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中学生を匿名ブログで中傷 66歳男性に侮辱罪で略式命令

匿名者によるヘイトスピーチが、刑事処罰の対象になることは極めて珍しい。

在日コリアンルーツの男子中学生(当時)をネット上の匿名ブログで誹謗中傷したとして、大分市に住む66歳の男性が侮辱罪で科料9千円の略式命令を受けていたことが、1月16日わかった。

被害者の弁護団が同日、発表した。ネット上の匿名者によるヘイトスピーチが侮辱罪で処罰された例は初めてだという。

略式命令を受けたのは、「写楽・・・支那・韓国朝鮮の真実『写楽』ブログ 日本が大好きでアンチ&排除支那韓国朝鮮ブログ」(タイトルは当時)の管理人だ。

そもそもの発端は、2018年上旬に川崎で開催された音楽イベントに関する新聞記事だ。地元紙で、在日コリアンルーツの男子生徒のコメントが紹介されていた。

「写楽」ではこの新聞記事や生徒の本名を掲載した、「在日という悪性外来寄生生物種」というブログ記事を公開。

「日本国内に『生息』している在日」「おまエラ不逞朝鮮人」「チョーセン・ヒトモドキ」「通名か本名に統一しろよ」などという言葉を並べていたという。

ブログ記事は、男子生徒の名前で検索すると上位に表示されていた。

また、この「写楽」に限らず、ネット上では匿名掲示板をはじめとし、同様の書き込みが大量にされていたという。

管理者は「侮辱の意図ない」

男子生徒と家族から相談を受けた弁護団は2018年2月、中でも悪質だったブログ「写楽」の刑事告訴を検討。

管理会社のサイバーエージェントに任意の発信者情報開示を請求し、仮処分申し立てを経てIPアドレスを入手。プロバイダへの発信者情報開示を実施した。

この段階でブログ記事も削除された。管理者の男性は「侮辱する意図で作成したものでもございません」としていたが、弁護団は川崎署に侮辱罪での告訴状を提出。12月20日に川崎簡易裁判所が略式命令を下し、2019年1月に確定した。

男子生徒は以下のようなコメントを出した。

「ほっと安心しましたが、このブログに書かれたひどいヘイトスピーチを見た時の恐怖やショックを忘れることはできません。僕だけでなく僕の家族みんなが傷つき、家族みんなが被害を受けました」

「祖母と同じ世代の人が自分にこんなひどいことをしたという事もショックです。今後はインターネットでも実生活でももう二度と人を差別しないでほしいです」

今後、男性に損害賠償を求める民事訴訟の提訴も検討している。


大量の書き込み、追いつかない削除

一方、弁護団は裁判所の判断を「ネット上の匿名ヘイトスピーチが刑事で処罰されたことは珍しく、知る限り侮辱罪では初めて」と評価。以下のようにコメントしている。

「単にコリアンルーツをもつというだけで人間であることすら否定され、侮辱されて人格を非常に傷つけられ、また、一度ネットで書かれると、それが拡散され、完全に消去することはむずかしいことなど被害の大きさを考慮すれば当然のことである」

ただ、今回適用された侮辱罪で、被疑者の男性に出されたのは科料9千円の略式命令。「非常に軽すぎる」(師岡康子弁護士)という。

しかし、2016年に施行された「ヘイトスピーチ対策法」は理念法にすぎず、罰則がないため、今回のような手段を取るしかない。

弁護団は、発信者の特定に至るまでの手続きの煩雑さや、ネット上からの完全な削除が難しいこと、さらに侮辱罪が「ヘイトクライム」を想定していないことに言及。

「被害者に丸投げ」である現状や、相手が不特定多数であると手段がないことに触れ、ヘイトスピーチに関する早急な法整備、捜査体制整備が必要であるとしている。

UPDATE

男性に出された略式命令を「罰金」としていましたが、正しくは「科料」でした。訂正いたします。

UPDATE

民事訴訟の高裁判決を受け、記事を修正しました。