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東京医大の不合格女性約20人、成績開示や慰謝料など集団請求へ

「医療現場の働き方の改革と同時にやらないと、問題の本質的な解決にはならない」とも訴えた。

東京医科大学が女子受験生に不利な得点操作をして合格人数を抑えていた問題で、「医学部入試における女性差別対策弁護団」は10月24日、都内で記者会見を開き、29日に同大に対して成績開示や受験料、慰謝料の集団請求を行うことを表明した。

第1次請求は20数人となる予定で、今後、同様の女性差別が行われた他大学の受験生も含め、請求者はさらに増える見込みだ。不合格だったことによって受けた被害に対する損害賠償請求などの訴訟を起こすことも検討している。

一方、同大の第三者委員会は23日公表した中間報告で、今年と昨年の入試で本来合格ラインに達していた69人が不正な得点操作で不合格になったとし、そのうち女性は55人だったことを明らかにしている。

また、文部科学省は23日、全国の医学部調査の中間報告で、複数の大学で女性や多浪生に不利な入試が行われていた疑いを明らかにしている。

同弁護団の板倉由実さんは、「史上稀に見る、歴史に残る悪質な差別事件。これを機会に社会的な性差別全体に対するアドボケイト(社会的な啓発)につなげたい」と話している。

受験料や不当な女性差別を受けた慰謝料を請求

同弁護団によると、第一次請求者は、2006〜2018年度の女子受験生で、個別の成績の開示と、受験料6万円に加え、女性という属性によって不利な受験をさせたことに対する慰謝料10万円と交通費、宿泊費などを請求する。

請求者の中には、東京医大を不合格になった後、現在も医学受験のために浪人している人や他の大学の医学部に進んだ人、他の職業を選んだ人、既に医師になった人らがいるという。

同弁護団は、これまで電話相談やメールなどで100件以上の相談を受け付けてきた。さらに11月23日にも都内で当事者説明会を開き、他大学も含め、女子受験生差別による被害を訴える人について、救済を支援する。

請求に関して、当事者の負担はなしとし、訴訟費用やこれからの活動費用など250万円をクラウドファンディングで集める。同弁護団は、「性差別を象徴する事件の救済を、社会全体で支援する仕組みを作りたい」などと説明している。

同弁護団は23日、全国医学部長病院長会議宛に、女性差別を廃し、過去の差別の徹底的な検証をすることなどを求めた要望書を提出した。

中間報告、どう見たか

また、弁護団は、第三者委員会の中間報告について高く評価した上で、本来合格だった女子受験者が不合格にさせられていたことについて、憤りを表した。

共同代表の打越さく良さんは「限られた年度だけでこれだけの不合格の人数があったことに言葉もない。一人一人にとってはどれほどの重みだったか」と話す。

また、同じく共同代表の角田由紀子さんは、「こんなにもあからさまなことが行われていたが、文科省の別の事件の関連で発覚したに過ぎない。当初の事件がなければ、このまま闇に葬られていたとしたら大変恐ろしい」と語った。

さらに、角田さんは今医学部を目指している少女たちへの影響にも触れた。

「医学部に行きたいという子供たちは小学生の頃から一生懸命勉強している。そういう少女たちが今回の事件でどれだけがっかりして傷ついたか。多少ともこの活動で是正されることで、少女たちに希望が蘇るといいと思います」

女性医師が増えると医療現場が崩壊する、という考えは?

今回の女子受験生差別は、出産や育児で仕事を減らさざるを得ない女性医師が増えると、医療現場が崩壊するという理由で行われていた。これについて、角田さんはこう反論する。

「女性差別を正当化する理由として、医療現場は女性は迷惑で負担になるのだという理屈を持ち出して、仕方ないのではないかという議論が女性医師を含めてあることは承知している。しかし、それは転倒した話だと思います」

「医療現場は男性医師にとっても過酷な労働現場であることを基準にして、女はそれができないと言っても、できている男性の方も問題がある。男性医師も含めて、人間らしい医療に改めるべきだと思っています」

そして、医療者の労働環境の問題は、患者にとっても問題があることを指摘し、労働環境の改善を訴えた。

「そういう極限状態の医者に命を預けている患者としては、非常に大きな恐怖だと思っている。医者を増やす、医師のための保育施設を増やすなど、いろんなことが可能で、医療現場の働き方の改革と同時にやらないと問題の本質的な解決にはならないと思います」