風疹の流行が止まらない。
妊婦が感染することで、お腹の赤ちゃんの目や耳や心臓などに後遺症が残る「先天性風疹症候群」の子どもが東京でも確認され、これで今季の流行で二人目となった。
国はワクチン不徹底世代の1962(昭和37)年4月2日~1979(昭和54)年4月1日生まれの男性に、免疫があるかどうか確かめる抗体検査や予防接種を今年度から3年間、無料で提供する緊急の追加対策を始めたが、これにも遅れが生じていることがわかった。
全国市長会と東北市長会が連名で、「市区町村に財政負担が生じないよう、国が必要な財源を確保すべきだ」とする陳情を厚生労働省や与党政治家に繰り返しており、無料クーポンの送付準備が滞っている自治体があるからだ。
自治体が発行したクーポン券を、事業の委託を受けている医療機関や健診機関に出せば、全国どこでも抗体検査や予防接種が無料で受けられる。
厚労省は、全国の自治体にクーポン配布時期を尋ねて集計中で、目標とする春の健康診断(5、6月)までにクーポン配布が間に合いそうな自治体は全体の7〜8割だろうとしている。
同省結核感染症課の井口豪課長補佐は、「市民の健康に関わることでもあり、市区町村にも費用負担や事務作業について丁寧に協力をお願いしていきたい」としている。
財源負担の押し付け合いで対策が遅れれば、被害を受けるのは、これからも生まれる可能性が残る先天性風しん症候群の子どもたちだ。
遅れた方針決定、不満を抱く市区町村
厚生労働省が、追加的対策の骨子を発表したのは2018年12月13日のことだ。
同月17日には、抗体検査については国が2分の1、市区町村2分の1、予防接種については他の定期接種と同様、市町村負担だが費用の10分の9を地方交付税で負担することが示された。
そして、詳しい事務内容やクーポン券の仕様などは、自治体が当初予算案を作る年明けになってもなかなか示されず、2月下旬にようやく説明を受けた自治体もある。
これに不満を抱いた青森市長が、準備に追われる青森県市長会や東北市長会などに呼びかけ、最終的には全国市長会と東北市長会の連名で、まず2月19日に厚労省の健康局長や大臣政務官に緊急の陳情を行った。
主な要望は以下の4つだ。
- 市区町村に財政負担が生じることのないよう、国の責任で必要な財源を確保し、抗体検査についても同様の財政措置を講じること。
- 事務負担の増加に伴う人件費やシステム改修経費などについても、同様の財政措置を講じること。
- 居住地以外の医療機関でも検査や予防接種を受けられる事業なので、検査や予防接種の標準単価を示すこと。
- 自治体が円滑に業務を行うため、事務処理要領の策定を急ぎ、早急に各種様式のひな形などを示すこと。
「実施主体となる市区町村が住民の風しんの感染予防とまん延防止を着実に進めるためには、確実な財源の保障及び実施体制の整備がなされなければ,円滑な施行は困難である」として、国が全額費用を負担することなどを求める内容だ。
対象者が3万4817人いる青森市の健康づくり推進課の柴田一史課長はこう不満を漏らす。
「方針決定が遅かったので春から始めるのに準備期間も足りない上に、どこの自治体も財政は厳しい。仕様が示されないまま、システム改修やクーポン券の印刷、発送などを行うことが求められ小さい自治体ほど負担は重く混乱している」
全市区町村に調査 8割が4月1日の発送間に合わず
その後、2、3、4の要望は国から対応が示されたが、財源については国も譲れない。
東北市長会が2月末から3月上旬にかけて、全国の1741市区町村に独自の緊急アンケートを行ったところ、1188市区町村から回答があり、4月1日からのクーポン発送が間に合わなかった自治体が約8割にのぼることがわかった。
2019年度の当初予算計上が間に合った自治体も約半数の55.3%で、「全額国庫負担とすべき」と回答した自治体は90.8%にのぼった。
この結果を携えて、全国市長会と東北市長会は4月9、10日に再度、厚生労働副大臣や与党幹部らに陳情を行った。
この陳情に対する国の出方をにらんで、いまだに予算措置が未定の自治体もあるという。
国「市民の健康に関わることなので協力を」
この動きに対し、厚労省結核感染症課の井口豪課長補佐は、
「市民の健康に関わることなので、検査の費用を2分の1は持っていただきたいし、定期接種の事業で風疹だけ予算の立て付けを変えることはできない。上からやれと押し付けるわけにはいかないので、丁寧に説明をして協力をお願いしていきたい」と話す。
そして、こうした要望が出てきたことについては、こう訴える。
「東北はあまり風しん患者が出ていないこともあり、財政が厳しい中、風しん対策予算の優先順位が低い自治体もあるのだろうと思う。ただ、患者が出ていないからといって抗体を持っているわけではなく、この世代の男性の抗体保有率(風しんの免疫が十分ある人の割合)は80%ぐらい。ぜひ積極的に取り組んでほしい」
先天性風疹症候群の患者会「大人の事情ではなく英断を」
自身が妊娠中に風疹にかかり、先天性風疹症候群にかかった娘を18歳で亡くした「風疹をなくそうの会『hand in hand』」共同代表の可児佳代さんは、この追加対策に期待をかけている。
「財政的にも厳しいと自治体も積極的に行うのは難しいかもしれません。しかし、 クーポン発送が遅れると風疹の流行も止められません。 いろいろ難しいことがあると思いますが、この風疹は大人が流行らせているものです」
「大人の事情ではなく、未来の命を守る、自分たちの子どもを守る大人の責任として対応をお願いしたい。
MRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)は流行を繰り返している麻疹も予防できるので、国か自治体に英断をお願いしたいです」