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ワクチンで自閉症が増える? デマ情報に翻弄される母親たち(2)

子どものワクチンに責任を負う母親たちの座談会、第2弾は、ワクチンにまつわるデマ情報がいかにお母さんたちを不安にさせているか探ります。

麻疹(はしか)や風疹などワクチンで防げる感染症が繰り返し流行り、HPVワクチンの接種率が1%未満に落ち込んでいる日本。

SNSでもワクチンに対する不安や不信の声がよく聞こえてきますが、子どもの予防接種に責任を負わされている母親たちは、何を不安に思っているのでしょうか?

ワクチンに関する基本を一緒に勉強する連載。座談会、第2弾は母親たちを惑わすデマ情報について伺いました。

【座談会出席者のプロフィール】

Aさん(43):小学5年生の長男、3歳の長女と夫という家族構成。フルタイムで大手企業に勤める。予防接種を決めるのは主にAさん。長女の予防接種のメニューが長男の時よりかなり増えていて不安。

Bさん(46):中学1年生の長女、小学校2年生の次女、夫という家族構成。フルタイムで中小企業に勤める。予防接種を決めるのはBさん。ワクチンは積極的に受けているが、HPVワクチンだけは不安でうつかどうかの判断を保留している。

Cさん(44):高校2年生の長男、小学校6年生の長女、夫という家族構成。専業主婦。夫の仕事で約10年間イギリスに赴任し、二人の子どもはほぼイギリスで予防接種を受ける。

Dさん(47):大学3年生の長男、中学1年生の長女、夫という家族構成。専業主婦。予防接種は主にDさんが決めてきたが、HPVワクチンについては夫から「受けた方がいいよ」とアドバイスを受けている。

子どもの予防接種の種類

「MMRワクチンで自閉症が増える」というデマ

ーー他にワクチンで不安なことはありますか?

Cさん 夫の赴任でイギリスに約10年間、住んでいました。滞在中に子どもを二人出産しているので、大事な予防接種は全部向こうでやっているんですね。

当時、イギリスではMMRワクチン(麻疹、おたふく風邪、風疹の3種混合ワクチン)がすごく話題になっていました。イギリスではMMRが全て入っているのをうつわけですが、その時に、「王室がMMRをうっていない」という噂が出回ったんです。

というのはMMRワクチンをうつことによって、将来、自閉症になる可能性があるという噂が流れていたんですよ(※)

ーー世界で一番有名なワクチンデマ(※)ですね。

※イギリスのアンドリュー・ウェイクフィールドという医師は、MMRワクチンによって自閉症になるという説を唱え、1998年、一流雑誌「ランセット」にMMR接種後に自閉症を発症した子どもの事例を報告する論文を発表。ところが、MMRワクチンの製薬会社を訴えようとしていた弁護士から多額の資金提供を受け、論文のデータも捏造していたことが判明して、論文は撤回され、ウェイクフィールドは医師免許を剥奪された。この影響でMMRワクチンの接種率が大幅に低下した(参考)。

Cさん それこそ子宮頸がんのワクチンと一緒で、因果関係もはっきりしていないのに、「自閉症になる可能性がある」という噂や王室がうたなかったという噂があって、結構日本人のママたちはざわついたんですよ。

「MMRってやばくない?」って感じになった。日本人のお医者さんがいる、すごく高額な病院があるんですけれども、自費で皆さんそこに受けに行きました。NHS(国民保健サービス、イギリスでは原則全ての医療費が無料で提供される)という国の病院に行けばMMRワクチンをただでうてるのに、わざわざ日本人医師のいる病院で、M(麻疹)とM(おたふく風邪)とR(風疹)のワクチンを3回別々に受けました。

ーーデマ情報にかなり翻弄されたのですね。

Cさん MMRワクチンも1回だけでなく2回うちますよね。それを皆さん、MとMとRに分けて、2回ずつ受けていて。私も長男の時は1回目、M、M、Rでそれぞれうったのですが、こんな3回もできないと思いました。何回もうつのもかわいそうですね。

それで結局、二人目からはMMRワクチンをうちました。しかもNHSでうちました(笑)。

Bさん 第一子と第二子の差が(笑)。二人目は子育てもおおらかになるよね。

Cさん そうやって、ワクチンにすごく慎重になった時期があるんです。

打ち消し情報が届かず、デマがそのまま残る

ーーその説を主張したウェイクフィールドという医師の論文はデータの改ざんがわかって撤回され、医師免許も剥奪されました。今では、MMRワクチンと自閉症の関係はないとされています。それでもずっとこのデマは残っているんですよね。

