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全国で猛暑に 熱中症、屋内にいても安心してはいけません

全国で30度以上の真夏日となり、35度以上の猛暑となる見込みの地域も。この季節、熱中症を防ぐために気をつけるべきポイントを藤田保健衛生大学の救急総合内科学教授、岩田充永さんに伺いました。

5月26日も、5月としては記録的な暑さとなり、全国各地で30度以上となった。

北海道佐呂間町では午前8時40分ごろに気温が35度を超え、猛暑日となった。北海道で5月に猛暑日を記録するのは、観測史上初めてだ。

こんな暑い日に気をつけたいのが熱中症。

特にお年寄りは、暑さや体調不良、喉の乾きなどを感じる感覚が鈍り、いつのまにか意識が遠のくこともあるので注意が必要だ。

救急救命医で、老年病の専門医でもある藤田保健衛生大学の救急総合内科学教授、岩田充永さんにこの季節、注意すべきことを教えてもらった。

お年寄りはもちろん学生も搬送

岩田さんが指揮をとる救急はこの季節、連日、熱中症で救急搬送される人の対応に追われる。

「やはり、7割ぐらいはお年寄りです。トイレで意識がなくなって搬送されたり、朝、起きたら意識が朦朧としていたなど、屋内で熱中症になる人もとても多いです」

「お年寄りほどクーラーの風は体に悪いという思い込みがあって、しっかりクーラーを使っていない人が多いのです。ろくに眠れずに、脱水症状になりかけたまま朝一番の畑仕事に出て倒れて見つかるという人もいます。とにかく、しっかりクーラーを使って体を冷やしましょう」

岩田さんらが診ている愛知県東部は、学校のクーラー設置率も低く、特に運動系の部活中に倒れて救急搬送される学生も目立つという。県内の豊田市では、小学校1年生の男児が熱中症で倒れて死亡する痛ましい事故も起きた。

「これだけ熱中症で倒れている人がいることが報道されていても、体育会系の熱血顧問が炎天下で運動させるという無謀な判断がまかり通っています。熱中症は命にも関わり後遺症が残ることもありますので、許されることではありません」

そもそも熱中症とは何か?

そもそも熱中症とはどのような病気なのだろうか。

「気温や湿度が高い環境では、体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温の調節機能が下がります。その結果、体に熱がこもって体調が悪くなることを言います」

「気温30度、湿度60%という環境基準のどちらかが上回ると、急激に熱中症が増えることがわかっています。天気予報で、お住まいの地域の最高気温が30度を超えるようでしたら、特に警戒しなくてはいけません」

どのような症状が出るの?

熱中症になると、どのような症状が出るのだろうか?

「軽症の時は、めまいや立ちくらみ、足がつる、頭痛や吐き気などの症状が出ることが多いです。徐々に症状が進むと、体温が38度を超えて上がり始め、40度以上の重症になることもあります」

重症になると、自分で意識や体をコントロールすることも不可能になる。

「重症になると、意識を失い、けいれんなどを起こして、肝臓や腎臓など内臓障害が起きることもあります。発見や治療が遅れると死に至る可能性もあるので、油断してはなりません」

救急車を呼んだ方がいいのはどんな時? 応急処置は?

周りにいる人が応急処置をした方がいいのか、救急車を呼んだ方がいいのかは判断に迷うところだ。どんな時に救急車は呼ぶべきなのだろうか。

「自分では動けない状態になったら、すぐに救急車を呼んだ方が良いでしょう。立ち上がれなくなったり、足腰が動かせなくなったりしたら危険な状態にあります。意識がない場合は、もちろんすぐに呼ばなければいけません」

「応急処置として、涼しいところに運び、太い血管のあるわきの下や首などを氷で冷やすなど、体温を下げるようにしてください。意識が朦朧としている時に水を飲ませようとすると誤嚥することもありますから無理に飲ませないように気をつけてください」

最近、それでは体の奥の「深部体温」は下がらないのだという発信もよく見かけけるがどうなのだろうか?

「確かに深部体温を下げる効果はそれほど高いわけではないのですが、体調が悪い人を氷の入った風呂に入れたり、全身に水をかけて急激に冷やしたりするのも危険な場合がありますし、何より応急処置として不可能な場合が多い」

「やはり太い血管のあるところをしっかり冷やし、涼しい場所に連れていき、少し体に水をかけてあおぐぐらいが応急処置としてはベストだと思います。無理せず、医療機関を受診してください」

どんな治療をするの?

