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気をつけよう!子どもの誤飲 年末年始の帰省や訪問客の環境は危険がいっぱい

米国の3〜4倍も誤飲事故のリスクは高いのです

年末年始になると旅行や祖父母宅への帰省、または自宅に多くの訪問者が来るケースも多いかと思います。

そのような年末年始の環境で気をつけなくてはいけない子どもの事故、何だと思われますか?

それはなんと言っても「誤飲」です。誤飲とは口に物(食物を含む)を入れて起きる事故のことです。

子どもが誤飲しやすいものの一覧

実は日本は家庭用品の誤飲事故が多く、米国の3~4倍と言われているのをご存じでしょうか。その理由は土足を脱いで床や畳で生活し、子どもの手の届くところに物がたくさん置いてあるためと考えられています。

生後5ヶ月を過ぎると、子どもは何でも口にするため、誤飲の事故が増えます。特に6ヶ月から2歳までの男児に多いとされていますが、実はその4割は誤飲現場を目撃されていないという報告もあります。

小さなお子さんのいるご家庭では、「さっきまであったはずの物がない」場合に、「子どもが誤飲したかも」と考えることは誤飲の事故を見逃さないために大事なことです。ちなみに口からとは限らず、鼻や耳に入れていることもあるのですが......。

誤飲、どんな事故があるの?

さて、誤飲には大きく分けて3通りあります。

1.気道異物(窒息と誤えん)

食物や異物のせいで空気の通り道(気道)を塞いで呼吸ができなくなったり(窒息)、気管支に入ってしまう場合(誤えん)のことです。

3歳以下の気道異物事故は食べ物が多いと言われています。丸くつるつるした食品(ピーナッツや枝豆、ミニトマト、キャンディーなど)やかみ砕きにくい食べ物(グミやお餅、団子、こんにゃくゼリーなど)があります。ピーナッツは有名ですが、枝豆も多いことはあまり知られていません。

窒息、誤えんしやすい食べ物

気管支に入った場合には、最初は突然の咳き込み等がありますが、しばらくして一旦収まってしまうことがあります。一見元気なため、もしも誤飲する場面を見ていなければ異物誤飲と気づかれずに過ぎてしまい、あとから長引く咳や肺炎などで検査をして診断されることもあります。

「気道異物はすぐ分からないこともある」は知っておくといいでしょう。

ではこの気道異物の事故を防ぐためにはどうしたらいいでしょうか。3歳以下のお子さんでは奥歯が生え揃っておらず、上手にかみ砕けないと言われています。

したがって、

  • 4歳から与える
  • (3歳以下で与える場合には)小さく砕いて与える


を心がけることが大切です

2.異物誤飲

食べ物ではない固体の異物が食道や胃に入ってしまう場合です。

色々なものがありますが、ここではとくにボタン電池と磁石の話を中心にまとめます。

【意外と危ないボタン電池】

ボタン電池の誤飲は最近増えていると言われています。

飲み込むと胃や食道の粘膜で放電してアルカリ性の液体ができ、粘膜を溶かして消化管に穴を開けることも。でもほっとけば便と一緒に出てくるから大丈夫でしょ!そんな声も聞こえてきそうです。

そこでボタン電池誤飲のリスクを目で見てわかりやすいように実験しました。

黒いのは生成された水酸化物で溶けたベーコンです。

特にリチウム電池は大きくて(直径20mm以上の物が多い)、食道に引っかかりやすいです。食道の粘膜が傷つくと穿孔したり、動脈を傷つけて大出血を起こしたり非常に危険です。

またリチウム電池は電圧が他のボタン電池と比べて高いためアルカリ性の液体を多く作り、より粘膜を溶かす力が強いです。食道に留まると30分~1時間ほどで粘膜傷害を起こすとされています。

ボタン電池を子どもの手に届かないところに置いておけば大丈夫、

と思われる方もいらっしゃるかもしれません。実はボタン電池誤飲の6割はむき出しの電池の誤飲ではなく、機器に入っている物を子が蓋を開けて取り出して誤飲しています。蓋が外れないような工夫が必要です。