Cさん 結局、その後の話が聞こえてこないから、都市伝説が都市伝説のまま残っちゃうんですよね。

Bさん 確かに。私はアメリカに留学した時に、MMRワクチンを受けていることが必須条件でした。入学にあたって、このワクチンを全部受けておいてくださいというリストがあって、そこにMMRが入っていた。

うちの母は、ワクチンにどちらかというと抵抗感があったから、「三種混合は絶対嫌だ」と言い張って、分けてうとうという話になりましたね。うちは、これはやったからこれはやらなくていいと言って、結局二種にしたんです。MRワクチン。

これはもう発症しているからやらなくていいはずだと言って一生懸命戦って、先生に証明を書いてもらったりしたんです。昔、MMRワクチンは日本でもあったんですよね。

ーーはい。MMRはあったのですが、日本でも別の意味で問題になって接種が中止(※)されました。

日本は1989年4月にMMRワクチンが定期接種になったが、無菌性髄膜炎が報告された。おたふく風邪ワクチンの成分が原因とされて1993年4月に予防接種が中止に。その後、おたふくを抜いたMRワクチン(麻疹、風疹混合ワクチン)が定期接種になった。

Bさん それでうちの母が嫌だと言ったんですね。

ーーそうですね。

生ワクチンも怖かった ポリオが「不活化」になるまで

Bさん あと、ポリオの生ワクチン(※)がすごく怖くて、発症しちゃったらどうしようと不安でした。上の子の時に生ワクチンだったでしょう?

※生ワクチンには、病原性を弱めたウイルスそのものが入っている。経口の生ポリオワクチンの場合、100万接種あたりに一人ぐらいのわずかな確率でポリオを発症することがわかっていたが、2000年に立て続けに麻痺事例が報告され、一時積極的勧奨がストップ。5ヶ月後に再開され、その後2012年9月に、ウイルスそのものは殺して感染する可能性のない「不活化ワクチン」に変更された。

Cさん イギリスは注射だった。

Bさん 不活化ワクチンだよね。日本はその頃、生ワクチンだったじゃない?

Aさん なんか飲むワクチンだったよね。

Bさん そうそう。お母さんもウイルスがうつる可能性があるから、絶対、オムツを素手で触るなとか、手を洗えとかすごく注意された。稀に発症する人がいて、ポリオになっちゃうと言われて。なんでこんなに原始的なものをやっているんだと思った。

Cさん それも、イギリス時代の友達と話題になって、日本はポリオは生らしいよって話してた。

Bさん 今はもう不活化ワクチンになったから、下の子は不活化のワクチンを注射した。安心した。

ワクチンの役割をどこで学ぶ?


ーー基本、皆さんはワクチンは大事だと思っていらっしゃるんですよね? ワクチンは何のためにうつのか、どのように理解されていますか?

Aさん 免疫を作るためだと思った。抗体を作るため?

ーーそういう説明ってどこで聞きました?

Aさん 小児科で聞いたんじゃなかったかな。うつ時に先生から話を聞いた気がします。体内にワクチンを入れることで抗体を作って、かかることを予防するためだみたいなことを、先生から聞いたような気がします。

Dさん 接種票のようなものが、長男(20歳)の時はあったんですよ。大きい冊子のようなものがあって、そこに「このためにこういうものをうつんですよ」と、それぞれのワクチンの役割が書いてあるのを全部読みました。

その冊子から、ミシン目で切り取ったそれぞれのワクチンの接種票を母子手帳に貼っていたんですよね。下の長女の時にはなかった気がする。住んでいる自治体によって違うのかな。

Bさん 区によって違うと思う。うちの住んでいる自治体ではないもの。

ーーCさんの住んでいた自治体では、じっくりワクチンの役割を読める紙の冊子が配られたということですね。

Dさん そうです。結構大きな冊子みたいなものがあって、そこにとてもわかりやすく書いてありました。

ーーお母さんたち、赤ちゃん産んで忙しいと思いますが、そういうものはきちんと読み込む感じですか?

Dさん そうですね。そんなにたくさんの文字ではないのですけれども、B5やA4の紙一枚ぐらいに、ワクチンの役割とかは書いてありましたね。

ーーそういうものって役に立ちますか? 安心します?

Dさん 私はあって良かったですね。

Aさん 小児科にリーフレット、置いているよね。「Hibってなあに」とか「肺炎球菌ってなあに」みたいな内容。1個1個のリーフレットが小児科にあって、心配なワクチンはそれをもらって読む。

Bさん それから、先生がうつたびに説明の紙をくれない?

Aさん そうそう読んでおいてねみたいな。

副反応の説明も書かれている


ーーそういう説明書の中に、副反応の説明も書いてありましたか?

