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寝台型車いすで新幹線に乗れないの? JR東日本が対応を二転三転 障害の壁を取り払う「合理的配慮」とは

仙台市に住む筋ジストロフィーの男性が計画した北海道への新幹線の旅。JR側は規格からはみ出る10センチをどう捉えたか?

私たちが普段、何げなく使っている公共交通機関。車いすを使うなど障害を持つ人は、そもそも乗ることができるのか、どのような手伝いが必要かなど、事前に交通機関側に相談することが日常的な手続きとなっている。

BuzzFeed Japan Medicalの寄稿者でもある仙台市在住の筋ジストロフィーの詩人、岩崎航さん(41)は12月初旬に北海道の病院に入院するために、新幹線で移動することをJR仙台駅に相談した。いったんは切符も発行されたが、「やはり車いすのサイズが規定より大きい」と覆され、交渉を重ねた結果、最終的に乗車できるという結論に落ち着いた。

今年6月には格安航空会社(LCC)のバニラ・エアが車いすの乗客の搭乗を巡ってトラブルを起こしたばかり。バリアをなくす配慮を求める障害者差別解消法ができた今でさえ、なぜこのようなことが繰り返し起きてしまうのだろう。

気管切開を避けるため 仙台から北海道への旅

岩崎さんは筋肉が衰える病気のために、鼻マスク式の人工呼吸器をつけて生活し、全身がほぼ動かない。座った姿勢を保つことが難しく、外出の時は寝台型の車いすに横たわり二人のヘルパーの介助で移動する。

北海道の国立病院機構「八雲病院」(北海道八雲町)への入院を決めたのは、10月に風邪を悪化させ、自力で痰が出せずに窒息しかねない状態に陥ったからだ。再び同じような危険な状態になるのを防ぐため気管切開をすることも考えたが、気管切開をすると、頻繁な痰吸引が必要になり声が出なくなる可能性もある。

同じ病を持ち、気管切開で声を失った兄健一さん(48)のアドバイスも聞き、気管切開を回避する呼吸リハビリを先進的に行なっている八雲病院で10日間、リハビリを受けることを決めた。

入院の日程も決まり、岩崎さんの父親が仙台駅の駅事務室に新幹線の乗車の相談に行ったのが11月18日の朝。岩崎さんの車いすのサイズは130㎝×71㎝と伝え、JR東日本が乗車の基準としている車いすのサイズが120㎝×70㎝だと聞いた上で問い合わせた。

これまで岩崎さんはJRの在来線や仙台空港鉄道、仙台市地下鉄には問題なくこの車いすで乗車していた。

数時間の検討の結果、規格内に収まらないことについて、駅員はJR東日本仙台支社に問題ないと確認したとし、「みどりの窓口に人数分の予約をしておいた。いつでも発券できます」と電話で回答した。

父親は本人とヘルパー2人分、両親と合計5人分の仙台駅ー新函館北斗駅間の往復の切符を購入。その時に、乗る予定の車両と同じ型の新幹線が仙台駅に停車したため、駅員と一緒に客室内にある車いすスペースを測りに行った。

横幅は通路側にはみ出るため自動ドアの真上にあるセンサーが反応し、ドアが開きっぱなしになる可能性を指摘された。デッキのスペースは目視でも、岩崎さんの車いすが入るには十分な広さがあった。

駅員からは、「乗車中は基本的にデッキにいてもらい、多目的スペースが使えればそこを使ってもらう可能性がある」と伝えられ、父親は帰宅した。

回答が一転 「やはり乗車できません」

多目的スペースは、授乳や気分が悪くなった人の休憩などに使われる新幹線内の小部屋。この中に車いすが入れるか、デッキのどの位置にいるべきなのか心配した岩崎さんは、20日に父親に再び仙台駅の駅事務室に確認に行ってもらった。

駅員は、同じ車両が仙台駅に入る時間に再び測定することを提案。ところが、停車時間が来るまで他の用事を済ませていた父親の携帯電話に連絡が入り、突然、「やはり車いすの規格に合わないので、乗車していただくことができなくなった」と乗車許可を覆す回答があった。

駅事務室で父親が理由を質したところ、駅員は「他のお客様の通行の問題や何かあった時の安全確保に支障をきたすため」と答えた。「詳細は仙台支社に電話で聞いてください」と言われ連絡したが、「担当課がわからない」「折り返し連絡するので待っていてください」という対応だった。

支社からはその後も連絡はなく、駅員からは「乗車していただくのは難しい。いったん発券したのに誠に申し訳ない」と謝罪され、「これは支社としての回答です」と言われたという。

北海道行きを断念はできない 政治家にも相談 

岩崎さんにとっては、自分の今後の生活の質を左右する大事な旅行。簡単に諦めることはできず、「当初はこの大きさでも大丈夫と対応してもらったのに、納得いかない」と ツイッターやフェイスブックなどのSNSで、情報提供を求めた。