ボタン電池とボタン電池が入っているもの

万が一飲み込んだ際は、飲み込んだ電池と同じ物か、種類(型番)の情報が分かる物をご準備ください。

また吐かせたり何かを飲ませることもお勧めしません。

その理由は病院での処置の内容です。ボタン電池誤飲に対して、病院では内視鏡、もしくは外科手術を行います。いずれも乳幼児の場合は全身麻酔のため、おなかの中に水分などがたくさん入っていると処置中に吐いて窒息の原因になることもあり危ないのです。

また内視鏡で見るときも、胃の中に物がたくさん入っていない方が視野が得られて処置もしやすいです。とにかく大事なのは一刻も早く病院(手術などの処置が可能な総合病院)に連れて行くことです。

【複数個の磁石は胃や食道に穴を開けることも】

おもちゃの磁石のほかに、磁石を絆創膏に接着させた家庭用健康商品などでの誤飲があることも知っておくといいでしょう。

磁石は2個以上飲み込むと、磁石に食道・胃・腸の粘膜が挟まれ詰まってしまったり穴が開いたりしてしまうため、内視鏡などで取り出す必要があります。すぐに病院を受診させてください。

複数飲むなんて、と思われるかもしれませんが、磁石を飲み込んだ子の4割が複数個飲んでいたという報告もあるのです。また磁石が1個でも他に金属を飲み込んでいれば複数磁石と同じく緊急事態です。最近は磁力が非常に強いネオジウム磁石によって消化管に穴が開いてしまった事故の報告もあります。

【コインや鋭利な異物】

頻度の多いのは硬貨です。食道に留まっていれば急いで取り除かないといけませんので、すぐに受診する必要があります。裁縫針や魚の骨など鋭利な異物の場合、腸管に穴を開けたり、ひっかかったり、内臓を損傷したりする可能性があると言われており、これも緊急度が高いです。

すぐに病院を受診してください。

3.薬物誤飲

医薬品や化学薬品を飲み込んでしまう場合のことです。日本では薬物誤飲の8割近くが5歳以下と言われており、子どもの事故として気をつけなくてはいけません。

原因として最も多いのはたばこですが、最近は喫煙人口の減少につれて頻度は減っており、2位の医薬品とほぼ拮抗しています。通常普通のたばこは苦いのでたくさん誤飲することは少ないですが、たばこを浸した灰皿の水はニコチンが濃縮されており危険です。

電子たばこのニコチンカートリッジもニコチンが濃縮されており、また小型であることから、むしろ普通のたばこ以上に誤飲すると危険と言えます。

最近増えているのはトイレ用洗浄剤(トイレ用スタンプ洗剤など)や洗濯機用パック型液体洗剤です。

おもちゃやゼリーなどのお菓子と間違えてしまいそうなカラフルな商品が多いですが、特にパック型液体洗剤は毒性が強く、入院したり、海外では死亡する事例も出ています。

誤飲を防ぐためにできること

誤飲を予防するために家庭でできることをご紹介します。

  1. どんなサイズの物を誤飲するのかを知る 3~15歳までの子どもの口の大きさは最大39mmと言われており、それより小さな物は乳幼児でも誤飲します。成人の親指と人差し指で作った輪の大きさやトイレットペーパーの芯が目安です。
  2. 小さな生活用品は乳幼児の手の届かない高さに(1m以上)
  3. 小さなおもちゃは4歳から与える
  4. ピーナッツなどの豆類は4歳から与える
  5. 大きな食品は小さく刻む
  6. 異物を口に入れているのを発見したときは、発見者が大声を出して慌てたり叱ってしまうと、こどもがびっくりしたり泣き出して飲み込んでしまうことがあるので、慌てず優しく口から出させる。


飲み込んだら危険なものは子どもの手の届かないところに

受診の目安はこちらを参考にしてください。

1.救急車で受診

  1. 何かを口に入れた直後に苦しそうな呼吸をしている
  2. 窒息・顔色が青白い
  3. けいれんしている
  4. ぐったりして呼びかけてもぼんやり
  5. 灯油、ガソリン、ベンジン、除光液、農薬、殺虫剤、ネズミ駆除剤を飲んだ場合

このような場合には救急車です。

窒息したり、けいれんしていたりしたらすぐに救急車を

2.気道に物が詰まったときの対処法

慌てて口の中から取り出そうとすると、窒息状態が悪化するので試みてはいけません。

乳児では大人の太ももの上にうつ伏せに乗せ、片方の手で顔を支え、頭を胸より低い状態にします。もう片方の手の付け根で背中の真ん中を何度も連続して強くたたく背部叩打と言うやり方があります。もう少し大きなお子さんはハイムリック法と言うやり方もあります。

具体的なやり方については、以下のYoutube動画がわかりやすいです。

YouTubeでこの動画を見る

youtube.com

日本赤十字社が作った気道にものが詰まった時の対処法


3.救急車でなくてよいが、すぐに受診

何かを口に入れた直後に以下の症状がある場合

  1. 突然の咳き込み   
  2. 声がかすれている  
  3. ゼイゼイ、ヒューヒューしている
  4. 「診療時間内の受診」でいい物以外を飲み込んだ場合

このような場合は、夜間でも翌日まで待たずに急いで受診してください。

最近は飲み込んだ物を自宅で吐かせたりする処置は、誤えんを招く危険性もあり、勧められていません。

4.診療時間内の受診

少量のインク、クレヨン、絵の具、粘土、化粧品(口紅、ファンデーション)、せっけん

ただし心配な場合は電話などで相談の上受診を検討してください。

受診や対応について迷った場合には

年末年始は医療機関も休みになり、受診可能な医療機関も限られています。適切な処置に迷ったときには「小児救急電話相談(#8000)」に電話してください。

中毒についての相談はこちら

日本中毒情報センター : 困ったときは「中毒110番」に電話を(電話番号は日本中毒情報センターのHP内に記載)

異物誤飲で受診したときに病院で伝えてほしいこと

  1. 何をいくつ誤飲したか? 異物の特定は非常に大切です。したがって誤飲した物と同じ物やパッケージをご持参ください。
  2. どこで誤飲したか?
  3. いつ誤飲したのか?
  4. 来院までに行った応急処置の有無と内容
  5. 嘔吐や腹痛など何か症状はないか

飲み込んだ異物を特定する情報を持っていこう


最後に、改めてこれまでの内容を簡単にまとめた一覧を載せておきます。

誤飲事故を起こしやすいもの一覧表

今回の特集で、年末年始のお子さんの誤飲事故が少しでも減るお役に立てればと願っています。

【参考文献】

松裏裕行:誤飲・誤嚥.小児内科48:1780-1782,2016

吉岡隆文他:ボタン電池誤飲.レジデントノート14:2908-2914,2013

北澤克彦:保護者への説明マニュアル(誤飲・誤嚥).小児科診療77:1699-1704,2014

古田靖彦他:胃・消化管異物の診断と治療,小児外科37:885-891,2005

原田正平:誤飲による子どもの事故.チャイルドヘルス20:273-276,2017

長村敏生:乳幼児の誤飲事故の特徴と対策.小児科臨床69:2617-2624,2016

沖剛他:異物誤飲.小児科診療81:181-187,2018

日本小児外科学会:リチウム電池に関する警告

【坂本昌彦(さかもと まさひこ)】佐久総合病院佐久医療センター 小児科医長

2004年、名古屋大学医学部卒業。愛知県や福島県で勤務した後2012年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。2013年ネパールの病院で小児科医として勤務。2014年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。所属学会は日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本小児国際保健学会。小児科学会では救急委員、健やか親子21委員を務めている。資格は小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。

現在は保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務める。同プロジェクトのウェブサイトはこちら