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沖縄の海から叫び続ける、謎の「おじさん」の正体

「新潮45」や「りゅうちぇるタトゥー問題」などの動画で話題を呼んだ彼は、一体誰なのか。

ある動画が、ネット上で注目を集めている。

太陽にきらめく真っ青な沖縄の海の上で、ひとり赤いふんどしを身につけたよくわからないおっさんが、時事ネタに物申すーー。

その名も「せやろがいおじさん」。

東京オリンピックのボランティア募集や、りゅうちぇるさんのタトゥーをめぐる問題、さらには雑誌「新潮45」などについて「叫ぶ」おじさんの動画は毎回のごとく拡散し、YouTubeで20万、Twitterでは100万再生を記録した。

彼は、いったい何者なのか。なぜ、彼は叫ぶのか。なぜ、そこは海なのか。我々BuzzFeed News取材班は、沖縄本島に暮らすという「おじさん」に会いに向かった。

あなたは、誰なんですか?

ーー初めまして、大変失礼な質問ですが、あなたは一体誰なんですか?

そうですよね(笑)マジで誰やねんだと思うんですけど(笑)沖縄にオリジンコーポレーションというお笑い事務所がありまして。

そこに所属しているリップサービスというお笑いコンビのツッコミを担当している、榎森耕助と申します。年は31歳です。

ーー「せやろがいおじさん」が本業ではないんですね

おかげさまでコンビ結成11年です。「せやろがい」は、僕の裁量で運営しています。

普段は、地元のラジオやテレビに出たり、月1度の事務所のライブに出たりしています。各種披露宴や祭りの司会も。ザ・芸人の営業という感じですね。

ーー沖縄なのに、なんで関西弁なんですか?

僕はもともと奈良県の出身で、大学の時に沖縄にきまして。1年生の終わりくらいからお笑いを始めたんです。

奈良って盆地じゃないですか。中高と部活動が忙しくて、6年間1回も海を見ていないくらいの生活で、海を求める気持ちがずっと抑圧されていて。

大学受験を機に、沖縄という選択肢があるなと思ったら、抑圧されていたものが爆発してしまって。それで、縁もゆかりもない沖縄にきました。

「せやろがいおじさん」を始めた理由

ーー最初からお笑い芸人を目指していたんですか?

実は、国語の教員になろうと思っていたんですよ。バスケの指導者になりたくて。お笑いはサークル感覚だったんです。

でも、教育実習で現場に入って、教員は並大抵のものではないなと、挫折してしまいまして。

それこそ、教員こそブラックみたいなところあるじゃないですか。月から金まで働いて、なんで土日は部活みなあかんねんみたいな気持ちになってきて。

ーー相方はどなたなんですか?

通っていた沖縄国際大の教職課程は縦のつながりが強くて、先輩と結成しました。2人とも国語の教員志望だったんですよ(笑)

ヌルッと、なんか本筋から外れて、外れた道でそのまま行っているという。若いからできたという、勢いですよね。

ーーでも、なんで「せやろがいおじさん」を?

沖縄ローカルでの活動に、限界を感じはじめておりまして。どん詰まりだなという感覚が僕の中であって。

でも沖縄で活動したいし、沖縄好きだし。じゃあネットを使って、YouTubeで面白い動画をつくって、それが話題になったら仕事につながるかなと思ったんです。

1日3本撮り、200テイクも

ーーなぜ、叫んでいるんですか?

あれ、海に聞いてもらっているっていう体なんですよ。海はすべてを包み込んでくれる懐の深さがあるから。

あと、Twitterで載せられる動画が2分16秒までなんで、その中に主張を詰め込まないといけないとなると、早口にならざるを得ないんです。だから勢いが出る。

ーー海に聞いてもらっているんですね。どうやって撮ってるんですか?

ドローンとiPhoneを使ってます。撮影は「沖縄ドローン」の方など2人に協力していただいています。

1日3本撮りすることもあるんですよ。朝は体力がめっちゃあって絶好調で噛まずにいけるんですけれど、3本目くらいになると200テイクくらいになってきて、すごく疲れるんです。

ーーそんな涙ぐましい努力が。あれは、奇跡の動画なんですね。

人が疲れる三つの行為があるらしくって。日光に当たること、水に入ること、大きな声を出すこと。これ、せやろがい3つ全部やってるんですよ。

3日連続で撮影したときは、さすがに40度近い熱が出ました。日焼けもすごくて。せやろがい焼けですよ。岩場とかでもいっぱいこけて、これ、せやろがい傷ですね。

共感を得た「社会派ネタ」

――編集も自分で?

2〜3時間かけて、自分でやっています。昨年末くらいに、YouTubeを始めるためにパソコンを購入して、編集ソフトも良いの入れてやったんです。

それでお金なくなって、節約のために弁当つくって、リュックの中に弁当とパソコンを入れて出勤したら、煮卵の汁でパソコンが水没してしまって。節約のためにつくった弁当で16万がパーになるという事件が起きて。

一旦はやめようと思ったけれど、このままやめたら一生煮卵を恨みながら生きることになる。今後、煮卵を楽しむためにも、このままではやめられないと思って、社長に借金して新しいMacを買いました。

ーーセリフはアドリブですか?

セリフのライティングは僕ですね。アドリブじゃなくて、ちゃんと考えてやっています。

文豪みたいなこと言って申し訳ないんですけれど、筆が乗る時と乗らない時があって。3〜4時間くらいですかね。

ーー時事ネタにすぐ反応しているイメージがあります。どうやってネタ選びを?