救急搬送されたり、医療機関を受診したりしたら、どのような治療をするのだろうか。

「何よりもまず、体温を下げることが優先されます。38度以下にするため、体に霧吹きで水をかけて、あおいで体の表面の温度を下げることをします」

「体温が42度以上にもなると、人工透析をしたり、冷やした点滴を入れたりして、体温を下げるようにします。内臓障害などを起こしている場合は、集中治療を行う場合もあります」

予防するには? 屋内にいても安心できません

こうなる前に、私たちができる予防法は何か。

「もっとも大事なことは、涼しい環境にいることです。暑い日には、不要不急の外出はなるべく避けてください。炎天下では、日傘や帽子を使って日差しを直接浴びないようにしましょう。私は『クールシェア』と呼んでいますが、日中はショッピングモールなどの冷房がよく効いた施設で過ごすのも良いかもしれません」

屋内にいる場合は冷房をつけて、28度以下に設定することが必要だ。

「屋内であっても、換気が悪いと湿気がこもりやすく、サウナや岩盤浴のような状態になることがあります。こういう状況で扇風機をつけても、熱い空気がかき回されるだけで温度は下がりません。クーラーでしっかり冷やしましょう」

水分補給は塩分も一緒に

さらに、こまめな水分補給も重要だ。

「部活動や肉体労働など、激しい運動をしている人は大量に汗をかきますから、なおさらです」

水やお茶だけでは水分が十分体に吸収されないと言われているが、どのようにしたらいいのだろうか?

「塩分もしっかり補給してください。汗をかくと塩分も失われ、汗をたくさんかくタイプの人は汗1リットルで塩分が3〜4グラム失われるとされています。そうなると、筋肉がつったりします。梅干しや味噌汁などを意識してとるほか、塩分や糖分がバランスよく含まれ、体に吸収されやすい経口補水液を利用してもいいでしょう」

「水1リットルに梅干し2個程度で、経口補水液と同じ濃度になります。若い人では最近は塩入りの飴やタブレットも出てきていますので、そういうものを活用してもいいでしょう」

お年寄りはなぜ気づきにくい?

それにしても高齢者はなぜ特に熱中症になりやすいのだろうか。

「老化としか言いようがないのですが、歳を重ねると体温調節機能が落ちますし、暑さや喉の乾きなどの感覚が鈍り、環境や体調の変化に気づきにくくなるのです。また、診断はされていなくても、認知症がある場合はさらに気づきにくくなることが考えられます」

「独居や二人暮らしだと、体調不良に気づかずに意識を失い、発見が遅れる場合があります。この季節、離れて住む家族や周囲の人がこまめに連絡をとり、無事を確認したり、冷房や水分補給の注意をしたりすることも大事です」

「一方、『自称熱中症』と呼んでいますが、『フラフラして気分も悪いから熱中症だ』と思い込んでいたら、肺炎やその他の感染症、脳卒中など、もっと怖い病気を見逃す場合があります。涼しい環境にいてそういう状態になったなら、ほかの病気を疑ってかかりつけ医に相談するなどしてください」

普段から栄養、休養を取りましょう

そして、普段からの体調管理も重要だ。

「もともと体調が悪く、疲労が溜まっていると熱中症になりやすいことがわかっています。栄養と休養をしっかりとり、疲れや睡眠不足を残さないようにしてください」

【岩田 充永(いわた・みつなが)】 藤田保健衛生大学救急総合内科学教授

1998年、名古屋市立大医学部卒業。同大学病院、名古屋大学病院、協立総合病院で内科・老年科・麻酔科を研修後に名古屋掖済会病院救命救急センターで勤務、名古屋大学大学院老年科学にて博士号取得。2008年より名古屋掖済会病院救命救急センター副救命救急センター長、2012年10月藤田保健衛生大学救急総合内科准教授、2014年4月同教授。2016年藤田保健衛生大学救命救急センター長兼任。日本救急医学会救急科専門医、指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年病専門医



参考情報

「厚生労働省の熱中症予防リーフレット」

UPDATE

内容を一部更新しました。