• hpvjp badge
  • knowmorecancer badge
  • medicaljp badge

HPVワクチンどうしたら安心してうてる? 個別にお知らせを送ってほしい(4)

国が積極的に勧めるのをやめてから、接種率が1%未満に低下したHPVワクチン。お母さんたちの座談会、最終回は、どうしたら安心して、我が子にうたせることができるのか伺います。

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を予防するHPVワクチン(※)。

行政の費用負担で接種できる「定期接種」であり続けながら、2013年6月に国が積極的勧奨をストップ(※)してから6年が経ちました。

※対象の年齢の人に自治体から個別にはがきや封書でお知らせをするのをやめているということ。

家庭内で、子どもの予防接種を決める責任を負っているお母さんたちにワクチンに関する悩みを伺うこの座談会でも、HPVワクチンについての不安を語りますが、ではどうしたら安心してうてるのでしょうか?

※子宮頸がんはHPVに長期間感染し続けることで、前がん病変(異形成)から子宮頸がんに進行する感染症。性交経験のある女性の8割が感染するありふれたウイルスで、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなどの原因にもなる。ワクチンは性交を始める前の年齢でうつことが望ましいとされ、日本では2013年3月に小学校6年生から高校1年生の女子で定期接種となった。

【座談会出席者のプロフィール】

Aさん(43):小学5年生の長男、3歳の長女と夫という家族構成。フルタイムで大手企業に勤める。予防接種を決めるのは主にAさん。長女の予防接種のメニューが長男の時よりかなり増えていて不安。

Bさん(46):中学1年生の長女、小学校2年生の次女、夫という家族構成。フルタイムで中小企業に勤める。予防接種を決めるのはBさん。ワクチンは積極的に受けているが、HPVワクチンだけは不安でうつかどうかの判断を保留している。

Cさん(44):高校2年生の長男、小学校6年生の長女、夫という家族構成。専業主婦。夫の仕事で約10年間イギリスに赴任し、二人の子どもはほぼイギリスで予防接種を受ける。

Dさん(47):大学3年生の長男、中学1年生の長女、夫という家族構成。専業主婦。予防接種は主にDさんが決めてきたが、HPVワクチンについては夫から「受けた方がいいよ」とアドバイスを受けている。

積極的に勧めていない=裏があるの?

ーーHPVワクチンは定期接種なので、国としては接種を勧めているワクチンなんです。定期接種のワクチンを全てうたせているお母さんたちも、なぜこのワクチンについては国の方針が信じられないのでしょうか?

Bさん 少なくとも積極的勧奨をしていないということは、何か問題があるからなのかなと思っちゃいますよね。

Aさん 何か裏があるのかと思っちゃう。

Bさん 積極的には勧められない何かがあるんでしょ?と思う。今まで「やって!やって!」と積極的に言っていたのに、それを言わなくなったということだったら、何か理由があるのかなと思う。

ーーそうなんです。安全性を示す研究報告はたくさん積み重なっているのに、なぜいまだに積極的勧奨を再開しないのか、疑問に感じている人がたくさんいます。今の状態は予防接種を受ける方にはとてもわかりにくメッセージになっていますよね。

Bさん 本当に、そこのポイントだけがネックなんだと思いますよ。

ーー積極的勧奨を再開する、というのは、要は個別に対象者にお知らせを再開するということなんですね。あなたの娘さんはもうこの年ですからいついつまでに受けてくださいねという役所からのお知らせです。それが来なかったら、自分が受けるべきなのかわからないですよね?

Cさん わからないし、どうやって受けに行けばいいのかもわからない。

ーーお住まいの自治体に問い合わせて、HPVワクチンを受けられる登録医療機関に行けば受けられますよ。

Cさん その医療機関に言えば、無料で受けさせてれるんですか? 何か持って行かなくても。

ーーおそらくそれは自治体によって違うと思います。事前に、役所や保健所に問い合わせたほうがいいでしょうね。

万が一何か起きた場合、補償はあるの?

