麻疹(はしか)や風疹が繰り返し流行り、子宮頸がんを防ぐHPVワクチンも接種率が1%未満と他の国には見られない状況になっている日本。
ワクチンで防げる病気なのに、メディアやSNSなど様々な情報でワクチンへの恐怖や不安を煽られ、行政の費用負担で受けられるせっかくのチャンスを逃している人もいます。
国がHPVワクチンを積極的に勧めるのをやめて6年(※)がたった今、BuzzFeed Japan Medicalでは、ワクチンの役割や疑問について、みなさんや専門家たちの協力を得て、一から一緒に勉強する不定期連載を始めます。
※HPVワクチンは行政の費用負担でうてる「定期接種」のままだが、対象者に個別にお知らせが行かない状態が続いている。
まずは、子どもの予防接種について一番迷い、家庭の中で決断する責任を負うお母さんたちの座談会で、ワクチンに対する不安や悩みを伺いました。
司会は岩永が務めました。
座談会出席の4人のプロフィール
まずは、参加してくださった4人のお母さんをご紹介しましょう。
Aさん(43):小学5年生の長男、3歳の長女と夫という家族構成。フルタイムで大手企業に勤める。予防接種を決めるのは主にAさん。長女の予防接種のメニューが長男の時よりかなり増えていて不安。
Bさん(46):中学1年生の長女、小学校2年生の次女、夫という家族構成。フルタイムで中小企業に勤める。予防接種を決めるのはBさん。ワクチンは積極的に受けているが、HPVワクチンだけは不安でうつかどうかの判断を保留している。
Cさん(44):高校2年生の長男、小学校6年生の長女、夫という家族構成。専業主婦。夫の仕事で約10年間イギリスに赴任し、二人の子どもはほぼイギリスで予防接種を受けている。
Dさん(47):大学3年生の長男、中学1年生の長女、夫という家族構成。専業主婦。予防接種は主にDさんが決めてきたが、HPVワクチンについては夫から「受けた方がいいよ」とアドバイスを受けている。
「夫に聞いても仕方ない」
ーーまず、みなさん、お子さんの予防接種を受けるかどうかやスケジュールはどなたが決めているんですか? 夫に相談することはありますか?
Cさん 私、私だけが決めてる!
Bさん パパには相談しないですよね。
全員 しません。しません(合唱)。
Cさん 無知ですよ。
Aさん 何も知らないし。興味もない。
Bさん 自分が連れていけない時に、子どもを連れて行ってもらえるか頼むぐらいだよね。
Aさん 行ってといえば行ってくれるけど、それだけです。
Bさん 今日はこれをうってきてくださいって言ったら、かろうじて行ってくれるぐらい。
子どもの予防接種
Cさん スケジュールもわかっていないと思うんですよ。何歳に何を受けなくちゃいけないとかもわかっていないし。
先日、主人のところに風疹の予防接種の知らせ(※)がきたけど、なんで受けなくちゃいけないのか本人わかっていないんですよ。
※風疹は、妊娠初期の女性が感染すると、胎児の目や耳や心臓に障害が残る「先天性風疹症候群」になる可能性がある。ワクチンを2回うてば免疫はつくが、ワクチン不徹底世代の1962(昭和37)年4月2日~1979(昭和54)年4月1日生まれの男性が現在の流行の中心となっており、国は今年度から3年間、この世代の男性に、免疫があるかどうか確かめる抗体検査や予防接種を無料で提供する緊急の追加対策を始めた。
ーーニュースをみていないのでしょうか?
Bさん 風疹の流行なんて結構、ホットな話題なのに。でも、ああいうニュースは見てないよね。男の人は。
Cさん 「とにかく行け」とは言ったんですけれども、まだ受けていないと思います。
なんでそんなに他人事? 子どものヘルスケア
ーー夫婦の子どもなのに、なんでそんな他人事の感覚なのでしょう? お母さんが責任を一人で抱えることになってしまいますよね。
Dさん 子どもが小さい頃からそうですよね。小さい頃に、わわわ〜と集中して子どもの予防接種があるじゃないですか。結構、大変だったんですけれども、仕事が忙しかったからか知ろうともしていなかったですね。
Bさん だって会社を休んでわざわざ連れていかないですものね。平日の昼間しか病院はやってないし、何時から何時の間とワクチンがうてる時間は指定されているし、その時間にわざわざ休んで行くことはあり得ないので、結局お母さんの役目になってしまう。
ーー共働きの場合も育休中のお母さんがやるってことですか?
