TikTokで人気を集める「eガール」アメリカのトレンドを解説しよう

    ゼロ年代は「シーンガール」の時代だった。そしていま、私たちは「eガール」の時代を迎えている。

    アプリ「TikTok」を開くと、画面には10代の少女が現れる。彼女の髪は半分が緑で、もう半分が黒。一方の手にピンクのチークのコンパクトを持ち、もう一方の手にブラシを持っている。

    ボイスオーバーが、「心配しないで。みんなが思ってるようなことなんてしないから」と言う。1998年の映画『ハーフ・ベイクト』からのクリップだ。

    その言葉に合わせて口を動かしながら、彼女は頬と鼻にチークを塗り、まるで日光に当たりすぎたみたいな顔をつくっていく。

    TikTokを使ったことがない人には、これが何のことなのだかさっぱりわからないだろう。だが、知っている人にとっては、この少女こそ、まさに「eガール」そのものだ。TikTokで生まれ、そこで生きる新しいタイプのクールな女の子たち。彼女たちはファニーでキュートで、何から何まで90年代的だ。そして、人の期待をもて遊ぶ術も熟知している。

    TikTokを使うユーザーは、最長15秒の動画を作成して、そこにポップミュージックや、自分でアップロードしたサウンドを流すことができる。TikTokが2018年にアプリ「Musical.ly」と合併した大きな理由だ。

    TikTokの親会社であるByteDanceは現在、世界で最も評価額の高い非上場スタートアップと考えられている。これまでにTikTokは、全世界で8億回以上ダウンロードされている。

    TikTokは一見、Musical.lyのような「口パク」アプリに見えるかもしれない。けれどもユーザーたちは、TikTokをそれだけにとどまらないアプリへと進化させた。

    いまやTikTokは、このプラットフォームにしか存在しないミームやトレンド、チャレンジをホストする場となっている。6秒の動画を共有するアプリとして人気だったが2017年1月に終了した「Vine」の再来と呼ばれているのも、うなずける話だ。

    TikTokを支持しているのは、FacebookとTwitterを鼻であしらい、Instagramを愛する若い世代だ。そこは創造のための場所であるだけでなく、パーソナルブランディングを練習するための場所でもある。自分のパーソナリティーを強調したり、1からそれを作り上げたりするための場所なのだ。TikTokといえばミームの共有で有名だが、クールに見えることや、面白いと思ってもらうこと、そして「いいね」をもらう場でもある。

    10代特有のアイデンティティーへの渇望と、「いいね」を得ようとする意欲が混ざり合ったなかで、eガールは生まれた。そして、彼女たちはクールだ。

    eガールは、TikTokでは非常に目立つユーザー層となっている(そして彼女たちは、TikTokだけにしか存在しないようだ)。彼女たちはおもにティーンエイジャーだ。eガールの特徴は、奇妙なこだわりと、独特のアイロニーがあることだ。

    彼女たちの外見で最も象徴的なのは、そのメイキャップ、つまり黒く濃いアイライナーと、目の下に同じアイライナーで描かれるウイングなどのキュートな模様だ。模様はハートが多いが、ドットや「X」のときもある。それらが、美容ブロガーに憧れて育った者ならではの確かな腕で描かれている。

    頬と鼻には、色鮮やかなチークがさっと塗られ、ハイライトが鼻先に軽く入れられる(鼻には、鼻中隔を通すセプタムピアスがつけられていることが多い)。唇には、透明のグロスか、ダークマットな口紅が塗られている。

    定番のヘアスタイルは、ハーフ・ピッグテール。ビーニーをかぶらない場合は、生え際にヘアピンをいくつか使うこともある。髪の色は、何か手を加えて不自然にすることが多い。半分を黒、もう半分を別の色にするのが人気だ。