Aさん 書いてありますね。

Bさん それからうった時に渡される紙にも書いてあるよね。

Cさん ちょっと熱が出ることがあるとかですね。

Bさん 熱が出たら電話をくださいとか。

Cさん 口頭でも言われることがありますよね。ちょっと調子が悪くなったり、患部が腫れたりしますよとか。

Bさん 「これは副反応が出やすいから」ということも、うつ時に言われますね。2日たっても熱が下がらないならきてみたいなことですね。

ーーなるほど。そういう副反応は怖くないのですか?

Aさん 多少熱が出るぐらい、多少赤く腫れるぐらいだったらありかなという感じですね。

Bさん 以前生ワクチンでポリオを発症した人達のニュースを見て、ポリオは怖いと思った。下の子の頃には不活化ワクチンに変わっていましたが、この時に日本は遅れていると感じました。

ーー怖い情報が入ってくるのはニュースとかテレビですか?

Cさん そう、情報番組。お医者さんは言ってくれない。

Bさん ネットニュースとテレビかな。あとは口コミ。

ワクチンに反対しているママ友もいる

ーーママ友の中で、ワクチンに反対している人はいますか?

Aさん、Bさん います。

Bさん かなり反対している人もいますね。

Cさん 全部のワクチンに反対しているんですか?

Aさん 全然うってない子がいます。

全員 ええ〜!

Cさん それはそれで不安ですよね。

Cさん 任意と言われているものについてはうたない? インフルエンザワクチン(※)とか。

※65歳以上や60〜64歳で免疫機能が落ちている人の一部は定期接種。

Aさん インフルなんて絶対うたないですよね。

ーーそういうママ友からはどんなことを言われるんですか?

Bさん 「絶対うたない方がいいよ。あんなの体に入れたらよくないから」「毒だから」って。

全員 ええ〜!

自然派ママとワクチン拒否


ーーそれを聞いて本気にしちゃう人もいるんですか?

Bさん この話題には触れないですね。生まれたらすぐに飲む、あれはなんですっけ?

ーーK2シロップ(※)ですか?

※生まれたばかりの赤ちゃんは母乳だけではビタミンKが足りずに、「ビタミンK欠乏症」となって頭蓋内で出血を起こすことがある。これを防ぐために、ビタミンK2のシロップを産後すぐに飲ませる。2009年に山口県で代替療法の「ホメオパシー」を信じる助産師が、自宅出産で生まれた新生児にこのシロップを飲ませず、ビタミンK欠乏症による硬膜下血腫が原因で死亡させる事件が起きた。

Bさん そうK2シロップを、飲ませないで死んじゃった子がいるじゃないですか。あれだって危ないと思いますし。

ーーあれはホメオパシーをやっていた助産師が、K2シロップの代わりにホメオパシーで使う「レメディ」と呼ばれる砂糖を舐めさせた結果でしたね。

Bさん そうそう。ホメオパシーとかアロマをよく使っている人もいますよね。

「製薬会社の陰謀説」も

Bさん HPVワクチンは絶対うたない方がいいという人もいますね。

Cさん 副反応が怖いから?

Bさん わからない。「絶対やめた方がいいよ」って力説された。

Aさん 「副作用が怖いから」とも言うけれど、「それは製薬会社の陰謀だから」って言われます。

Cさん そう!だいたい製薬会社の陰謀説を言われる。

Bさん そうそう! 製薬会社のビジネスのために、本来必要のないワクチンを勧めているんだ、という陰謀説も聞きます。

Aさん 私の友達は、「本当はワクチンは必要ないんだよ」って言って、予防接種も積極的にはうってないですし、薬も極力飲ませない。風邪をひいても基本は、自然治癒を目指していますね。

ーーそのお母さんはママ友の間でどんな存在なんですか?

Aさん その子は普段付き合いのあるコミュ二ティにいるのではなくて、学生時代からの友人なので、時々会うぐらいなんです。「ああそういう考えの人もいるんだな」と、私は別にそんな違和感もなく付き合ってます。「そうは言っても私はうつ時はうつよ」ぐらいな感じの距離感ですね。

別に強制してくる感じでもなくて、その子の子どもとも歳が近かったので、「なんか上の子と比べたらすごい予防接種増えてて不安だよね」という話をたまたました時に、「ああ私は怖いから一切うってない」って言っていた。すごい徹底しているなと思いましたね。

うたないという選択も不安


ーーうたないという選択肢をどう思います?

