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アフターピル(緊急避妊薬)のオンライン処方 産婦人科医の6割超が「望ましい」

避妊の失敗や性暴力による望まぬ妊娠を防ぐために使われるアフターピル(緊急避妊薬)。市販薬化やオンラインでの処方が議論されていますが、産婦人科医の有志によるネットでの緊急アンケートでは、多数が利用者が手に入れやすくすることに賛成でした。

避妊の失敗や性暴力などによる望まぬ妊娠を防ぐために使われるアフターピル(緊急避妊薬)。

医療現場の根強い反対で市販化が見送られ、オンライン処方も制限されていますが、利用者が手に入れやすくすべきだという声も大きくなっています。

そこで、望まぬ妊娠や強姦被害を診てきた産婦人科医の有志9人が5月20日〜26日に、主にSNSで産婦人科医に緊急アンケートを実施しました。

日本産科婦人科学会や日本産婦人科医会に所属する559人の回答を分析したところ、6割以上がアフターピルの市販化とオンライン処方のいずれも肯定しました。

アンケート発起人の一人、産婦人科医の宋美玄さんは「アフターピルについては、日本産科婦人科学会や日本産婦人科医会が様々な制約を求める声明を出していますが、それが産婦人科医の総意だと思われたら不本意です。産婦人科医の生の声を届けるために行いました」と語ります。

宋さんにこの結果について解説していただきました。

性交後72時間以内 夜間休日に処方しにくい現状

まず、緊急避妊薬がどんな薬かおさらいしておきましょう。

ノルレボの場合、無防備な性交後から72時間以内(早ければ早いほど効果は高い)に服用します。臨床試験では、81%の確率で妊娠を阻止できるという成績が出ています。

妊娠中は、胎児の外性器の男性化、女性化という副作用が起こる恐れがあるため飲めません。通常の避妊方法として飲むことはできず、短期間に何度も使うと避妊効果は低下します。

保険適用はされておらず、医療機関によって違いますが、1万5000円から20000円の価格で販売されることが多いようです。ジェネリック(後発医薬品)も発売されましたが、それでも1万円を切る程度で販売されることが多いと言います。

そしてこの薬は、現在、市販化されていないため、医師から処方してもらう必要があります。

つまり、医療機関が開いていない夜間や休日に必要になった場合、手に入れるのに苦労する可能性があるのです。

アンケートでは、処方できる施設で勤務経験があった産婦人科医が97.5%を占めましたが、夜間休日に処方しているのは62.6%に止まりました。

「夜間休日は婦人科救急があるような病院に処方が限定されています。現状では、手に入りにくい状況があるのは事実です」と宋さんは話します。

オンライン処方も市販薬化も「望ましい」が多数派

厚生労働省の検討会は、性犯罪被害者など利用できる女性を限定してオンライン処方を解禁する方針を固めました。

また、日本産科婦人科学会日本産婦人科医会はオンライン処方を認めるにしても、3週間後の対面診療、診療医を産婦人科に限定、医療者が見ている目の前で服用するなどの制約を求めています

それでは個々の産婦人科医はどう考えているのでしょうか?

オンライン診療になるのが望ましいか聞いたところ、「非常にそう思う」が17%、「そう思う」が45%と、全体の3分の2に当たる62.2%が望ましいと答えました。

そして、有意差はありませんでしたが、若い世代ほど、オンライン処方に賛成する割合が増える傾向にありました。

ただし、オンライン診療でも専門家の関与を希望

ただ、オンライン診療の担い手については、「産婦人科に限定すべき」を選んだ人が「非常にそう思う」「そう思う」を含めて54.7%と過半数となりました。

これについて宋美玄さんはこう語ります。

「せっかく医師に診療してもらうなら、アフターピル以外の確実な避妊法や、月経にまつわる症状を聞きながら低用量ピルを飲む動機付けにしてもらいたいのではないでしょうか」

「私個人はどんな診療科でもいいと思っています。オンライン診療をしている産婦人科医自体が少ないですから、窓口を限定してしまうと患者さんは見つけにくくなるでしょう。アクセス改善につながらないのを心配しています」

実際に、緊急避妊薬を処方する時、今後は女性が主体的に避妊をするために、低容量ピル(OC)や子宮内避妊用具(IUD)などの避妊法について説明するか聞いたところ、「必ずそうしている」が47%、「大抵はそうしている」が35%と、82%にのぼりました。

また、確実に飲んだことを薬剤師が面前で確認する必要があるか聞いたところ、63.2%が「非常にそう思う」「そう思う」を選びました。

これについて宋さんは、「転売や悪用のリスクを恐れてということなのでしょうけれども、現状の対面診療でも内服確認をしていない医師も多いという結果でしたけれどもね」と話します。

また、3週間後に対面受診をする必要があると肯定した産婦人科医は31.1%に止まり、オンラインで全て完結していいという考えが7割近くと多数派でした。

「3週間以内に明らかな月経があったら、受診は必要ないと思いますし、市販の妊娠検査薬もあります。対面受診を必須とする医学的な根拠はないと思います」

オンライン診療の利点と課題は?