Bさん 育休中というか家にいるお母さんがやるし、やるしかない。仕事があろうがなかろうがやるしかない。だってスケジュールは決まっているじゃないですか。それを逃したらうてなくなっちゃうものもあるから、夫がやらなければ私がやるしかない。
Aさん 予防接種のために、会社は半休を取って連れて行ってましたね。
ーー休むのは、やはりお父さんじゃなくてお母さん。
Bさん だってうちのパパ、問診票とか書けなかったですからね。子どもの体についてあまり知らない。
Aさん 信用できないよね。
Bさん だから私が書いて、全部、必要な書類を持たせて、「次の予約をしてきてください」って、日にちを決めることだけ指示します。全部書いて、全部指示(みんな笑う)。
ーーお子さんのヘルスケアについてお母さんばかり担うのはなぜなんでしょうね。
Cさん 結局、子供が病気にかかって休んでも、夫は休まないじゃないですか。負担がかかるのはこっちですよね。ママたちがケアをしなくちゃいけない。学校を休む手続きも、病院に連れて行くのも全部ママたちがやるから、任意の予防接種だって、「別に受けなくてもいいんじゃない」って思っているんじゃないかな。
どんなに症状が悪化したとしても、もちろんそれはかわいそうではあるけれど、「どうせママが連れて行くし」みたいに思っている。「どうせ家にいるでしょ」みたいな感じなんじゃないかな。
ーーそのあたりワーキングマザーのお二人はどうですか?
Aさん うちもやっぱりヘルスケア周りのことは私ばかりですし、塾の選び方とかお友達とのトラブルとか、基本、子供のこと全般はわたしの担当で、夫はそれに対してお金を払うぐらいの感じですね。
ワクチンへの不安にもワンオペで対処
ーーじゃあワクチンに関して不安がある時に、夫は相談相手にはなるんですか?
Aさん あ、全くなりませんね。話そうとすら思わない。
Bさん そうね。なんの返事も返ってこないでしょう。
Aさん 「わかんない」しかどうせ、返ってこないと思う。
Bさん まず100説明しなくちゃいけないしね。
Aさん ちょっと歳の近い子供のいるお母さんに聞いたりしましたね。
Bさん でも、基本は小児科の先生だよね。
Aさん そうですね。基本先生に聞いて、夫には相談することはない。
Cさん 私もだな。どんなワクチンがあるかもわかってないと思う。
色々なワクチン 同時にうっていいの?
ーーそれでは、本題に。ワクチンに関して、何か不安ってありますか?
Aさん 私の場合、上の子と下の子の歳が離れているので、予防接種のメニューも上の子の時よりどんどん増えていたんです。そうすると、右うって、左うってと「同時接種」(※)が当たり前で、最初はとても抵抗があったんです。
※異なる種類のワクチンを、同じ日に同時に接種すること。予防接種に通う回数が減り、できるだけ早く多くの病気に免疫がつくメリットがある。安全性は確認されており、同時接種によって副反応が増すことはない。
Bさん 上の子の時はまだ、1種類ずつうってたけれど、2人目の子は種類も増えていたので、同時接種しても良さそうなものは先生に相談しながら「同時で」って言うようになった。
ーーなぜ、同時接種に抵抗があったんですか?
Aさん 私にあまり知識がなかったこともありますが、異なるワクチンを同時に体内に入れることで、何か副作用だったり、悪い影響があったりしたら怖いなっていう、ただなんとなくの思いなんです。
また、予防接種をする時期って赤ちゃんでまだ体も小さいので、余計、体内に何か異物を入れることに対してセンシティブになっていたかもしれません。
そんなことで、抵抗があったんですが、長男の時からお世話になっているかかりつけの小児科の先生に相談しても「問題ないよ」と言われたので、「まあその先生が言うんだったら問題ないんだろう」と自分なりに納得して、同時接種を受けるようになりました。
ーーその先生との長い関係性とか信頼があってのことですね。
それがすごく大きいと思います。周りのママたちに聞いても、一人目の子どもだったりすると、ママたちも知識がなかったり、漠然と不安に思っていたりしていたし、逆に先輩ママだと「私の頃はなかったよ」と言われてしまうんです。
任意接種、うつかうたないか
ーー昔はうてるワクチンがすごく少なかったからですね。
Aさん そうですね。それで、結局、一番情報を持っているのはかかりつけの小児科の先生かなと思って、ワクチンに関しては小児科のかかりつけの先生にその都度、「先生、次こういうのうつんだけれども、お兄ちゃんの時になかったです。大丈夫ですか?」と聞いてます。
娘の場合、Hibワクチンや肺炎球菌ワクチン(※)とかは初めてだったんですね。
※Hibワクチン(細菌性髄膜炎、喉頭蓋炎などのHib感染症を防ぐ)、小児用肺炎球菌ワクチン(細菌性髄膜炎、敗血症、肺炎などの肺炎球菌感染症を防ぐ)は2013年4月に定期接種化(※)
長男の時の当時は、任意接種(※)だった。うちたい人は自費でどうぞ、という感じだったので、うっているお母さんもいたし、「海外でうつのは当たり前だよ」と言っているママもいたし、「いや、それは副作用がすごく怖いらしいよ。髄膜炎になったりするらしいよ」というママもいて、二手に分かれていたんです。
※「定期接種」は、国が感染症の対策上、重要度が高いと判断し、行政の費用負担で受けることを勧めている予防接種。任意接種は希望者が自己負担で受けるもの。定期接種で万が一、副反応が起きた場合は、予防接種法に基づいた「予防接種健康被害救済制度」が、任意接種の場合は、医薬品医療機器総合機構の「医薬品副作用被害救済制度」がある。
それで、怖くて、結局長男の時はHibも、肺炎球菌も、任意のものは一切うたなかった。必要最低限の保健所からお知らせが来るものだけをうつようにしていたんです。
Bさん 結局Hibも肺炎球菌もうってないの? お兄ちゃんは?