そうじゃないネタもあるんですが、社会派のネタの方が共感を得たんです。

ニュース選びは、それこそBuzzFeedさんとか、Yahoo!や2ちゃんねるとかで。最近は「これ切ってくれ!」というオファーも増えるようになりました。

デマの発信源には、なりたくない

ーー「せやろがい」する基準はあるんですか?

まず、自分の中で問題意識を持てたもの。さらに、パワーワードみたいなのが出るか、出ないかというのも大きくて。

あとは、情報がある程度固まっているものですね。ポイントが定まっているものを選ぶようにしています。

ーーそれは、炎上しないため?

燃えにくい、ではないですね。僕自身が、偏っていたり、間違っていたりする情報の発信源にはなりたくないなって思っていて。

僕がつくった動画が、デマの発信源になることは避けなきゃいけない。偏った考え方の旗頭になるのは違うな、と。

だから、撮ったけどボツとか、考えたけどやめとことか、結構ありますね。

――ここまでニュースについて考えたことってありましたか?

ニュースを見て自分なりに意見とかは持ってはいたんですけれど、それって結構ぼんやりしてるじゃないですか。

発信をすることになればちゃんと調べるし、自分の中での着地点を見つけないといけないんで、よりニュースをちゃんと見たり、わからんかったことを調べてみようってなったりしました。

「正論」だとは思っていない

ーーなにか新たな発見はありましたか?

なんか、このネット時代って、黙る技術が大切だと思っていたんです。

あえて渦中の話題に飛び込まず、自分が批判を浴びず、黙っていた方が得でしょっていう。ほとんどの人が賢くて、黙る技術を駆使しながら、ヘビーな話題はネット上で語らないみたいなのもあって。

ネット時代の立ち振る舞いとしてある意味正しいし、僕も実際そうしていた。でも、発信ありきの思考になることで、もっと深く勉強しようとか思ったり、自分の中で考えたりする機会が増えたのは、発見でしたね。

――しかし、なんでこんなにウケたんでしょう。

ネットとかで意見を発してる声の大きい人たちって、ちょっと言葉が汚かったり、偏っていたりすることが多いと思うんですよ。

「せやろがい」も、「自分の意見はこれですよ」っていうのをはっきり言うけれど、「相手のスタンスもわかるけど」と理解を示した上で、汚い言葉は使わないようにしています。

そのうえで「笑かしたいんです」といったのが受け入れられたのかな。

――「正論を叫ぶ」と話題です。

正論だとは全く思ってないですね。正論、という響きがちょっと危ない気もして。

だって、僕が主張していたことで、ちょっとおかしい点があるかもしれない。これが正解なんですよとなると、思考停止を招くというか。間違った情報も鵜呑みにしてしまうかもしれない。

おじさんの動画をつまみにみんなで議論を深める、話のネタにしてもらうくらいのほうが、気持ちが楽ではありますね。

沖縄が抱える「基地問題」

――沖縄には、避けて通れない「基地問題」があります

僕の大学は宜野湾市にあるので、当時は普天間基地から10mくらいのところに自宅がありました。だから、飛行機の発着陸の轟音のすごさはわかりますね。

ヘリの窓枠が小学校に落ちたとか、オスプレイが墜落したとか、バンバン不時着してるとか、あるじゃないですか。

実際に落ちる落ちひんは別として、こういう状況があるなか、毎日何回も飛ぶ音が聞こえたら、聞こえるだけで、ひょっとして落ちて来るのではっていうことが心の中に去来してしまう。そういう生活は怖いし健全ではない。

ーー「基地問題」を取り上げることはあるんですか?

これは本当にデリケートな問題なんです。いろいろな人の、いろいろな立場からの意見を聞いたりしていて、一概にこれっていうのが言えないんですよね。

もちろん、僕の中ではあるんです。でもそれを「せやろがい」のあのテンションで言い切れない。

いまもネット上でデマ合戦みたいなのがある。ひとつ言えるのは、正しい知識や情報をもって、議論できたらなということですね。

本当は、笑ってもらいたい

――話題を呼ぶ動画ばかりですが、本当は笑ってほしい?

本当は笑ってほしいんです。実はこれって卑怯な動画で、笑いの純度100%の動画ではないんですよね。僕は漫才という笑い純度の手法でしっかり注目集めたかったんですが、10年近くやってそれができなかった。

だから、とりあえずみなさんが興味のあることを喋って、そこにちょっとでもお笑いの要素を入れれたらな、みたいな。ある種芸人として悔しい部分もあったりする感じですね。

もちろん漫才での勝負も並行してやってて、全然諦めてないです。せやろがいおじさんが入り口になったらいいなと思います。

――これから、初めての冬を迎えます。大丈夫ですか

沖縄でも、冬は大丈夫じゃない。

そこが一番怖いんです。大変なんですけど、ガチガチ震えて「さむいー!」って言いながらやるもの良いかなと。唇青いでおじさん、みたいなコメントが入ったら最高やなと。

まだ始めて半年も経ってないで、まず通年でやってみてどうなるのか。とりあえず目標がそこですね。冬を越せるのかっていう。

沖縄の海に向かって東京オリンピックや「新潮45」などの問題について叫ぶ動画が、話題を集めている「せやろがいおじさん」(@emorikousuke)。 なぜ、色々な「時事ネタ」に物申しているのか。BuzzFeed Newsの単独インタビューで、聞いてみました。 記事はこちら👇 https://t.co/WRCAJLWOWF https://t.co/OCKlHVB0f6