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停電の時、電気で動く医療機器を使う在宅療養中の人はどうしたらいいのか

山形県沖を震源とするマグニチュード6.8の地震が発生し、山形県では計5000戸が、新潟県では約3200戸が停電しています。電気で動く医療機器を使う在宅療養中の人は、どう対処したらいいのでしょうか? 東日本大震災で人工呼吸器や在宅酸素を使っている患者を生き延びさせるために走り回った、仙台往診クリニック院長、川島孝一郎さんに様々な方法を聞きました。

6月18日午後10時22分ごろ、山形県沖を震源とするマグニチュード6.8の地震が発生。新潟県村上市で震度6強を、山形県鶴岡市で震度6弱を観測している。

東北電力によると、山形県では鶴岡市、酒田市などで計5000戸が、新潟県では新潟市西区、村上市で計約3200戸が停電している(18日午後11時10分現在)。

心配なのは、電気で動く医療機器を使っている在宅療養中の人だ。


東日本大震災の時に、人工呼吸器などを使っている患者を守るために駆け回った仙台往診クリニック院長の川島孝一郎さんに生き延びるための様々な方法を聞いた。

主に使われるのは人工呼吸器、吸引機、在宅酸素の3つ

川島さんによると、在宅療養の場合、電気で動く医療機器でよく使われているのは、

  1. 人工呼吸器
  2. 吸引器
  3. 在宅酸素(酸素濃縮器)


の3つ。

「他に介護用品であれば、エアマットや、ベッドを上げ下げするギャッジアップもあります。夏場であればエアコンも体調管理には必要でしょう」

在宅療養をしている人は電気が命綱であることが多いのだ。

今回は、生命を維持するのに必要な医療機器の3つに絞って説明をしてもらう。

人工呼吸器は内部バッテリーがあるが、吸引機や酸素濃縮器はほとんどない

「人工呼吸器は、新しいタイプのものであれば、停電と同時に内部バッテリーに切り替わり、だいたい10時間前後持ちます。古いものであれば、3〜4時間程度でしょう」

吸引器は、気管切開などをして、自力ではたんが出せない人が窒息しないように、人工的にたんを吸引するのに使う。

「吸引器の多くは内部バッテリーがないので、停電したらすぐに使えなくなります」

在宅酸素は肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などで肺の機能が落ち、酸素を空気中から十分に取り込めない人が使う。通常、空気から酸素を濃縮して送り込む「酸素濃縮器」を使うことが多い。

「酸素濃縮器もバッテリーがないものがほとんどで、停電したらすぐ使えなくなります。まとめると、人工呼吸器はしばらくもつけれども、吸引機や在宅酸素は別の手段にすぐ切り替える必要があるということです」

人工呼吸器、内部バッテリーが切れたらどうするか

しばらく持つとはいえ、停電が長引き、内部バッテリーだけでは持たなくなる事態になった時、人工呼吸器の場合はどうしたらいいのだろう。

人工呼吸器を使っている人は、通常、介助者が手押しで空気を送り込む「蘇生バッグ(通称:アンビューバッグ)」と呼ばれる医療機器を持っている。

「しかしこれは、医療者でさえ、片手で2〜3分押したら疲れてしまいます。老老介護で看ている場合は実質不可能な手段ですし、交代する人が何人もいなければ現実的な対処法ではありません」

有力な方法としては、主に3種類ある。

  1. 外部バッテリー
  2. インバーター
  3. 発電機


という3つの手段だ。

外部バッテリーは、万が一の時のために医療者があらかじめ置くように指導していれば、その容量に応じた時間、人工呼吸器を続けて使うことができる。自動車用のバッテリーが使え、自動車用品店で売っている。持つ時間は、バッテリーの種類や使う医療機器にもよる。

インバーターは、自動車のシガーソケットやボンネットの中のバッテリーから電気をとるために使う電力変換装置だ。

「これも自動車用品店で売っていますが、定格出力が概ね120ワット以上で人工呼吸器が使えます。吸引器も使っている場合は、250ワット以上のものを選べば両方の電力を賄えるでしょう」

万能なのは「発電機」 卓上コンロのガスボンベで動くものも

人工呼吸器だけでなく、吸引器、在宅酸素でも対応しやすいのは「発電機」だ。

「ガソリンを燃料とするものが一般的ですが、ガソリンを家庭に準備しておくのは限界があります。最近では、家庭用の卓上コンロのガスボンベで動くものも発売されています。ガスボンベはスーパーでも売っているものですから、このタイプを用意しておくと安心でしょう」

吸引器の代わりの手段は「足踏み式」「手もみ式」がある

吸引器は、電気がなくても使える「足踏み式」「手もみ式」を万が一の時の代替手段として備えているといいと言う。吸引チューブにつなげて、人力で動かす。

「介護用品のカタログには必ずあります。足踏み式は数万円と高いので、私は数千円の手もみ式を勧めています。ただ、これも医師や看護師、ケアマネジャーが万が一の時を考えて用意しているかが重要です」

それさえ用意していない場合は、50ccや20cc程度の小さな注射器を吸引チューブにつないで吸い取る方法があるが、これも日頃の備えが必要となる。

「あらかじめ準備していない場合は、病院に行きましょう」

在宅酸素の場合 どれぐらい酸素を吸っているかで決まる

在宅酸素の場合は、どれぐらい酸素を吸う設定にしているかで対応が分かれる。

「1分で1リットル以下の設定の人ならば、部屋の空気しか吸えなくなっても、多少苦しいかもしれませんがしばらくは大丈夫だと思います。問題は1分間に3リットル以上吸っているような人です。バッテリーが切れたらすぐに息苦しさを感じ、意識を失うこともあり得ます」

通常は、万が一の時のために酸素ボンベを用意している人が多いが、酸素ボンベは360リットル程度の容量なので、1分間に3リットル吸う人は2時間程度しか持たない。

「やはりインバーターか発電機を使って、酸素濃縮器を動かすことが現実的です。酸素濃縮器は500ワット以上のものが多いので、インバーターを使う場合は、シガーソケットではなく、車のボンネットを開けて、車のバッテリーに直接つなぐしかないでしょう」

対処できなければ、すぐに病院へ

いずれも結局は日頃の備えがものを言う。

仙台往診クリニックでは2011年の東日本大震災の時に、人工呼吸器など電気を使って動かす医療機器が必要な患者46人を診ていて、一人は津波で亡くなった。

45人中26人はあらかじめ発電機や外部バッテリー、インバーターなどを用意していたので、在宅のまま乗り切った。後の19人は備えがなかったため、うち3分の2は往診で緊急に対処し、3分の1は病院に搬送することになった。

「震災で備えが大事だと痛感し、今は必要な患者全員に機器を準備し、半年ごとに使える状態かチェックしています。被災地の人だけでなく、全ての地域の人が日頃から考えておかなければならないことだと思います」