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「バイキング」のバッシングにもの申す 深澤真紀さん、松本俊彦さん薬物報道を斬る(番外編)

対談後にフジテレビの情報番組『バイキング』でピエール瀧さんバッシングが行われたのを受けて、お二人が緊急にコメントを寄せてくださいました。対談番外編です。

ピエール瀧さんの摘発後、「厳罰よりも治療を」とコメントして一時炎上した獨協大学特任教授でコラムニストの深澤真紀さんと、そのコメントを絶賛した薬物依存症の専門家、松本俊彦さんの対談。

対談(3月23日)の後の3月28日、フジテレビの情報番組『バイキング』で再び、ピエール瀧さんやその作品を特集する番組をバッシングする内容が放映され、批判を浴びました。

「これは見過ごしておけない」と深澤さんと松本さんが緊急にコメントを寄せてくださったので、対談番外編としてお届けします。

司会の坂上忍氏 過剰な自粛に反対する市民団体に「説得力がない」

まず、3月28日の『バイキング』で放映された内容を振り返っておきましょう。

この日は、ピエール瀧さんが出演した作品や、過去の音楽作品の販売停止などの自粛対応について特集されました。

最初に、依存症の当事者や専門家らで作る市民団体「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」が業界の関連各社に送った要望書「電気グルーヴ ピエール瀧氏の出演作品に対する撤収・放映及び公開自粛・撮り直し等の措置の撤回を求める要望書」を紹介しました。

これに対し、司会の坂上忍さんは、「説得力がない」と切り捨て、「薬物に手を出しちゃったら、こんな大変なことになるんですよ! 出演しているものはオンエアーもできないし、損害賠償だし、大変なことになるから、やめてくださいよっていう意味も含まれている」と自粛対応が予防につながるかのように語りました。

また、出演した薬丸裕英氏は「まず手を出すことがいけないのに、その罪を償わずに更生の方にと言っているように聞こえた」と坂上さんの意見に同調。

さらに、自粛対応への抗議の意味を込めてライブストリーミングサイト・DOMMUNEが電気グルーヴの音楽を特集した企画へ大きな反響があったことについても取り上げました。

出演者の森公美子氏は「TwitterでDOMMUNEがトレンド1位って、誰かが『1位になろう』って呼びかけたんじゃないですかね? DOMMUNEって知ってる人ってこの中にいます?」と、この反響が視聴者の自発的なものではなく、サイトの売名行為のようなものだと推測します。

これに、坂上氏も「おれ、森さんの話きいて、ああっ、確かにと思って。(DOMMUNE)知らなかったもの」と同調しました。

この放映に対し、「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」の一人としてコメント取材に応じた田中紀子さんは、「同調的に取材をしながら、いざ番組本番になったら、真逆の取り上げ方をした意図は何なのか?」と番組に問いただしたところ、番組プロデューサーは「正当な論評の範囲であると考えています」と回答したそうです。

BuzzFeed Japan Medicalもフジテレビの企業広報室に見解を求めたところ、ネットワークの要望書について放映した内容に対しては、「依存症問題の正しい報道を求めるネットワークからご連絡を頂き、現在、話し合いをしている最中です。先方もあることですので回答は控えさせて頂きます」と事実上、回答を拒否。

DOMMUNEのトレンド1位をやらせの売名行為かのように出演者が語ったことについては、「DOMMUNEの企画意図をご紹介したうえで、多角的な視点で議論を行ったものと考えております」と回答し、会社としても問題とは考えていない認識を明らかにしました。

リテラ女性自身日刊サイゾーは『バイキング』の放映内容に対し批判記事を展開しました。

深澤真紀さん「ワイドショー世論の横暴さはあきれられている」

今回のバイキング問題は、薬物問題への理解不足だけでなく、ネットでライブ配信されるDOMMUNE、そしてTwitterのトレンドランキングなどの、ネット社会への理解不足によるものや、「ネットは叩いてもいい存在だ」という意識も大きかったのでしょう。

しかし視聴者にとってはもう、ワイドショー世論のあり方や、横暴さはあきれられているのです。

ちなみにDOMMUNEは2010年に開始され、音楽界やネット界ではかなりメジャーな存在です。またDOMMUNEのような生配信は、それを見ながらTwitterでつぶやく人が多いため、ランキングに入りやすくなり、今回は46万人以上が視聴したのですから、ランキング入りも当然でしょう。

