たった一人で始めた「イスラーム映画祭」が凄い ヘイトな人を変える出会い

    1月14日から、東京都内で第二弾が開催されるこの映画祭。企画から広報まで、ひとりの男性が担っている。テーマは「異文化理解の場」だ。

    映画好きの男性が、「手弁当」で開催している映画祭がある。「イスラーム映画祭」。2年前に初めて開催したときは、口コミで話題が広がり、立ち見が出るほど大盛況だった。

    2017年1月14日からは、15年に引き続き東京都内で第二弾が開催される。もちろん今回も、手弁当だ。企画から広報まで、ひとりで担う。

    なぜそこまでして、イスラム圏の映画を見てもらいたいと考えているのか。

    赤字覚悟で開催、その理由とは

    ひとりで企画を切り盛りしているのは、藤本高之さん(44)。接客業で働くかたわら、映画選びから配給会社・映画館との交渉、さらには広報までを手がけている。

    なんで、ここまで映画祭にこだわるのだろうか。BuzzFeed Newsの取材に笑顔でこう語った。

    「赤字覚悟でやっています。酔狂なんですよ」

    スポンサーも助成金もなく、収入はチケット代だけだ。前回は1週間の会期に約2700人が訪れ、「半分は立ち見」と大盛況だった。それでも、収支は「トントンくらいだった」という。

    選んでいる映画はどれも、その国で普通の暮らしを営む人たちの生活を垣間見れるようなものが多い。政治的だったり、戦争などが絡んでいたりするものは、できるかぎり避けているそうだ。

    今回のテーマは「異文化理解の場」。 なぜなのか。

    「テロに関するニュースが多いなか、ムスリムに対する感覚が麻痺している人が多いと思うんです。私は宗教に詳しいわけではありませんが、自分の足でそういう国に足を運んできたから、偏見はない。過激派がなにをしようと、一般のムスリムが違うのはわかっています」

    「映画というのは、その国を訪れるような擬似体験ができるものだと思っています。だからこそ、その国々の人たちの生き方が見えるような映画を見てもらいたい。そうして、身近に感じてもらいたいんです」

    映画を見てもらえれば、変わる

    藤本さんがイスラム文化に触れたのは、脱サラしてバックパックをしていた25歳のころだった。

    バングラディシュの首都ダッカで夕焼けを見ていたときのこと。モスクのスピーカーから「アザーン」(礼拝の呼びかけ)が流れ始めた瞬間が、いまでも忘れられないという。

    「あの美しさには、とても感動しました。日本にはない文化の印象は強烈で、イスラムに一気に興味を持つようになったんです」

    もともと海外の映画が好きだった関係もあり、様々な映画を見るようになった。いままで気がつくことのなかった、人々の暮らしや、生き様を知ることが出来たと感じている。

    「イスラームは平等や平和を教えている宗教なんですよね。もしかしたら、同じように映画を見てもらえれば、同時多発テロ後に広がったイスラムや中東に対するネガティブなイメージを変えられるのでは、と思うようになったんです」

    世界を平等に見るために

    仕事の合間を縫って、映画祭の構想を練りはじめたのは5年ほど前。なんとか開催にこぎつけたのが、2015年12月だった。

    毎日のように、劇場は満員御礼。予想外の反響に驚いたが、藤本さんのもとに寄せられるのは、どれも良い反応ばかりだった。

    「映画には力がある。そう感じるようになりました」

    熱意はほかの人たちまで伝わり、大学教授や翻訳家など、イベントを手伝ったり、応援したりしてくれる人たちも増えてきたという。

    いま願うこと。それは、ひとりでも多くの人に、来場してもらうことだ。

    「ヘイト・スピーチとか、外国人への排外主義などが騒がれる時代。こういうポジティブなイメージを大きくしていくための活動は、きっと、草の根でも大事なのだと思います」

    「あるお客さんが言っていました。『僕は、世界を平等に見たい』。少しでも偏見があるかも、と思っている人には、ぜひ足を運んで、そのイメージを変えてもらいたいですね」


    イスラーム映画祭2は17年1月14〜20日まで、東京・渋谷のユーロスペースで。名古屋では1月21〜27日、神戸では3月25日から開かれる。

    エジプトやバングラデシュ、チュニジア、イラン、パキスタンのほか、キリスト教徒が多いレバノンや、タイやインドなど、ムスリムがマイノリティーになっている国の映画も取り上げるという。トークセッションも予定されている。