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「いのちをまもり、医療をまもる」国民プロジェクト宣言!

厚生労働省の「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」は最終回。国民や医療従事者の命や医療を守るために、5つの方策を提案し、国民みんなで関わるべきプロジェクトであることを宣言しました。

記者も参加している厚生労働省の「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」(座長=渋谷健司・東京大学大学院国際保健政策学教室教授)は12月17日、とうとう最終回を迎えました。

私たちがまず打ち出したのは、ずばりこの宣言です。

医療現場が疲弊しており、このままでは持たないという危機感を共有した上で、すべての国民と、国民の健康を守るために日夜力を尽くす医師や医療従事者のために5つの方策を提案しました。

そして、これは誰もが他人事ではなく、国民すべてが関わるべきプロジェクトであることを宣言したのです。

医師の疲弊を放っておくと確実に医療現場は崩壊する

前回、提案が練り直しになったことを受けて、構成員はみんな、平日も土日も主にメールでギリギリまで議論を重ねてきました。完成したのは、懇談会が開かれた17日の午前中です。

日本の医療現場の疲弊ぶりは深刻で、疲れ果てて余裕のない医療従事者に診てもらうのでは、私たちの命も危うくなります。まずはこの現実を知ってもらおうと考えました。

週60時間以上働いている人の割合は、全職種中、医師がもっとも多く、6.5%が中等度以上のうつ状態で、3.6%が自殺や死を毎週または毎日考えるほど追い詰められています。

そんな状態の医師が働いていると何が起きるのでしょう。

8割近くが一歩間違えれば医療事故につながりかねない「ヒヤリ・ハット」を体験しています。

つまり、医療現場の疲弊は医療にかかる私たちの安全も侵すレベルにまで既に達しているのです。

何が問題か? 医療危機を招いている要因

そして、その危機は他ならぬ私たち自身の医療のかかり方が招いていることでもあります。

医療危機を招いている様々な要因

医療を受ける一般市民で言えば、軽症か重症かに関わらず、不安に駆られて大病院を受診したり、救急車を呼んでしまったり、夜間や休日でも医療機関にかかったりしてしまうことがあります。

また、体調が悪くても家でゆっくり休めない民間企業のあり方が、社員の夜間や休日の受診につながっていることもあるでしょう。

医療機関でも、家事や育児は女性がやるものという古い性別役割意識が根強く残り、男性医師は家事・育児のために家に帰りにくい職場の空気があります。

妊娠や出産で女性医師ばかりが当直のローテーションから抜け、男性医師や独身・子無し女性医師に過度な負担がかかるというバランスの悪いことが起きています。

行政側も医療現場を危機に陥れている課題を把握しながら、現場の声を反映しない政策をとってきた責任があります。

医療の恩恵を受けるすべての人が考え、参加し、行動を!

というわけで、私たちはこれはみんなが招いた危機だと考え、みんなで少しずつ自分のできることをすべきだろうと、全員参加の「国民プロジェクト」を提案しました。

柱として提案した5つの方策はこちらです。

「いのちをまもり、医療をまもる」国民プロジェクト5つの方策

患者や家族はわがままからというよりは、「万が一、大変なことになったら」という不安から、夜間や休日の医療機関にかかりがちです。

まず最優先でやるべきは、この患者や家族の不安を解消する取り組みだと考えました。そのために緊急時の相談電話やサイトを作って使ってもらい、信頼できる医療情報を見やすくまとめて提供することをしなくてはならないと考えます。

巷に溢れる医療情報は玉石混交で、一般の人は何を頼りにしていいのかわからない状態になっているからです。

また、このままでは医療は崩壊して大変なことになるという危機的状況があまりにも知られていないので、みんなで共有して、自分も行動を変えよう考えてもらうことが必要です。

さらに、医療機関には、医師以外にも看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士や作業療法士など、専門領域に人一倍詳しい専門職がたくさんいるのに、私たちはその力を十分活用しきれていません。

チーム医療を徹底して、薬のことならまず薬剤師さん、療養上の相談ごとなら看護師さん、栄養のことを相談したいなら管理栄養士さんなど、医師ばかりに頼るのではなく、もっとも知識がある専門家に頼ろうじゃないかと提案しています。

そして、この下に書かれていることがとても重要です。

私たち「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」構成員は、この5つの方策を国が速やかに具体的施策として実行し、すべての関係者の取り組みが前進するよう、来年度以降も継続的にコミットし、進捗をチェックし続けます。

こうした懇談会でありがちなのが、提言を出したら、あとはどうなっても知らないよという無責任な態度です。

提案は立派でも、結局それが実行されなかった、もし実行されたとしてもお粗末なもので終わったならば、何のために私たちは議論してきたのでしょう。

というわけで、この懇談会のメンバーは、ここで打ち出したことがきちんと実行されるか、来年度以降も、具体的にどういう事業を行うか、どういう業者に発注するかなどについて継続的に関わり、どれほど進んだのかチェックしていくことを誓ったわけです。

国民総力戦 それぞれが少しずつ、今すぐできることから

そして、それぞれの立場で何ができるか、具体例をあげてみました。

文字が小さくて読めませんね......。大きくしたのがこちらです。

市民のアクションの例を少しだけお伝えしますと、夜間・休日に受診を迷ったら、#8000(子ども医療電話相談事業)#7119(救急安心センター事業)の電話相談を利用することなどをあげました。もちろん、これは全国的に整備が不十分なので、行政の方で体制整備を進めるようにも書いています。