今回のDOMMUNEの試みは、いまの地上波やメジャーレーベルではできないことであり、薬物問題の支援のあり方として、大きな意味があったと思います。

また、メディアが依存症を取り上げる場合、松本さんや荻上チキさんたちの提案によるガイドラインが重要になります。

そのなかでも、ワイドショーでとりあげるときには、治療につながる情報として、「薬物問題や依存症問題でお悩みの方は、厚労省のサイトや、地域の保健所精神保健福祉センターへ電話を」などと、フリップやテロップなどでだすことをぜひしてほしいと思います。

また薬物問題当事者による作品を、公開や販売する場合は、上記の情報を出すこと以外に、薬物問題や依存症問題を支援するための募金活動や、支援運動を打ち出してもいいのではないでしょうか。

「お金を出す作品であれば、公開や販売してもいいのでは」という声もある一方で、「そのお金が、薬物流通の裏社会に流れるのでは」という反発もあるからです。

作品の収益の一部を、薬物や依存症問題に充てることで、そういった批判にも応えられると思うのです。

松本俊彦さん メディアは私的制裁ではなく有益な情報を

私たちが、2017年1月に「薬物報道ガイドライン」を公表したのは、決して「メディアは著名人の薬物事件をいちいち報道するな」という気持ちからではありませんでした。

むしろそうした報道をきっかけに、視聴者の中に必ずいる、薬物問題を抱える当事者本人や家族に、「相談窓口があるよ」「逮捕以外の解決策もあるよ」「回復している人もいるよ」ということを伝えてもらいたかったのです。

ですから、深澤さんが提案した、「ワイドショーでとりあげるときには、治療につながる情報として、『薬物問題や依存症問題でお悩みの方は、厚労省のサイトや、地域の保健所精神保健福祉センターへ電話を』などとフリップやテロップなどでだす」という意見には大賛成です。

もちろん、薬物問題当事者による作品の収益の一部を、依存症問題に充てるという提案もよいと思います。そうすれば、人々に納得が得られるでしょう。

この機会に、教養として知っておいてほしいことが2つほどあります。

1つは、「違法ならば危険で、合法なら安全」とはいえない、ということです。2010年に権威ある医学雑誌『ランセット』に掲載された論文によれば、個人の健康と社会に対する有害性が最も深刻な薬物は、ヘロインやコカイン、覚せい剤を抑え、ダントツでアルコールであることが明らかにされています。

もう1つは、厳罰だけが薬物問題の解決策ではない、ということです。

実は、数年前までのアメリカは、ヨーロッパ諸国に比べて大麻に厳しい態度をとってきました。それにもかかわらず、国民の大麻経験率はヨーロッパの国々のおよそ1.5倍高かったのです。

また、オランダ国民の大麻経験率は、他のヨーロッパの国々より低く、さらにポルトガルでは、違法薬物の使用・所持を非犯罪化(違法ではあるが、刑罰は与えない政策)したところ、国民の違法薬物経験率が低下しています。

こうした知見を踏まえ、近年、国連は「薬物問題は健康問題」と宣言し、各国に非犯罪化を勧告しています。

私自身の臨床経験を振り返ってみても、刑罰の限界は実感として体験しています。実際、刑務所出所直後、あるいは執行猶予や保護観察の終了直後に薬物の再使用が多いのは、そのよい証拠でしょう。

いずれにしても、メディアが第一義的になすべきことは、人々の「シャーデンフロイデ」(成功者を引きずり下ろすことの快感)を満たすエンターテインメントを提供することではありませんし、ましてやバッシング報道によって私的な制裁を加えることでもありません。

そうではなく、多くの人がいまだ知らない有益な情報を正しく知らせること――これこそがメディアの役割ではないでしょうか。

【深澤真紀(ふかさわ・まき)】獨協大学特任教授、コラムニスト 

1967年東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。いくつかの出版社で編集者として勤め、1998年企画会社「タクト・プランニング」設立。2006年に日経ビジネスオンラインで命名した「草食男子」が、2009年流行語大賞トップテンを受賞。

『ニュースの裏を読む技術ーー 「もっともらしいこと」ほど疑いなさい 』(PHPビジネス新書)、『輝かない がんばらない 話を聞かないーー働くオンナの処世術』(日経BP)、『女オンチーー女なのに女の掟がわからない』(祥伝社黄金文庫)、『ダメをみがくーー"女子"の呪いを解く方法 』 (津村記久子との対談、集英社文庫など著書多数。公式サイト

【松本俊彦(まつもと・としひこ)】国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長

1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神救急学会理事。

『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『よくわかるSMARPP——あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)、『薬物依存症』(ちくま新書)など著書多数。

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