Aさん うってない。
Bさん わたしはあとからうったよ。お金出して。「後でもやらないよりいいよ」と小児科の先生に言われて。上の子は、10歳ぐらいの時にうった。下の時は定期接種になったじゃない? それに合わせて上もうった。
Aさん なるほど。そうかー。
ーー任意のものは一切うたないと判断したのはどうしてですか?
Aさん 定期接種か任意接種か決めるのも国の判断なんですかね。
ーーそうですね。定期接種にするかどうかは国の判断です。
Aさん そうですよね。定期接種に認められていないものはきっと何か副作用だったり、何かしらの不安な事案があるからなんじゃないかなと思って、避けてしまったところがあります。
うつ人うたない人が同じ集団にいること
ーーそもそもワクチンをうっていない子どもが保育園や幼稚園に来ることについて抵抗感はありますか?
Bさん 種類にもよりますが、気にはなりますね。
Aさん でも誰がうってるかうってないかなんて、私たちはわからない。
Bさん 一応、保育園の先生はわかっていて、毎年、手書きで書いた紙を提出しないといけない。
Aさん 出させられる! 提出します。
Bさん 園では一応把握していて、見ていますね。うちは任意接種のロタウイルスをやったんですよ。
ロタも昔はないワクチンでした。うてる期間がすごく短くて、生ワクチン(※)だから病気になるとうてないのですが、それを接種しておくと保育園内で爆発的に流行っていてもかからない。うちの子と誰々ちゃんと誰々ちゃんがやってて、やっぱりうっている子はかかりにくいね、と保育士さんに言われたことがあります。
※病原性を弱めたウイルスそのものが入っているワクチン。それに対し、「不活化ワクチン」はウイルスそのものは殺しているので、そのウイルスを原因とする病気にかかるリスクはない。
Cさん そういうのこそ定期接種にしたらいいのに。
Bさん 高いですからね。
Cさん だってそのワクチンは副作用はないじゃないですか。
ーー全てのワクチンに副反応はあります。ロタウイルスワクチンについては、稀に「腸重積」という腸の一部が他の部分にはまり込んでしまう重い副反応が報告されています。
Bさん だけど、そんなに危険ではない。ロタのような症状が出るぐらい。
Cさん ワクチン飲んでない子はシーズンに繰り返し発症したりしますよね。
ーー風疹や麻疹(はしか)が流行っていることについてどう思います?
Cさん ワクチン受けた方がいいと思う。私の夫も、風疹の予防接種の案内が来てものほほんとしてますよね。自分のお嫁さんも産み終わっているし、職場にも若い女性もいないしと他人事。でもそれは電車でもうつるんだよって説得しています。
Cさん 結局、男の人は自分が産まないから他人事。
Aさん 自分ごと化できない。
追加接種 年数が経つと忘れてしまう
ーー他の方は、お子さんが小さい頃の予防接種で不安はありましたか?
Dさん あまり不安はなかったですね。12歳ぐらいでうつものがありますよね。日本脳炎のワクチン(※)。それは行ってません。お知らせをどこかになくしちゃいました。
※蚊(コガタアカイエカ)が媒介するウイルスによって起こる日本脳炎を予防する。感染しても軽症で済むことが多いが、一度脳炎を発症すると致死率は20~40%と高く、半数がまひや認知障害などの後遺症を残す。定期接種。1期(3〜7歳6ヶ月)に3回、2期(9〜13歳未満)に1回うつ。ただし、1995年6月1日生まれ〜2007年4月1日生まれで4回接種を終えていない20歳未満の人は追加接種ができる。
Aさん 10歳超えた後の追加接種って忘れますよね。
Cさん 忘れがち。
Dさん 1年前ぐらい前にお知らせが来たんですけれども、忘れてしまって。
Aさん うちも追加接種のお知らせが去年、一昨年ぐらいに来ているんですが、長男が「嫌だ嫌だ」と言って、結局、打たなかった。「いらない。うたなくても大丈夫かもしれないから」と言うので、本人の意思を尊重しました。
Bさん え? 本人の意思を尊重するの?
Aさん そう。だからまだうってないです。
Cさん うちも16歳なのにまだうってない。
Dさん 「あなた忘れているからうちなさい」という催促みたいなものは来ないの?
Bさん 催促は来ない。1回しかお知らせは来ない。
Aさん うてる時期が限られているんだよね。
Bさん 誕生日から次の年の3月ぐらいまでじゃなかった?(日本脳炎予防接種のスケジュールはこちら)
Cさん じゃああの紙はもう使えないんだ。
Bさん でもね、持っていけばやってくれると思う(※追加接種できます)。なぜなら私はやったから。
全員 ほー。なるほど。
(続く)