Bさん 現在の状態で、万が一、副反応が出たとしても国は補償してくれるんですか?

ーー定期接種なので、ほかの定期接種のワクチンと同じように予防接種法に基づく予防接種健康被害救済制度が適用されます。

全員 へええ。

Bさん 前に、「任意接種だからお金を出してうつしかない」と言われたんです。だけどそうすると、自分がお金を出してうったものについては何があったとしても補償がないから、今は手立てがないんだよねって何年か前に言われました。

ーー対象年齢の前だったからですかね? 例えば、定期接種でうてる期間(小学校6年生〜高校1年生の女子)を過ぎて、任意接種でうった場合は医薬品医療機器総合機構の医薬品副作用被害救済制度が受けられます。

全員 ふーん。

ーーでも定期接種の方が、救済額などが手厚いんです。定期接種の対象年齢のうちにうった方がいいのはそれもありますし、このワクチン騒動で対象期間に受けそびれた人も、後からでも定期接種で受けられるようにした方がいいと訴える医療者もいます。

全員 そうなんだー。

お知らせがなければわからない

Aさん ちょうどそれぐらいの年齢だと、風邪もひかなくなって、病院に行くこと自体が激減しているから、そもそもそういう予防接種の情報が入って来にくいですよね。お知らせがないと絶対自分が対象者かなんてわからない。

Cさん せめてお手紙だけでも届いたらいいですよね。この期間に、行けばタダで受けられますよって。それでも全然違う。

Bさん ほかのワクチンはお知らせ、来ているんだからね。

Cさん 受けられる医療機関の一覧表が入っていて、お手紙と一緒に副反応についての説明が入っていたりしたら読みますよね。

Bさん でもなんで定期接種なのにお知らせが来ないんだろう。それが不思議。

ーー2013年6月に積極的な勧奨をストップして以来、この状態が6年続いているからです。安全性を証明する研究が海外だけでなく日本でも出ているのに、再開されないんです。産婦人科医も小児科医の団体も、早く積極的勧奨を再開してほしいとなんども要望しているのに、まだ一般の理解が進んでいないという理由でされない。政治家も動かない。

Cさん そういうことがあると不信感が募りますよね。なんでそんな証明されているのにすぐやらないの?って思う。今、政治がらみでも、いろんな情報を隠したりするのが不信感を呼んでいるから、「本当は危ないんじゃないの?」って思ってしまう。

ーー何をどうしたら安心して打てるようになると思いますか?

Bさん とりあえず、お知らせを出してくれればいい。

Cさん あと、今、万が一何があっても国の補償がきくんですよ、というお話を聞いてちょっと安心しました。

Bさん そうね。「救済があるよ。定期接種だし」という情報を改めて伝えてほしいよね。

接種後の症状についての情報 届いていない

Cさん あと、注射をうたなくても、思春期の子はそういう症状になりがちということも知ったらいいと思います。うってない子にも同じような症状が出ていて、こうこうしたら快方に向かったということを今回聞いたから、うとうかなとちょっと思いました。

HPVワクチンと接種後に報告されている症状は関係ない 名古屋市7万人調査が論文として世界に発信

ーーそういう情報をこれまで発信してきたんですけど、全然届いてないですか?

Cさん 全然、届いていない感じです。

ーーがっくり......。もう一つ言うと、「安全ですよ」という報道をすると、このワクチンに反対する人からものすごくクレームを受けるんです。「なんでそんな報道をするんだ。製薬会社からお金をもらっているはずだ」と私もかなり言われてきました。そんなことがあるはずないのに。

Cさん 不信感ですよね。

ーーそれを嫌がって報道しないところもあるし、取材を受けてくれないお医者さんもたくさんいました。取材を受けてくれた先生の大学や病院にまでクレームの電話がかかってきて、仕事にならなくなるから。