Aさん それはそれで不安ですけれど…。自分たちの時にはないワクチンで、自分が今健康だから、「もしかして必要ないかもしれない」と思ったりすることもありますけど、ここ40 年ぐらいの話だから。

ちゃんと国が何かしらの実証をして、うつようにと推奨しているのであれば、うったほうがいいのかなというぐらいの思いでうってます。

ーー私たちの世代には、ワクチンがなくて感染症で死んだ子もたくさんいるはずなんです。そんな死が防げるようになったということで、新しいワクチンがうてることを喜んでいるわけなのですが。

Aさん そうですよね。

Dさん 娘が中学に入った時に、この予防接種はいついつ何歳までにうったと書いて、学校に提出しなくてはいけなかったんですが、こんなに種類があったかなとびっくりしたのね。

その中で、もし上の子は受けていないものがあったとしたら、今からでも追加でうたなければならないのかなと思いもしました。だからと言ってお医者さんに相談するわけでもなく、そのままにしちゃっているんですけれども。

そういう時に気にすることはないのかな、うたない子もいるんだしって少し思う。

Bさん 私は下の子で必須になった予防接種について、上の子について先生に相談したら、「うっておいたほうがいいと思うよ。」と言われたので、Hib、肺炎球菌、B型肝炎など下の子と一緒にうたせました。すでに小学生だったけど。

Cさん うたない選択肢はあまり考えたことがないので、基本うってきているんですけれども、ただ、自分が注射があまり好きでないし、子供もかわいそうだろうと思って、任意と言われているものに対しては、ゆるくなっちゃいます。

マストで受けなくちゃいけないものに関しては絶対受けようと思いますが、任意ということは、うつ人も打たない人もいるんだよねと思っちゃうと、例えばインフルエンザ、水ぼうそう(※2014年から定期接種)あたりはいいかなと思ってうたなかった。

国の姿勢にうつかうたないかは左右される

Cさん 日本脳炎は長男の時代に、1回任意接種になったんですよね?

ーー日本脳炎ワクチン(※)は、定期接種のままだったんですが、積極的に勧めるのを一時中止したんですよ。HPVワクチンと同じ扱いです。

※日本脳炎ワクチンは定期接種だが、接種後に「急性散在性脳炎(ADEM)」という重い病気が確認されたことがあり、2005〜2010年、国は積極的に勧めるのを一時中止し、個別にお知らせが届かなくなった。改良ワクチンが承認され、2010年4月から積極的に勧めるのを再開した。

Cさん そうなって、気持ちがゆるまってしまって、いいかな別にって思ってうたなかった。

ーーそういう意味では国がどういうスタンスでいるかに、うつか打たないかは左右されますか?

Cさん そうですね。でも、インフルエンザに関してはうったところで感染しちゃうので。それも陰謀説がありますよね。「こんな医療が進歩しているのに、あれを防げないはずはない、毎年毎年外してくるから、あれは製薬会社の陰謀なんだ」という。

ーー当たって6割ぐらいの予防効果と言われていますね。それでも対象となる人数の母数が大きいから、予防できる人数の効果は非常に大きいとされています。

Aさん 医者が荒稼ぎするためとかも言われますね。

ーー誰がそういうことを言ってます?

Aさん ママ友(笑)。

ーーそうなんですね。でも、インフルエンザはいまだに本当に死にますからね。インフルエンザ脳症とかになって。だから重症化予防という意味でも大事です。

Bさん うちの子はインフルエンザにかかって若干症状が酷くなった時に「予防接種していればかかっても軽く済む場合もあるよ」と小児科の先生に言われて、その後は子供だけでもやっておこうと思うようになったかな。

どうすればうちやすくなる?


ーーインフルエンザワクチンのように任意接種のものって、どうやったらうちやすくなりますか? お金も気になるかと思いますが、会社の補助とかあるとうちやすいです?

Aさん 私の会社は補助があります。家族の分もです。

Bさん 家族もなの? 素敵。

ーーそういう補助があると、やっぱりうちやすくなります?

Aさん はい周りも「そろそろ連れてく?」みたいに言い合って自然に受けますよね。私たちは会社でうつんですよ。会議室にお医者さんがいて、何時から何時までと決まっている時間帯にみんなで受ける。仕事中、空いている時間にみんなで行って、はいお願いしますって。だからすごく受けやすいです。

Bさん 私の前の会社もそうでした。

Cさん やっぱり家族がうつると、仕事も休まなくちゃいけないから大変ですものね。

Aさん そう。それに、やっぱり会社休んでうちに行くとなるとハードル高いので、仕事中に会社でうてるのは便利。

Bさん 4人家族になってから「4人分高!」と思ったな。子供は2回必須ですよね。

Aさん 2回だと高いよね。

Bさん 子供2人含め、家族で2万円近くかかることもあってためらってしまいますね。

(続く)

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