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「仕事ばかりしてないで遊んでください!」 みんなが少しずつ適当な社会へ 深澤真紀さん、松本俊彦さん薬物報道を斬る(5)

深澤真紀さん、松本俊彦さんの対談最終回は、いい加減さを許す社会にしていくために、大人こそ遊べと呼びかけます。

薬物報道の問題から、メディア論、世代論、“男らしさの呪い”問題にまで話題が広がってきた獨協大学特任教授で、コラムニストの深澤真紀さん、薬物依存症の専門家、松本俊彦さんの対談。

最終回の5回目は、日本全体を覆う”男らしさの呪い”から抜け出すための処方箋を話していただきました。

誰も幸せにならないルールをなくしていこう

ーー日本の社会を窮屈にし、女性や若者だけでなく、おじさん自身も苦しめている“男らしさのの呪い”について話が盛り上がってきましたが、そこから逃れるためには何が必要なのでしょうか?

深澤 日本では誰もがどこかでしんどさを抱えていると思います。みんなが苦しいのに、互いにルールを押し付けあって、さらに窮屈になっています。

中学校や高校の校則がまた厳しくなっていて問題になっていますが、中学生に対して「白い下着以外禁止」なんていう校則を作って、誰も幸せにならないのに、一生懸命それを守らせていている。

私が大学の講義中に、「通知音さえ出さなければLINEはやってもいいよ」って言ったら、学生が「なんでいいんですか?」って聞くんです。

「講義内容について、友達と感想をいいたいときに、おしゃべりだとうるさいけど、LINEならうるさくないし」と言うと、「講義中にLINEは不真面目だから、禁止にすべきです」と、逆に学生から言ってくることもある。厳しいルールに慣れてしまっているんですね。

松本 その若い子たちがおじさんたちの文化に対抗して、多様性を認める寛容さがあるにも関わらず、ルールに厳格、というのを変えるには、どうしたらいいですかね。

深澤 いい加減さを内包する社会になればいいと思います。私は高校時代から、今思えば精神疾患の影響もあったと思うのですが、授業に出られないことも多かった。

でも、文化祭の演劇の台本を書いたり、修学旅行の企画をしたりとか、他に役に立つところがあったので、「深澤は授業に来ないこともあるけど、修学旅行を全部計画してくれたしいいか」みたいに、先生からもお目こぼしをされた。

今はどんなにプラスがあっても、一つでもマイナスがあると評価されなくなることが多いんです。だから今の学生は、とにかくマイナスがつかないようにするしかないんです。

もっと緩く サボったって大丈夫

松本 大学の講義もサボらないですよね。

深澤 私は350人の講義を二つ持っているんですけれども、毎回8割くらいの学生が出席していますし、期末レポートも9割以上提出してくるので、大変です(笑)。

それは彼らのいいところでもあるんですが、別に授業なんて途中で抜けたっていいし、それこそLINEだってしてもいいし、学校なんか半年ぐらい来ないで旅にいってもいいと思うんですよ。

私は学生時代に風呂なしアパートに住んでいて貧乏だったので、銭湯代も節約できるしと思って、3週間風呂に入らないことがあったんですよ。こんなことは若い時にしかできないし。

松本 まあそれはそうですけれども(笑)。

深澤 そう言うと、学生から悲鳴が上がりますから。ヒャーって。「冬休み中で、ほとんど誰にも会わなかったし、頭もお湯で洗ってたし、タオルで体は拭いてたよ」って言ったら、「そういう問題じゃなくて、非常識なんですよ!」って怒られるんです(笑)。

大人が「実は私たちはダメだった」と明かす

深澤 今の学生は貯金もたくさんしているんです。どうしてかと聞くと、「年金は出ないだろうから、老後が心配だ」と言うわけです。私もそうでしたが、松本さんも若い頃、そんなこと考えてなかったでしょう?

松本 そんなの考えずにマルイでむちゃなローン組んじゃったりしてましたね(笑)。

深澤 私はオタク趣味にお金を使っていたので、30歳の会社員のころ、貯金がありませんでした。これを話すとまた、学生がザワザワするんですけれども。

それなのに今の若者は将来のための貯金も必要だし、一回外れたら戻れないと思い込まされている。

松本 今の若い子の親世代はきちんと会社に入っているけど、それは優秀だったからではなくて、時代が良かったんですよね。

深澤 そうですよ。私たちバブル世代の就活は、その下の就職氷河期世代とは全然違いましたから。

松本 僕が診察室で会うリストカットとかしているような子たちは、20歳になったらこうならないといけない。30歳になったらこうならなくてはいけない、っていう厳格な基準がある。