Aさん へえ。なるほどなあ。

万が一子宮頸がんになったら 若い女性がなるがん

ーーその間、うてる期間を逃して、将来万が一、子宮頸がんになった場合、悔やんでも悔やみきれないと思うんです。予防できたのに。子宮頸がんは若い女性で増えていて、妊娠と同時に見つかる人もいます。

Bさん 岩永さんの書いた記事でもありましたよね。

ーー妊活中に子宮頸がんが見つかって、子宮と卵巣を全摘した女性の話や妊娠と同時に子宮頸がんが見つかった女性の話を書いたことがあります。

子宮頸がんで子宮を全摘した理系女子が伝えたいこと

妊娠と同時に子宮頸がんが見つかった女性の話

妊娠と同時に子宮頸がん発覚 抗がん剤治療を乗り越えて授かった一人娘

ーーテレビで見たのが脳裏に焼き付いているということですが、そのあと、それは因果関係は明らかになっていないんですよという情報は見たことはありますか?

Aさん 見たこともないですね。あったのかもしれないけれども、入って来てないです。

Bさん 私もその情報を見た記憶がないです。だから結局、問題は続いているのかなと思ってしまう。

ーー薬害を訴える人が、理論上の支えとしているHANS(HPV関連神経免疫異常症候群)という仮説を裏付けたとされる論文の一つは実験手法が不適切だったとして撤回されたんですよ。

HPVワクチン薬害説を支える論文撤回 英科学誌が「不適切」と判断した2つの理由

全員 ええ〜。

ーーいろんなことを伝えているんですが、皆さんのもとには届いていないんですね。

Aさん 届いてないですね。

判断に必要な情報 どうしたら届くのか?

ーーこれまでのお話を伺うと、テレビなどで見た映像から漠然とした不安を抱えて、うつのをためらっているように見えます。どうしたら判断に必要な情報が届きますかね?

Dさん 元々の女子たちの映像はニュースでやっていたんですか?

Cさん 夕方のニュースで見てましたね。

Bさん ちょうどその頃、私は産休か育休で家にいる時間が長かったのかな。何度も見たと思う。

ーーそれは主婦層ターゲットの番組ですか?

Bさん 多分そうですね。

Aさん 頻繁でしたよね。

Bさん お家にいるお母さん達は夕方のニュース見ている人は多いと思う。私もそうだったし、夜は子供と寝てしまうしね。

Cさん 夕飯の支度しながらとか、「ながら見」でも衝撃的な映像ですよね。たぶん、文章を読むだけでは入ってこなかったんだと思う。やはり実際の映像として見てしまうと、「え? どうして」って手を止めてしまうぐらいのインパクトがありました。「うたない方が絶対よくない?」って思いましたね。

Aさん そういうイメージが刷り込まれましたね。

予防の効果は映像にしにくい

ーー予防した効果って映像にしにくいじゃないですか。予防してよかったね、というのは、何も問題なく日常生活を送っている姿ですから。絵にならない。

全員 そうですよね〜。

Bさん 確かに、ワクチンうっても大概はなんともないし。

Aさん なんともないとニュースとしては流れないものね。難しいですね。

ーーですから、10年後、20年後、子宮頸がんになった人たちが出てきた時に流し始めると思うんですよ。あの時、ワクチンをうたなかった後悔の語りと共に、悲劇の話として今度は各社取材し始めるかもしれません。

Aさん そうですよね。そうかー。

ーー逆にその頃、「海外では子宮頸がんはワクチンでほぼ撲滅しましたね」というニュースが流れるかもしれません。一方で、「日本でだけ増えている、日本の国民病ですね」と報道されてしまうかもしれません。

Aさん うーん。

ウイルスに感染してからがんになるのは10年〜20年後

Bさん まだそこまでは達していないんですか? ワクチンをうたなかったせいで増えているという話はあるんですか?

