。道路を封鎖し、労働法改正や、交通量の多い道路での制限速度引き下げ、地元の予防接種計画案などに反対の声を上げた。

    現在、フランスの予防接種反対運動は特に扱いにくい問題だ。「怒りのグループ」は、昔も今も、予防接種反対に関する誤報の温床になっている。

    県番号は、車のナンバープレートに表示されており、大多数のフランス人のアイデンティティにおいて、重要な役割を果たすとともに、彼らのFacebookの使い方においても大きな意味を持っている。フランスのFacebookユーザー、特に年配の人々は、自分たちの地元のコミュニティに何かをシェアしたいとき、よく「シェアする」という意味のフランス語の略語「ptg」を書き、そのあとに、2桁か3桁の自分の県番号をつける。

    春までに、多かれ少なかれ抗議運動は収まった。しかし5月29日、パリ郊外のセーヌ=エ=マルヌ県に住むプリシリア・ルドスキーという32歳の女性が、署名活動サイト「Change.org」で、「燃料価格の引き下げを!」という署名運動を始めた。BuzzFeed Newsは、ルドスキーにコメントを求めた。

    ルドスキーは、ネットでオーガニック化粧品の販売やアロマテラピーのアドバイスをしている起業家だ。彼女は『ル・パリジャン』紙に、「Googleで燃料税を調べたらあまりに高くて、憤慨して署名運動を始めた」と語った。だが彼女の署名運動は、すぐには広まらなかった。最初は、2、300の署名が集まっただけだった。

    ルドスキーのFacebookページによると、彼女はその夏、Facebookでさまざまなアロマテラピー製品にリンクを貼り、Change.orgの署名運動を広めた。その間ずっと、フランスのガソリン価格は上がり続けた。しかし、2018年10月までは事態が過熱することはなかった。

    10月10日、ルドスキーは、自分のFacebookページに、「この署名運動で1500以上の署名を集めることができたら、地元のラジオ局が番組に招いてくれることになっています」と書きこんだ。1日経って彼女は、「明日ラジオ番組に出演することになりました」と報告した

    その後、そのラジオ番組のことが、セーヌ=エ=マルヌ県の小さなローカルニュースサイトに取り上げられた。約5万人が登録する、セーヌ=エ=マルヌ県のローカルニュースのFacebookページでもシェアされた。大騒ぎになったのは、そこからのようだ。地元のFacebookページに載ったその記事のシェア数は約500で、地元の多くの関心を集めた。

    ルドスキーがラジオ番組に出演した日、燃料税に反対する2つ目の署名運動が、フランス語のクラウドソーシング・サイト「MesOpinions」で立ち上げられた。タイトルは「燃料価格は、1リットル1ユーロを上限に」だ。

    「MesOpinions」での署名運動は、急速に広まった。ソーシャルメディアのツールBuzzSumoによると、この署名運動には、MesOpinionsのFacebookページからだけで16万のエンゲージメント(ユーザーが投稿に対して反応を示すこと)が示されたという。

    また、パリ郊外のルドスキーと同じ地域に住む2人のトラック運転手、エリック・ドルーエとブルーノ・ルフェーブルは、10月12日にFacebook上でイベントを告示した。「燃料価格の上昇に抗議する全国的妨害」というこのイベントは、11月17日に予定された。

    ルフェーブルは、フランスの新聞『リベラシオン』に対して、こう語っている。「ある夜に電話で、税金を払うのも、燃料価格が上がるのを見るのも、もううんざりだと話しました」

    10月15日、「金(ゴールド)と同じ価格の燃料はやめろ」というグループが立ち上げられ、MesOpinionsの署名運動をシェアした。ページの名称はその後「La France en colre(怒りのフランス)」に変わった。

    ソーシャルメディア分析ツール「CrowdTangle」によると、10月以来、合計1730万のやり取りがあったという。また、現在最も知られていて公開されている10個の「怒りのグループ」は、すべて、ルドスキーがラジオに出演し、2つ目の署名運動が広まったのと同じ週に立ち上げられたという。

    10月22日、ル・パリジャンは、5月に始まったルドスキーの署名運動を記事にしたが、そのときはまだ、それほど注目されてはいなかった。特に、当時のMesOpinionsの署名運動に対するFacebookのトラフィックと比較すると、注目度は低かった。

    だが、ル・パリジャンの記事が出ると、ルドスキーの署名数は、ついに1万から22万5000に急増した。記事そのものも広まった。続く10月24日の記事で、ル・パリジャンは、ルドスキーの署名運動は、2日前に同紙に取り上げられるまでまったく注目されていなかったと豪語した。