さらに、仙台市議の経験が長かった父親は、これは一個人の問題にはとどまらない社会の課題でもあると考え、地元選出の国会議員に相談。JR東日本の仙台支社に障害者への対応がどうなっているのか問い合わせをしてもらったところ、同社の態度は一転する。

「車いすの現物を持ってきていただければ、それを当該車両に乗せてみて、乗車できるか検証します」と連絡があった。

父親は22日、車いすを持参して、車両に乗せて検討してもらった。その結果、車いすスペースは通路にはみ出す分量が多いため使うのは難しいと判断されたが、多目的スペースにはすっぽり入り、介助者も一人一緒に入って付き添えることがわかった。他の乗客が使わない時は使うことができる。

JR東日本側は、「これなら十分スペースがあるので、乗車していただけます。車掌に事前に連絡して、多目的スペースを使えるように手配します」と約束してくれ、最終的に乗車は可能という結論に至った。

原則「乗車はお断り」「特段の事情」がある時のみ

なぜこのように対応が混乱したのだろうか。

BuzzFeed Japan Medicalは、JR東日本に車いすの乗車について、どのように対応しているのか取材した。

まず乗車できる車いすのサイズについては、

「国土交通省監修のバリアフリー整備ガイドラインに基づき整備しており、ガイドラインにおいて車いすの基本的な寸法は、JIS規格の車いすサイズ(長さ120㎝×高さ120㎝×幅70㎝)と同一とされています」

「この大きさを上回る車いすの場合、通路を通る際に支障があったり、デッキから客室へ回転が不可能であったりと物理的な制約が生じる可能性があるため、ご利用をお控えいただくようお願いしています」とJR東日本は回答。

これは新幹線でも在来線でも同じ基準で運用しているという。

ところが、このガイドライン(車両等編)を読むと、車いすスペースの標準的な整備内容は、「標準型車いすの最大寸法に一定の余裕幅を考慮」するとして、「130㎝以上×75㎝以上とする」としている。岩崎さんの車いすも入る広さだ。

これに対し、JR東日本は、「物理的な寸法としては、その車いすを列車内車いすスペースで使用していただくことは可能かもしれませんが、このスペースに向っていただく動線も考えなくてはならず、車いすスペースの寸法に収まるかどうかだけで乗車可能と判断することはできない」と答えている。

また、規格サイズ以上の車いすを一律に乗車拒否するということでもないらしい。

「特段の事情のあるお客さまについては、ご乗車の可否を個別に検討することとさせていただいており、お客さま本人に一定のご協力(事前の現車での確認等)をいただくことや、当社にとって過度の負担にならない範疇でご対応させていただくこともあります」という。

この「特段の事情」とは何なのか。

「『特段の事情』自体はお客さま個別に事情をお伺いしておりますため、一概に申しあげることはできません。ただ、過去にサイズの大きい車いす等でご乗車いただいた事例としては、以下のような事例があります」として、

「医療搬送として、医師等の付き添いのもと、ストレッチャータイプのものでご乗車いただいた事例」

「修学旅行の際に、120㎝×70㎝を超えるサイズの大きな車いすでご乗車いただいた事例」

を挙げた。「いずれの事例も事前に車両の入り口から入ることが物理的に可能かどうか等を確認させていただいてご乗車いただいておりました」と回答した。

「どこでも合理的な配慮を受けられるように」

二転三転した今回のJRの対応を岩崎さん本人はどう見ているのか。

「はじめは現場の駅員さんが合理的配慮を尽くして乗車ができると判断されたうえで、切符も発券していただいていたのに、突如として乗車できないと何の検討もせずに利用を閉め出す対応をされたのは残念でした」

「『特段の事情』がある場合は、個別に検討をして、運行の安全を妨げないかぎり乗車ができるように取り扱うという方針だそうですが、それがまさに合理的配慮です。そんな方針を掲げていらっしゃるのならば、管内のどこのエリアでもその対応が行き渡るようにしていただきたいです」

「当初から『どうしたら乗せられるか』という姿勢で対応くださった仙台の駅員さんには感謝しています。現場の方が積極的に合理的配慮をしようと考える気持ちを萎縮させないように会社にはお願いしたいと思います。今回、新幹線で八雲に行くことができると決まり、ホッとしました」

国のバリアフリー整備ガイドラインを作った検討委員会委員長で、中央大学研究開発機構機構教授の秋山哲男さんは、「障害者の障害の内容は極めて多様で、ガイドラインで全てをカバーできるわけではありません」と指摘する。

その上で、「障害者差別解消法の精神に則れば、経営が立ち行かなくなるなど企業に過度な負担がかかるのでなければ、ハード面での不備がある場合は、周囲の座席を一部取り外すなどソフト面での配慮を検討することはできるはずです。今回のケースは、企業側がどれほど障害者の壁を無くそうとする意欲があったのか、その姿勢が問われていたのだと思います」と話している。