そして、画期的なのは、「チーム医療」を一歩進める「タスクシフト・タスクシェア(業務の移管や分かち合い)」を書き込んだことです。海外では、医師以外にも診療や薬の処方もできる診療看護師や手術の助手などを務める「フィジシャンアシスタント」などがいます。

こうした動きを日本も導入するよう促したのです。

構成員一人一人の願い

最後に共に議論を進めてきた構成員の一言を並べましょう。

渋谷健司座長「最終回ですが、これが最後ではなく、伝え方にしても何をするかは詰めていないし、前回、『伝え方をなめるな』という言葉があった。これから方向性は我々で検証しないといけない。現場の医師は苦労し、医療危機に瀕して特に若い先生方は泥沼のように働いていることを懇談会メンバーが共有したのは大きかった。ポジショントークというより、我々に何ができるのかを真剣に考えられたと思う」

阿真京子さん(一般社団法人知ろう小児医療守ろう子ども達の会代表「昨晩、身内が救急車で運ばれ、医療現場でコミュニケーションをとったり、こちらの気持ちを伝えたりすることは難しいと改めて感じた。それでもなお、手を取り合って医療をよりよくしてすることができたら。これはその大きな柱の一つになると感じています」

城守国斗さん(日本医師会常任理事)「都会で議論しており、地方の状況と乖離はある。市民のアクションとして、今後はかかりつけ医を持つことが役立つこともあるので入れていただければ」

小室淑恵さん(株式会社ワーク・ライフバランス社長)「民間企業の要因というところで、従業員が体調が悪い時に『明日の会議は休めない』と思うと、休日夜間の診療を自ら選んで受診してしまう。これは柔軟に休める民間企業側の体制がないことが一因になっていることは今まで結び付けられて議論されてこなかったがこの要素がしっかり入った。これを私自身も経営者にしっかり知らしめていく」

佐藤尚之さん(コミュニケーションディレクター)「これから伝えていくのはとても大変だと思う。進捗をチェックし、ちゃんと伝わっているか、ちゃんと進んでいるかを、懇談会で関わり続けるという宣言が非常に重いし、非常に意味があるなと思っている。今日は第一歩目として、これからも伝えるという観点からこのプロジェクトを見ていきたい」

鈴木美穂さん(NPO法人マギーズ東京共同代表理事)「10年前にがんになった時に、記者をやっていたにも関わらず上手な医療のかかり方がわからなかった。それ以来、がん患者やご家族が適切に医療にかかれるようにサポートしてきたつもりだが、情報提供をしている側にも関わらず知らないことがたくさんあった。宣言をまとめたところから、いかに国民に届く形で、医療を変えられる形で実行するかが一番大事だと思う」

デーモン閣下(アーティスト)「今日が最終回ですがゴールではない。むしろスタートなのだという認識だと思う。日本の医療が抱えている問題を洗いざらい出語っていただいて、我輩も素人、人じゃないので素魔(しろうま)という立場で参加しながら色々なことを知ることができた。我輩のレベルで国民も知らなければいけないと思っているが、一番伝えたいのは、特に医療の危機と現場崩壊は深刻ということだと我輩は思っている」

豊田郁子さん(患者・家族と医療をつなぐ特定非営利活動法人架け橋理事長)「一般市民は休日や夜間にまるっきりアクセス制限されてしまうのではないかという不安は拭えないと思う。目指すところは、緊急性のある重症の患者さんについてはしっかり、診て頂けるという仕組み、そして医師が倒れないという仕組みは守り抜かなければいけないと思う」

裴英洙さん(医師、医療コンサルタント)「医師の3.6%が毎週、毎日自殺を考えているというデータから言えば、医師は30万人いるので、1万人の医師が今、この瞬間にも死を考えているかもしれない。そんな待った無しの状態だからこそ次のアクションはすごく大事。総力戦ということで他人任せではなく、一人一人が我がこととして取り組んでいく決意表明と思う。アクション例は全てチェックボックスになっているのが気に入っている。このチェックボックスが一つずつ進んでいけば素敵な医療になる」

村木厚子さん(元厚労省事務次官、津田塾大学客員教授)「議論の中で、信頼できる人からもらった情報が一番響くのだということが一番印象に残った。例えば、生協なら二千数百万の世帯に届く。生命保険会社は加入者の人が健康を維持するための情報提供ができる。そういうルートを探して協力を得ていくとか、自分でできることを探していきたいと思う」

吉田昌史さん(延岡市地域医療対策室総括主任)「医療の啓発の取り組みは医療資源の乏しい地方の方が市民にしろ、行政にしろ進んでいると思う。この宣言をきっかけに医療資源が充足している地域の住民や行政の皆さんも医療の問題を自分ごとと捉えてやっていただければいいかなと思う」

岩永直子(筆者)「これは最終まとめだが、たたき台にすぎない。SNSでもすでに様々なご意見をいただいている。これを利用し、国民のみなさんが議論し、参加していい医療を作ってほしい」

【1回目】まずは信頼できる医療情報を集めたサイトを これからも安心して医療にかかり続けるために

【2回目】「#上手な医療のかかり方」で国民的な議論を 「チーム医療の推進」「時間外受診の回避」実現できるか?

【3回目】「医療のかかり方検定は?」「乳児健診や両親学級を活用して」 上手な医療のかかり方をどう伝えるか

【4回目】
「上手な医療のかかり方」まとめ案、練り直しへ 「もっと国民目線で」「危機感を共有しよう」

【特別インタビュー】人間の健康のために力を尽くす悪魔のメッセージ 「日本の医療は危機に瀕しているぞ」


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筆者の岩永直子は、この懇談会に参加する構成員です。謝金は辞退し、何のしがらみもなく、自由に議論の内容を報じていきます。