    つまり、2週間もしない間に、次のようなことが起きたわけだ。

    署名者が1500に満たなかったChange.orgの署名運動が、地元のラジオ局で取り上げられた。ラジオに取り上げられたことが、地元のニュースサイトの記事になった。その記事が、地元のFacebookページでシェアされた。その記事は、Facebookのアルゴリズムが変更され、今やローカルなやり取りに重きが置かれているおかげで、小さな町の話題を独占した。そして、同じ地域に住む2人の男性が、署名運動をFacebookのイベントに発展させた。同様の署名運動が、地元のFacebookグループ内部で広まった。そして、日刊紙が1つ目の署名運動を取り上げた。この署名運動についての2つ目の記事も広まった。署名運動自体も広まった。そして、フランスのほかのメディアが追随した。

    ルドスキーの署名運動は、現在、100万以上の署名数を集めている。

    「怒りのグループ」は現在、フェイクニュースや、インターネットでよく見られるナンセンスな話題があふれる巨大ハブとなっている。そして、新たに全国的な注目を集めたことが、事態を一層悪くしている。

    「citoyens en colre(怒りの市民)」というグループの「このグループについて」を見ると、彼らの本当の目的は、フランスを支配しているグローバルな銀行家たちのフリーメーソン的陰謀から、フランスを守ることだと書いてある。メンバーは現在1万5000人だ。

    現在最もエンゲージメントが多い、公開されているグループの1つ「怒りのフランス」によってシェアされた最初の頃の投稿の中には、ファクトチェックをするサイト「スノープス(Snopes)」によると、いくつかの偽情報がある。少なくとも2017からインターネットに出回っている偽情報もある。100万人のドイツ人が、燃料価格の上昇に抗議するために車を乗り捨て、道路を歩いたというものだ。実際にはそんなことはなかったし、添付されている写真は、2010年の中国で起きた交通渋滞のものである可能性が高い。

    フランス人のユーチューバーによって広められたと報道されている別の偽情報は、国家警察が11月17日に、「黄色いベスト」と一緒にデモに参加するというものだ。

    この抗議行動の前に、「黄色いベスト」のFacebookグループでは、フランスのホワイトハウスと言われるエリゼ宮殿からの偽手紙の写真であふれていた。エマニュエル・マクロン大統領がパリの検事に対して、デモ参加者に対して武力を行使するよう依頼しているという手紙だ。明らかに偽手紙であるだけでなく、スペルミスだらけだ。

    「黄色いベスト」には、正式なリーダーがおらず、急速に広まった「怒り」のほかには、理路整然とした政治的スタンスもないため、活動の大半は、何であれインパクトを与えるに十分なほど広まった動画によって決まる。この運動の先導的なビデオブロガーの1人が、ブルターニュに住むジャクリーン・ムローという51歳の陰謀論者だ。

    現在、運動のシンボルとしてデモ参加者が着ている安全ベストでさえ、拡散されていたFacebook動画が発端だ。地中海に面したナルボンヌに住む36歳のジスラン・クタールは、10月24日に動画を投稿し、デモ参加者に黄色いベストの着用を呼びかけた。黄色いベストは、車を運転するフランス人がみな車内に備えておかなければならないものだ。

    クタールは、1998年にフランスで開催されたサッカーのワールドカップで、フランスが優勝した時のことを引き合いに出しながら、「1998年のワールドカップでやったことと同じことができればいい。でも2018年は、燃料や、税金や、あらゆることのためにだ」と語っている。「みんな車内に黄色いベストがある。今週ずっと、17日まで、それをダッシュボードに乗せておこう。あなたも同じ意見だということを示す、わかりやすいカラーコードだ」

    クタールは、ラジオネットワーク「フランス・アンフォ(FranceInfo)」に対して、「動画を撮っているときに自然に思いつきました。遠くから良く見えるし、この抗議運動のカラーコードになるでしょう」と語った。彼の動画は540万回再生され、20万回以上シェアされた。

    現在この運動の広報担当を名乗る8人の1人、マキシム・ニコルは、彼自身さまざまな陰謀説を広めている人物だ。「Fly Rider」という名で知られるニコルは、こう語っているところを動画に撮影されている

    「名前を伏せるよう頼まれたのだが、ある男性から先日、守秘義務契約にサインさせられた上で機密文書を渡された」

    ニコルは、「黄色いベスト」の集団にこう語っている。

    「今、ほかの人が知ったら私を殺そうとするかもしれないようなことを知っている。もしあなたが、私が今夜見た30枚の文書のうちほんの1枚でも見たなら、1時間以内に、第3次世界大戦が起きるだろう」