ーーウイルスに感染してから、がんになるまでは10年、20年ぐらいかかるから、まだそこまでの観察期間に達していないんです。それに、前がん病変の状態で発見できれば手術するので、がんになるまで放置する研究は倫理的にできないです。

子宮頸がんになりやすいハイリスクのウイルスが10種類ぐらいある中で、特にリスクが高い16型、18型への感染を防ぐワクチンが今、日本で使えるワクチンです。それをうつと6、7割は防げるし、海外で承認されている「9価ワクチン」という9つのウイルスを防ぐことができるワクチンは、ほぼ防げるとされています。

このヒトパピローマウイルス(HPV)って性交経験のある女性の8割が感染するありふれたウイルスで、免疫で排除してしまう人がほとんどなのですが、長期間、感染し続ける人もいます。その人たちが、前がん病変である「異形成」に進んで、それが進行するとがんになる。みなさんの周りで「異形成」というのになった人、聞いたことないですか?

Cさん 姉がそうです。

Bさん そうなんだ。

ーーハイリスクなウイルスの持続感染が続くと、細胞が異常に変化したのが異形成と言うんです。そのまま治る場合もあるんですが、軽度から、中等度、高度と進んでしまってがんになってしまう場合がある。「高度異形成」の段階で手術をすることがほとんどです。頸部を円錐状にくり抜く手術なんですが、そうすると、早産とか流産しやすくなるとされています。

Bさん 早産や流産を防ぐために、中の入り口を縛ったりするんですよね。

ーーがんまで進行しなくても、一度感染すると打つ手はないので、接種した方がいいのになと思いながら私は記事を書いています。もちろんうたないことを選ぶのも自由なのですが、重要な情報が伝わらないまま「なんとなく不安だから」と見送る人が多いので、残念です。

夕方のニュース特集などでわかりやすい情報を

Dさん ワクチンっていうのは子宮頸がんしか予防できないんですか? 女性のなりやすい子宮頸がんとか乳がんとか全部に反応してくれたらいいのにね。

ーー日本で使えるワクチンは、子宮頸がんと尖形コンジローマという性器にできるいぼの予防にもなります。でもそのほかに、このウイルスは男性の肛門がんや陰茎がん、中咽頭がんというがんも引き起こすことがわかっています。だから、オーストラリアやアメリカでは男子にもうち始めていますね。

全員 男子にも!

ーーそして、アメリカでもヨーロッパでも反対運動はあります。デンマークでもテレビ番組の特集がきっかけで、接種率が一時ガタッと落ちました。

Bさん やっぱりテレビですよね。わかりやすいからでしょうね。子宮頸がんはなるかもしれないし、ならないかもしれない。でも副反応を考えると…って思っちゃう。

ーー目の前の心配が大きく見えますよね。

Bさん 目先のことがね。

Aさん あのとき、私がうたない選択をしていればよかったと自分を責めてしまうんじゃないかと思っちゃう。そういう心配もあったりする。

ーーでも、逆に「あの時、私がうつ選択をしていたらがんにならなかったのに」と考える可能性もありますよね。ワクチンのこういう情報、どこから来たら頭に入ると思いますか? やっぱりテレビ?

Bさん テレビかな。

ーーNHKとかがやったら大きいですかね。

Bさん うーん。どうなんでしょう?

ーーじゃあ民放の夕方のニュースとか?

Aさん 特集を組んでくれたらわかりやすいかも。夕方のニュースって何かと特集組んでくれたりするから。

Bさん 前に問題があった時は10分ぐらい取り上げてたかと。

Aさん 密着ものって長いよね。

Dさん NHKの「プロフェッショナル」だったら見そう。

Cさん クローズアップ現代でも見る。

ーーインターネットメディアも頑張ります。本日は貴重な生の声をどうもありがとうございました。

(終わり)

ワクチンに関する疑問やご意見を、naoko.iwanaga@buzzfeed.comまでお寄せください。それを参考に、専門家に取材して記事を書きます。