オンライン診療について経験がある27人(4.8%)にその利点を尋ねたところ、「産婦人科過疎地の女性が緊急避妊薬にアクセスしやすくなる」(23人)が最も多く、「緊急避妊薬がより普及する」(18人)、「産婦人科の敷居が下がる」(8人)がそれに続きました。

逆に課題について聞いたところ、「薬剤が手元に届くまでに時間がかかる」(22人)が最も多く、「クレジットカードを持たない人(10代を含む)が使えない」(18人)、「転売のリスクがある」(11人)、「性暴力を見つけにくくなる」(8人)も多く見られました。

中には、「オンライン診療ではメルカリなどでの転売や、男性の購入(緊急避妊すればいいと丸め込まれて女性が被害に遭う)の懸念がつきまといます」

「特に性暴力被害者で内服後の十分なケアや、適切な避妊指導や支援ができるか? オンライン診療で、かえって問題が闇の中に消えていかないのか?」

「すでに妊娠している人も何人も経験しています。必ず診察は必要だと思います」

と疑問を投げかける声もあります。

これについて、宋さんはこう考えます。

「オンライン診療でも画面越しに顔をみながらお話をするので、男性が購入しやすくなることではないと思います。性暴力の被害者については、証拠の採取もできますし、警察に繋げることもしやすいので、私も対面の方がいいということには賛成です」

「ですが、現状のオンライン診療の検討会では、性暴力被害者などに処方を限定しようとしており、それはおかしいと思います」

市販薬化も66.6%が賛成

一方、市販薬化を検討した厚労省の別の検討会で、緊急避妊薬は認められませんでしたが、アンケートで市販薬化して薬局で買えるようになるのが望ましいか聞いたところ、66.6%が賛成しました。

「速やかに簡単な方法で入手できることが望ましい、市販薬化に賛成」

「薬剤師の指導の下であれば、OTC化はあり」

「きちんと避妊に繋げられる指導ができる薬剤師が渡す市販薬化が現状では目指す方向」

と薬剤師の指導に期待をかける声が目立ちました。

厚労省の検討会でもオンライン処方は認められる見込みですが、実現後も市販薬化を目指して議論を継続すべきかという問いに、74.1%が継続すべきとしています。

これについて宋さんは、こう分析します。

「産婦人科医は既得権益を守るために緊急避妊のアクセスのハードルが下がることに反対していると世間は思っているかもしれませんが、市販薬化に賛成している産婦人科医が多数派という結果が出てほっとしています。産婦人科医は女性の健康を守るための職業なので、女性の主体的な妊娠のコントロールのために、アクセスしやすい方がいいと考える人が多いのではないでしょうか」

手に届きやすくすると同時に性教育の普及を

緊急避妊薬を市販薬化やオンライン診療などで手に入れやすくしようとする動きに、反対する医療関連団体は、「性教育を優先すべきだろう」という主張を繰り返してきました。

ただ、オンライン診療化や市販薬化に賛成の声が多い今回のアンケートでも、緊急避妊薬を利用しやすくするには、効果的な避妊についての知識の普及(性教育)が必要とした人は98%にのぼり、ほとんど全ての産婦人科医が賛同しています。

患者に性教育が行き届いていないと感じる人は約95%もおり、約75%が学習指導要領を改定するなどして保健の性教育の授業を充実させる必要があると答えます。

性教育には産婦人科医も関わることがあり、性教育を充実させるために「専門家による外部講師の授業を必須にする」も74.6%が賛同しましたが、実際にやった経験のある医師に聞いたところ、「主催者によって内容に制約がかけられた」と答えた医師も44.8%に上りました。

宋さんはこう訴えます。

「確かに、産婦人科診療の現場では患者さんの基礎的な知識が不足していることを実感する場面が多いです。でも、その原因は個人にあるのではなく、日本の性教育がこれまでずっと貧困であり続けてきたことが元凶ではないでしょうか。産婦人科医は女性の患者さんと接する機会が多いですが、男性の方も性や生殖の知識が十分とはとても言えません」

「性教育をもっと充実させていくべきですが、それは、緊急避妊のアクセス改善を後回しにする理由にはならないと思います。同時に進めていくべきだと思います」

今の議論の流れだとアクセスは改善されない

望まぬ妊娠から女性の身を守る緊急避妊薬。市販薬化は見送られ、オンライン診療も様々な制約がかけられそうになっているが、果たして無防備な性交後に不安を抱えている女性が手に入れやすくなるのだろうか?

宋さんはこう訴える。

「せっかく緊急避妊薬のオンライン診療が解禁になっても、性暴力被害者に限定されたり、オンライン診療を行っている産婦人科医を探したりしないといけないとなれば、現状より緊急避妊薬にアクセスしやすくなるかどうか疑問です。また、オンライン診療解禁で議論が打ち止めとなるのではないかと心配しています。オンライン処方解禁に関わらず、性教育の充実や市販化を訴え続けないとならないと考えています」