「内なる優生思想」のようなものがあって、自分にいつもダメ出しをし続けているんです。周りの多様性は認めるんだけど、自分に対しては全然多様性を認めていないです。

深澤 自分に対してとても厳しいから、自分が許せない。「ダメな時期はあってもいいんだよ」って言い続けないといけないです。

松本 もしかすると昭和のオヤジが自慢話ばかりしているから、そうなっちゃたのかもしれないですね。

楽しむ人、休む人への激しい怒り

深澤 若者は、私たちバブル世代への嫌悪もあるんですけど、バブル世代が話す武勇伝とかほら話を信じちゃうんですよね。「昭和世代の武勇伝はだいたい盛りに盛ってるから、真剣に聞くことないよ」って言っています。

そういえば私たちの時代は、高校に入るために浪人したり、高校を留年する学生もそこそこいたじゃないですか。

松本 ええ。

深澤 今は、高校どころか、大学ですら浪人も留年もレアケースになりつつあります。今の学生に、高校浪人や高校留年の話をすると、信じないくらいですからね。

松本 僕らの時は高校は四年制みたいな感じでしたよね。

大学もダブったり。18歳で大学に入る国は他にないし、22歳で会社に入って、そこから60歳まで働く社会も日本だけじゃないですか。1ヶ月休むことも日本では許されないでしょ。

深澤 私も高校卒業後は、4年生として駿台予備校に1年通いました(笑)。日本では18歳で大学に入るのが常識ですが、諸外国の平均は22歳です。でも日本は18歳で大学に入り、22歳で会社に入って、そこから60歳、65歳まで働く社会です。働き始めてしまったら1ヶ月休むことも日本ではなかなか許されない。

会社員の友人に「常勤の大学教員には、1年間のサバティカル(長期休暇)があることが多い」というと、「ずるい」と怒る。でも会社員であっても、サバティカルはあったほうがいいですよね。

今の日本では、勉強もスポーツも趣味も、小学生から大学生までがするもの。そこから先は会社生活をメインにして、週に1回のフットサルや夏のフェスぐらいは行けるけど、サバティカルなんてもってのほかなわけです。

私自身は仕事ばかりしていると、精神疾患が悪化してしまうので、仕事でパンクしてしまわないように、趣味の予定もきちんと決めるんですね。この時期には旅行に行くとか、週に2日は休んでマンガ読んだり海外ドラマ見たりとか。学生も、「この先生は50歳過ぎても楽しそうに生きてるな、そんな人生もありなのか」とも思うようですね。

大人こそが遊んで手本を見せろ

深澤 私が中高年の方向けの講演でよく言うのは、「みなさんが楽しいこと、やりたいこと、定年になってからやろうと思っていること、それは定年してからじゃなくて、40代や50代の今のうちにやりませんか?」ということです。

「忙しいから無理」という反応ですが、「定年になってからだと、体力もお金もない、という可能性もありますよ」と伝えます。

日本では、とくに男性にとっては、20代から50代までは滅私奉公的に働く時期なんですね。そういう我慢を続けることでストレスが生まれ、ストレス解消するための趣味などの時間がとれないので、薬物やアルコールなどの依存症に近づいてしまう部分もあると思うんです。

今の時代でも中高年男性の多くは、仕事が人間関係が中心になってしまう。高度経済成長期からバブル期にかけて作られた働き方や生き方のシステムは、とっくに機能しなくなっているというのに。

ーーこれまでの生き方はダメだったんだと、言っていくのがいいんですかね。

深澤 今までの時代にはそれが合っていたのかもしれないけれど、今は古いOSのうえに最新のアプリを走らせているみたいなものですよ。価値観というOSが古くなってしまったのだから、そのバージョンアップをやっていくしかないです。

私たちの世代はもしかしたら古い価値観で逃げ切れるのかもしれませんが、若者はそういうわけにはいきませんから。だからこそ私たちが率先して価値観を変えて、若者が少しでも生きやすい社会を作っていくしかない。

昭和の男よ「猿山の争い」から降りろ

ーーおじさん文化、おじさんカルチャーみたいなものにダメ出しすることについて、松本先生はどう感じますか?

松本 まず若い人は厳罰主義だし、「ダメ。ゼッタイ。」教育がすごく強化された世代なんですよ。僕らの時はなかった。

それから外来に来る、覚醒剤、薬物依存症の方の多くが実は僕らの世代なんです。一番多いのは40代後半から50代半ばぐらい。悲しき中年男なんですよね。

昔は薬使いながら面白おかしく気持ちいいことをやっていたのかもしれないのですが、今は人生の最終周を回って、奥さんに隠れて、ビジネスホテルにこもって、薬を使いながらマスターベーションをしているんですよ。

それで自己嫌悪に陥る。またくだらないことやっちゃいましたよって。中年の昭和の男は鎧を脱ぐことが必要なんでしょうね。

深澤 最近いいなと思うのは、おじさん世代にバイクが流行しているんですね。私も中型免許を持っているんですが、バイクって危険な乗り物でもあるけれど、ストレスも解消される。

ほかにも、旧車とか自転車とかスキーとか、若い頃にはまっていたオタク趣味とかに戻っている人が増えているのはいいことだなと思います。そうすると、若者も「おじさんも楽しそうにしているんだ」と感じるでしょう。

やはり大人が人生を楽しんでいないと、若者は未来に夢が持てないですから。日本の高校生は「将来に夢がない」と答える率が、先進国で一番多いんですね。

そうするとワイドショーは、「今の若者は夢がないなんて情けないですね」って伝えるんですが、これは若者の問題ではなくて、私たち世代が楽しそうじゃないから、それに対する評価として「将来に夢がない」ことにつながっていて、私たちこそ反省しなくちゃいけない。

松本 確かにそうですね。

松本さんも仕事ばかりしていないで遊んでください

深澤 若者が「ああいうおじさんやおばさんなら、年をとるのも悪くないかな」とかと思えるように、私たちはしんどいときには休み、楽しみも持ち続けた方がいい。

松本 つまり、まとめると、おじさんたちが「猿山の争い」から降りて、セラピーを受けたり、意地をはったり、強さを誇示するんじゃない姿を下の世代に見せる。それで楽になりましたと強がらない表情を出していることが大事なんでしょうかね。

深澤 そういう社会になってくると、外れてしまった人に対しても、責めるよりも、支え合おうと思えるはずです。みんなが我慢し続けて、監視し合う社会よりも、逃げ道を教え合えるる社会の方がずっといい。

Netflixに入って海外ドラマをみるだけでもいいんですよ。月額1000円くらいですしね。「楽しいことなんてない」っていう同世代の友人に、「Netflixにはいって、これとこれとこれを見て」って言うと、「面白いから今日は仕事切り上げて、続きを見よう」ってなりますよ。

松本 そうですか…...。

深澤 Netflixも見ませんか。松本さん仕事ばっかりですか?

松本 結局僕ももろに昭和一筋だから。

深澤 松本さんの仕事は本当に尊敬してますけど、少しは休んだり、遊んでくださいよー。

松本 (うなだれる)そうだよねー。

深澤 仕事が趣味なのかもしれないませんけど、それ以外にも、もうちょっと楽しそうにしてほしいんですよね。大人なんだから、たまには愚行もしてくれないと。

松本 愚行ですか!(大笑い)。

深澤 うちは夫婦で「明日は好きな海外ドラマの新しいシーズンが一気に配信されるから、なにもしないでそれを見るぞ!」とか、パジャマのままで一日見続けたり、愚行の日々ですよ(笑)。

「自分に寛容で多様な生き方ができる社会にしたいね」という話をしていても、その人が仕事ばっかりしてたらーーそれもまあ多様性なのかもしれませんけどーーロールモデルとしてはどうなんでしょうね(笑)。

松本 なんか、自分に刃が向いてきちゃった......(大笑い)。今日お話をさせていただいて、視野が広がりました。

(終わり)

【深澤真紀(ふかさわ・まき)】獨協大学特任教授、コラムニスト 

1967年東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。いくつかの出版社で編集者として勤め、1998年企画会社「タクト・プランニング」設立。2006年に日経ビジネスオンラインで命名した「草食男子」が、2009年流行語大賞トップテンを受賞。

『ニュースの裏を読む技術ーー 「もっともらしいこと」ほど疑いなさい 』(PHPビジネス新書)、『輝かない がんばらない 話を聞かないーー働くオンナの処世術』(日経BP)、『女オンチーー女なのに女の掟がわからない』(祥伝社黄金文庫)、『ダメをみがくーー"女子"の呪いを解く方法 』 (津村記久子との対談、集英社文庫など著書多数。公式サイト

【松本俊彦(まつもと・としひこ)】国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長

1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神救急学会理事。

『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『よくわかるSMARPP——あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)、『薬物依存症』(ちくま新書)など著書多数。

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