    ニコルは、その夜のFacebookのライブ配信で、もしその男の名前が公になれば「マクロンは脳卒中を起こすだろう」と述べた。しかし同じ動画で前言を撤回し、自分がどんな秘密を知っていようと、抗議行動は続けるべきだと言っている。

    おそらく、インターネットに出回るあらゆる陰謀説はすべて、「怒りのグループ」の「黄色いベスト」の誰かがシェアしている。その中には、「Facebookは、『黄色いベスト』のすべての投稿を検閲している」という説も含まれている。

    フランスのケーブルテレビの報道では、黄色いベストを着たデモ参加者数人が、フランスの憲法は2016年に、当時のマニュエル・ヴァルス首相による法令によって骨抜きになったと語った。これは、セルジュ・プティドゥマンジュという70歳のユーチューバーによって広められた陰謀説と同じ内容だ。この説を信じる「黄色いベスト」によると、2017年1月1日以降フランスの国で起きたすべてのことは意味がなく、第2次世界大戦後のように、新しい体制がつくられなければならないという。

    抗議する人たちは、11月24日の抗議行動の際にもこの動画を再生した。もちろんそれは、Facebookの「黄色いベスト」グループのページに公開され、1万回近くシェアされた。

    誤った情報が拡散されるこの世界は、「黄色いベスト」を格好のターゲットに定めた。「黄色いベスト」のコンテンツをシェアする「Anonymous France(無名のフランス)」は、120万の「いいね」がついた、規模の大きなFacebookページだ。ここでは動画やミームをシェアし、同じようにいかがわしいオンラインのフェイクニュース・ネットワーク「Tu sais quoi?(あなたは何を知っているか)」に属するブログにリンクもしている。

    最大の「黄色いベスト」グループは「COMPTEUR OFFICIEL DE GILETS JAUNES(黄色いベストの公式カウンター)」と呼ばれる。会員ページによると、現在の会員数は170万だ。このグループに投稿をすることはできないが、一度に数十人の友だちを追加することはできる。このページはプラットフォームのサイドバーに表示され、もっと友だちを追加するよう誘い、友だちのネットワークを通して広まっている。

    誰もが参加できるデモはネットで広まり、ついに11月17日に山場を迎えた。フランス中で、30万人の「黄色いベスト」がデモをしたのだ。だがこれは、誰に聞いても戦略的に大失敗だった。1人が亡くなり、585人がけがをし、それ以外に115人の警官が負傷した。遠く離れたレユニオン島では、軍隊が配備された。略奪と暴動が発生したからだ。それ以降、暴力はエスカレートするばかりだ。

    だが、無秩序で暴力的であるにもかかわらず、この運動は受け入れられている。12月はじめの段階で、フランス国民の72%が支持しているのだ。フランスの複数の労働組合も支持を表明している。

    そして彼らは今、マクロン大統領を追い詰めてもいる。エドゥアール・フィリップ首相が、フランスはこの状況に対処するため、6カ月間燃料税の引き上げを保留にすると発表したのだ。

    「黄色いベスト」の広報担当で、「Gilets Jaunes(黄色いベスト)」のドメインを登録した25歳のトマ・ミラルはBuzzFeed Newsに対して、「この運動は大きくなりすぎました」と語った。彼は、12月8日、9日にある抗議運動は前回より激しさを増すだろうと予想し、「大惨事になると思います」と述べた。

    そもそもミラルがこの運動に引きつけられたのは、署名運動とFacebookのイベントを見て、人を組織的に動かすには良い方法だと考えたからだという。しかし、暴力とフェイクニュースを目の当たりにした今は、次に何が起きるかはわからないと語る。また、マクロンが増税について前言を撤回したことも、あまり喜べなかったという。

    「彼らは増税を半年間保留にすると発表しましたが、半年の間に何が起きるのでしょうか」

    この運動が沈静化する見込みはない。国民投票で新しい法律をつくることは話題になっている。「黄色いベスト」のグループのどれかを覗いてみれば、彼らが喜んでいないのがわかる。ミラルがそうなるかもしれないと恐れているように、もし、12月8日、9日に行われる抗議運動が度を超せば、マクロンが何をするかはわからない。マクロンはすでに、非常事態宣言をする可能性を検討している。

    だが、何が起きようと、すべてがすぐさま記録され、ミームで広められ、地元の「怒りのグループ」に投稿されることは間違いない。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan