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命の値段は、日本人の10分の1。外国人実習生の死亡事故、その過酷な現実

死亡した多くが、10〜30代の若者だった。

外国人技能実習生の死者数が、2010年からの8年間で少なくとも174人にのぼることが明らかになった。

技術を学ぶ名目で日本にきて、客死した彼女ら、彼らのうち118人が20代。これからを担うはずだった若者たちだ。

特徴的なのは、心不全など心臓や脳の疾患で倒れた人の多さだ。外国人技能実習生の問題に長年取り組んできた専門家は、その多くが過労死である可能性を指摘している。

死者数については12月12日、法務省から資料を入手した立憲民主党の有田芳生参議院議員がTwitterで公開。BuzzFeed Newsも同様のものを入手した。

それによると、国籍は▽中国98▽ベトナム46▽インドネシア12▽フィリピン6▽タイ4▽ミャンマー3▽モンゴル3▽ラオス2の計174人。

うち20代が118人で、溺死が25人、自殺が12人、凍死が1人。以下のように、死亡原因が細かく記されているものもある。

  • 東日本大震災で津波に巻き込まれて溺死した(中国28歳、24歳男性2人、牡蠣養殖)
  • ロープが絡まり漁具とともに海中に落下、そのまま行方不明になってしまった(インドネシア19歳男性、漁船農業)
  • 水道管の工事中に生き埋めになった日本人従業員を助けようとして巻き込まれた(フィリピン28歳男性、配管)
  • パソコン用LANケーブルで首を吊って自殺していた(フィリピン33歳男性、夫人子供服製造)


多くが過労死の可能性

外国人問題を専門とし、外国人労働者や実習生を長年支援している指宿昭一弁護士は、BuzzFeed Newsの取材に対し、「脳や心臓の疾患による死が非常に多い。長時間の労働による過労死が含まれていると思います」と指摘した。

日本国際研修協力機構(JITCO)の資料によれば、2015〜17年度で死亡した実習生計88人のうち、死因で最も多いのは、脳・心臓疾患の23.3%。作業中の事故(20%)を上回った。自殺は6.7%だった。

外国人実習生の間では実習先からの失踪が相次ぎ、2017年に7000人を超えた。待遇の悪さや勤務の過酷さが問題視されている。

「脳・心臓疾患の多くは過労死と考えられます。また、自死も職場環境に起因するものが多いのではないでしょうか」

失踪した実習生2870人に法務省がヒアリングをし、野党がその結果を分析した結果、10%(292人)が過労死ラインである月80時間を超える残業をしていたことがわかっている。

「実習生の多くは20~30代の若い人たちです。それなのに、これだけの脳・心臓疾患死が出るのは多すぎる。過酷な労働実態を表している資料だと言えます」

法務省の8年分の資料をみると、死亡した174人のうち脳・心臓疾患死は少なくとも35人。うち10代が1人、20代が22人、30代が12人と、20代が一番多い(BuzzFeed News調べ)。

一方、厚労省によると、日本人の脳・心臓疾患による労災請求(死亡)は2016年度は261件。うち10代は0件、20代が5件、30代は34件だった。また、17年度も241件のうち10代は0件、20代は9件、30代は26件だ。

実習生は20代が多いために単純比較はできないが、異なる傾向が出ていることがわかる。

遺族による申告ができない可能性

外国人実習生の労災死比率は、10万人当たり年平均で3.64人で、日本の雇用者全体の労災死の比率は1.73人(2014〜17年平均)を大きく上回っていることが厚労省のまとめで明らかになっている。

実際、法務省の事例からは、このような例が散見される。

  • 作業場で爆発事故が起こり、吹き飛ばされ落下(中国22歳男性、溶接)
  • 80度の塩酸プールに転落(中国26歳男性、めっき)
  • 鍛造用プレス機に挟まれた(ベトナム22歳男性、鍛造)
  • 漁船が転覆し、そのまま行方不明となった(インドネシア26歳、男性)


ただ、労災認定される可能性が高い場合でも、そもそも遺族が日本にいないことから、本人が死亡した際に申告しづらい、という実態もある。

「死亡事案については、遺族が日本にいないことから、疑わしいと思ったときに申告する人がいないことも問題です。実際の労災死亡の割合は本当は増える可能性があります」

命の値段が10分の1に

その上で指宿弁護士は、制度そのものの問題点をこう指摘した。

「低賃金で文句を言えずに働いてくれるとしたら、使用者はそういう労働者に仕事を振りますよね。残業を抑制しようという考えは出てこない。長時間労働をさせるインセンティブが働いており、構造的に過労死や過労自殺を生み出す形になっているのです」

さらに、仮に労災として認定され、民事責任を企業側に問うた場合の補償額にも差が出てくる。

「金額が日本人と違うんです。逸失利益は将来の収入がいくら見込めるかを基礎にして失われた利益を計算します。ただ、日本とアジア諸国では10倍近い開きがある。慰謝料も、遺族が生活している地域の物価水準を考慮するのでがくんと下がるんです。命の価格に差別がある」

「日本人は、補償額が億単位を超えることもある。一方、外国人では国によってはの10分の1になることもあります。労災事故が起こるなら実習生をたくさん呼んで事故を被ってもらったほうが、使用者にとってメリットがあることになる」

家族とバラバラになり…

少しでも死者や、事故を防ぐために。どう対策をすべきなのか。

「日本人と同等の賃金をしっかり払い、長時間労働を抑制する。時間外には割増賃金を払うことを徹底することが第一です。安全衛生については、工場の張り紙なども働く人の話すすべての言語でやるべきです。受け入れ側の労働安全の体制をしっかり作らなければいけないと思います」

さらに、「ホームシックでメンタルを病んでしまうこともある」とも語る。

改正された入管法では、外国人労働者の家族帯同を5年間を許さないとしている。実習制度を含めれば、最長10年だ。

「メンタル面に関しては、職場や地域社会のフォロー体制だけではなく、国も気軽に相談できるような窓口を設置して、フォローをすべきではないでしょうか。ただ、まずは家族の帯同を許すべきでしょう。家族とバラバラになることは精神的な負荷になるのですから」

政府・与党は今国会での入管法の改正を成立させたが、この審議過程で実習生制度が抱える問題点が浮き彫りとなったと言える。

成立を急いだゆえ、制度の詳細は今後定める政省令で決まる。国会での説明が求められており、野党側も追及を続ける構えだ。