    いちばんジョークの感じられるスタイルは、ボーダー柄の長袖トップの上に、オーバーサイズのバンドTシャツ。ボトムは、ベルト付きのハイウェスト・パンツか、アニメに出てくるかわいい女の子が履くような長いフレアスカートだ。

    eガールの多くがビデオゲームをプレイし(ただし、ゲーマー女子と間違えないように)、アニメを見、ビリー・アイリッシュやリル・ピープらの悲しい曲を聴く。ファンとの情報交換の場は、アプリ「Discord」だ。

    eガールは、まだ賞味期限の切れていないミームや、ゲーム「フォートナイト」のダンスの踊り方を知っている。そんな彼女たちの頭のなかでくり返し再生されているのは、有名なユーチューバー、PewDiePieのディストラック(誰か・何かを「ディスる」歌詞を含む曲)「Bitch Lasagna」だ。

    eガールを、ゼロ年代半ばに登場した「シーンガール(scene girl)」の現代版のようなものと考えてもいいかもしれない。シーンガールと同じように、eガールにも反抗的な要素がある。シーンガールやエモガールは、当時のパリス・ヒルトンのようなスタイル、セレブ・ブランド「ジューシー・クチュール」的なプレッピーさに対するカウンターだった。同じようにeガールも、顔写真の修正アプリ「Facetune」で顔立ちを整えたInstagramインフルエンサーたちに対するカウンターと言えるかもしれない。

    eガールにはバリエーションがあり、誰かひとりがすべてのステレオタイプを体現しているわけではない。TikTokの「For You」ページをしばらく開いていれば、さまざまなeガールがそこに次々と現れてくる。

    eガールはTikTokのいたるところに出没するようになっており、いまや「eガール工場(egirl factory)」動画というジャンルまで誕生している。こうした動画のなかで、彼女たちは「eガール工場」と書かれた部屋のなかに消え、上述のスタイルへと変身する。

    このブームをあざ笑っているようにも見えるが、ジェラシーと、おそらくは称賛のトーンもそこにはある。「eガールになったら、ずっとほしかった『いいね』がもらえるかな?」と彼女たちは問いかける。

    しかし、「eガール」という言葉自体は以前からある。この言葉はTikTokに起源を持つわけではないのだ。俗語を解説する「アーバン・ディクショナリー」に載っているいちばん古い「eガール」の定義は2013年のもので、そこには「ネット上のふしだらな女」と書かれている。

    ゲーマー男子たちを、美貌と意味深なそぶりで誘惑する女子。その目的は、「興味関心」という、最も貴重な商品を得ることだ。ようするに「eガール」とは、「自分と同じ趣味を持つ女子は、自分の時間とエネルギーを声高に要求してくる」という男子の空想から生まれた、女性を侮辱する言葉だった。

    若い男子のエゴが折れずに支えられるよう、若い女子たちには、彼女たちの興味関心(この場合はビデオゲームへの関心)を減退させようとする言葉がたくさん投げつけられる。eガールとはそうした言葉のひとつなのだ。

    しかし、TikTokのeガールたちはこの言葉を恐れていない。たしかに、この言葉は皮肉を込めて使われることもある。われ先に彼女たちの鼻をへし折ろうとしている人もまだ大勢いる。だがTikTokのeガールたちは、自分たちが人気を集めていることを知っている。フォロワー数や、彼女のたちのまねをする人が大勢いるという事実が、そのことを証明している。本人たちは、自分たちが侮辱されているなどとは思っていない。自分たちのかわいさを自覚し、力を手に入れたように感じている。

    マーリーは16歳。両親と21匹のペットいっしょにコロラド州で暮らしている。TikTokでは「thiccbeefcake69」の名前で通っていて、ディスプレイネームは「juul rips for jesus」。TikTokに15万人以上のファンがおり、230万件の「ハート」(「いいね」)を獲得している。

    「eガールっていつも呼ばれるけど、私にはどうでもいいこと。肩書みたいなものだから」とマーリーは言う。

    動画のなかで彼女は、TikTokミームと「eガール」というものの両方を定義する皮肉っぽいユーモアを披露する。たとえば、ふてくされながら頬と鼻にチークを塗るといった動画だ。彼女はここがTikTokであることをわかっている。そのあしらい方を知っている。

    皮肉(アイロニー)は、Z世代のユーモアに欠かせない要素だ。たとえ彼らが、この言葉を正しく使っているとはかぎらないとしても。例えば、いまやミームのページは、「皮肉っぽい」ミームのページに道をゆずっている。YouTube上のTikTok「おもしろまとめ」も、「皮肉」色が強いものに取って代わられている。これが示唆するのは、何にもまして「自己認識」だ。そしてマーリーは、こうした自己認識をたくさん持っている。

    彼女がTikTokを始めたのは去年の10月だった。しかし動画を何本か投稿したあと、すぐにやる気をなくしてしまった。「摂食障害や不安障害、うつ病にずっと苦しんできたの。人から、デブとかブスとか言われるのがつらかった」とマーリーは言う。そのあとすぐ、彼女はTikTokを削除した。

    しかしその後、彼女の動画の1本が爆発的な人気を集め、「いいね」を2万件獲得していることがわかった。マーリーはTikTokをダウンロードし直した。彼女のアカウントは爆発的人気となり、たった数日で1万人のフォロワーを獲得した。

    「私にはTikTokの才能があるかも』って思ったわ」とマーリーは言う。

    eガールファッションがすっかり板についているマーリーだが、これまでもずっとそんな格好をしてきたし、それがいまになってTikTokでクールとみなされていることが不思議でならないと話す。

    マーリーはオンライン育ちだ。彼女が初めてYouTubeチャンネルを開設したのは9歳のときだった。彼女のTikTok動画は楽しいもので、アプリ・ミームでいっぱいだが、本人は自分の存在について真剣に考えており、恐れることなく本音を語る。

    彼女はトランスフォビアについてや、自身がバイセクシャルになった経緯についても話す。「遠慮せずにちゃんと話すわ。たとえば、注目を集めようと思ってトランスフォビア的な冗談を言うのはよくない、とかね」

    「そのことで攻撃されることもあるけど、気にしない。私がプラットフォームを持つとしたら、役に立つ使い方をしたいから」

    TikTokで人気者になることにはマイナス面もある。マーリーにひどいことをするユーザーもいるのだ。そのなかには、不適切な性的要求をしてきたり、ときには、金を払うから写真を撮らせろと言ってきたりする年上の男性もいる。

    「同じような目にあっている友達もたくさんいる。すごく気持ち悪いわ」と彼女は話す。

    アートスクールに通う学生のアシュリー・エルドリッジ(19歳/マサチューセッツ州在住)は、TikTokでは「ash.jpg」として知られている。彼女がTikTokを始めてからまだ数カ月前しかたっていないが、すでに彼女には4万人近くのファンがついている。

    「楽しいかもって思ったの。友達に冗談で、『アニメのなかの女の子みたいな格好をしたら、私も有名になれるかな』って言っていたんだけど、ある日本当にそうしてみた」とアシュリーは語る。「それから、eガール全体が流行みたいになった」

    アシュリーのTikTokは、彼女たちeガールの一部が、どのように自己を意識しているかを示す好例だ。アシュリーは、オンラインで人気を集めている女子、とくにeガールに対して、自分と同じ年ごろの男子がどんな反応を示すのかを熟知している。

    「ねえ、どうして男子って、女子がeガールになるとキレるの?」と、彼女は最近の動画のなかで問いかけている。「いい、ジョナサン? どのみちあなたは私を性の対象として見るようになるの。だったら、ネットで手っ取り早く稼ぐために、私がこれをしちゃいけない理由って何なの?」

    「たしかに、仲間から評価されたり、リスペクトされたりするのはクールなことよ。でも、もっとクールなのは何なのか、知りたくない?」と、彼女は別の動画のなかで問いかけている。「キッズアプリで、いい感じに有名になることよ」

    彼女の動画には、皮肉がたっぷりと込められている。それらの一部はパフォーマンスに見え、また別の一部はリアルに見えるため、どちらが本当なのかはわからない。彼女がeガールファッションを崩すことは決してない。

    「すべて冗談だし、演技だし、完全な皮肉よ。でも、本当に私は毎日こんな服装をしているし、毎日こんな化粧をしているわ」とアシュリーは話す。

    そのせいで、彼女も「ヘイト」の対象になっている。嫌がらせをするのは、おもに男たちだ。かつて登場したクールな女子たちと同じように、eガールも、自分が集めるポジティブな注目を楽しむ大胆不敵さゆえに嫌われている。こうしたヘイトは、女子に対する偽善的で性差別主義的な考え方をまさに示すものであり、TikTokに限られた話ではないとアシュリーは言う。

    「人からeガールと呼ばれても、不快には思わない」とアシュリーは語る。「注目されたがってるっていうコメントも。だって、それこそみんながTikTokでしていることなんだから」

    マーリーと同じようにアシュリーも、年上の男性から気持ち悪いメッセージを受け取っている。そして、これもマーリーと同じように、ユーザーたちがeガールを愛していたとしても、TikTok自体は必ずしもそうではないということを理解している。私が取材した女の子たちは、TikTokが家族向けと考える以外の動画を投稿した場合、その動画を削除させられていた。

    「スカートが短かすぎて、ショーツが見えていたせいで、動画を削除させられたわ」とアシュリーは語る。「露出度の高い服を着ていたら、削除することになったり、おすすめの『For You』ページに表示されなかったりする」

    マーリーの場合は、彼女がシャワーを浴びているショートクリップがあったせいで、動画を1本削除させられた。カメラに写っているのは首から上で、彼女がヘアカラーを洗い落としているところを撮影したものだった。

    しかし、こうした「ヘイト」の一方で、TikTokは彼女たちを守ってもいる。

    ディヴァン(19歳/メリーランド州在住)は、TikTokでは「Buffi」の名前を使っている。4万3000人のファンがおり、その格好をしているときは、動画に「eガール」のタグをつけている。TikTokが厳格であるおかげで、アプリを使っていても、それほど嫌がらせを受けずに済んでいると彼女は話す。むしろ、そういう目に遭いやすいのは、ほかのソーシャルメディアのアカウントだという。

    「私の場合、写真をゲットできるように、SnapchatとInstagramのアカウントをTikTokと連携させているわ。いろんな人が、お金を払うからあれをしろ、これをしろって言ってくる」と彼女は話す。

    ディヴァンは、マーリーやアシュリーとは異なり、先日のコンサート会場でeガールファッションに身を包んだ女子を実際に目にしたという。しかし、3人は口をそろえて、もしTikTokがなかったら、いまのようなブームにはなっていなかっただろうと言う。

    生みの親が何であれ、eガールたちは単なる一過性のブーム以上の期間、TikTokで生き残り、お互いのなかにコミュニティーを見つけてきた。彼女たち3人は、TikTokへの投稿を続けているのは、これまでに受けてきたサポートと、築いてきたつながりのおかげだと話す。

    実際、TikTokが自分の人生を変えてくれたと、マーリーは話す。

    「TikTokでボーイフレンドと出会ったの。親友の何人かとも出会ったわ。TikTokには不思議な力があるのよ」と彼女は語る。「私の人生はすっかり変わったわ」

    けれどもそれ以上に、TikTokでの人気が自分に力を与えてくれていると、マーリーは話す。そのおかげで、自分を新たな視点で見れるようになったというのだ。

    「昔からずっと、みんなに私のコメディーやコンテンツを楽しんでもらいたいと思っていたの。そしていま私には、面白いと思ってくれるフォロワーたちがいる」とマーリーは語る。「そのおかげで、私なんて何の価値もないという考えを乗り越えられるようになった」

    こうしたことは、eガールは、いまという時代にしか生まれ得ない存在であることを示している。世代特有の性向と、90年代ファッションの復活、そして自己表現にうってつけのアプリという3つが合流したことで、eガールは生まれた。けれども彼女たちには、時代を超えた普遍性もある。

    デジタルであろうとなかろうと、どんなプラットフォームでも、10代の少女たちは常に、自分探しの方法を見つけてきた。eガールたちは、新たにその流れに加わっただけなのだ。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:阪本博希/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan