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「フェイクニュースを垂れ流している」沖縄の新聞社は、なぜ「質問箱」のバッシングに答えたのか

ネット上に広がる、米軍基地問題をめぐる誤解やデマ。そうしたものと向き合うため、琉球新報が選んだ手段は、SNS上でユーザーとやりとりをするための「質問箱」だった。


沖縄の地元紙・琉球新報。ネット上で「偏向報道」「フェイクニュース」などと、さまざまなバッシングに晒されることも少なくない。

そんな琉球新報が2月、Twitter上でユーザーからの質問に直接答える「質問箱」を設置した。

テーマは、辺野古の埋め立てに関する県民投票。寄せられた質問は500件近くにのぼったという。なぜ、新聞社がそのような取り組みを始めたのだろうか。

琉球新報は県民投票に関する疑問やSNSなどで発信されている内容に関し、事実かどうか確認してほしいことについて読者から質問を受ける「質問箱」を設けました。質問や回答の一部は紙面で紹介することもあります。質問をお寄せください。質問箱は県民投票期間中の設置となります。

琉球新聞が設置したのは「Peing-質問箱-」。SNS上で利用できる匿名質問サービスで、芸能人やインフルエンサーから一般ユーザーまで、広く使われている。

回答を担当したのは、「ファクトチェック取材班」でデジタル編集担当の宮城久緒さん。BuzzFeed Newsの取材に、取り組みをはじめたきっかけをこう語る。

「県民投票をめぐるデマや真偽不明の情報がたくさん上がっていました。県民投票そのものへの関心を高めることとともに、フェイクを抑えるためにも良い手段になると感じたのです」

もうひとつが、読者との直接のコミュニケーションへの期待だ。過去にも「LINE@」で読者とやりとりをしたことがあった。その際、高校生から、「米軍基地がなくなったら中国から攻められるのでは」という質問があったという。

普天間基地の県外移設議論のたびに取り上げられる「中国脅威論」。ネット上でもたびたび耳にすることがある。宮城さんはいう。

「ネットの情報だけを信頼してしまう人は少なくないはず。本当はどうなのか、伝えることで『考えてみよう』と変わることがある。そういうやりとりができるようになれば良いなと思うようになったんです」

琉球新報は、嘉手納や横須賀のほうが抑止機能を有しているとして、「仮に普天間を閉鎖しても、沖縄に軍事力の『空白』が生まれることにはならない」と指摘。脅威論が上がることについて、「移設問題が印象論で議論されている」ともしている。

この高校生にも、そうした説明をすることで「誤解が解けた」という。

今回の質問箱の取り組みでも、同様のことができるのではないかーー。そんな思いが、根底にはあった。

ネット以外にまで広がる”バッシング”

また、基地問題だけではない。沖縄2紙へのバッシングにも近いさまざまな言説は、「ネットに蔓延している」という。

「沖縄は過去にこだわりすぎている、基地があるから優遇されている、国防のために必要なのに反対している……。そんな眼差しがある。なぜ基地に反対をしているのか、理解されない。それが、基地があるということでもあるのかもしれませんが……」

2015年、小説家の百田尚樹氏が「沖縄の2紙をつぶさないといけない」と発言をしたことがあった。自民党若手国会議員の勉強会「文化芸術懇話会」での出来事だったため、大きな注目を集めた一件だ。

この時期をきっかけに、沖縄の地元紙に対するネット上のバッシングが「目に見えて増えだした」と、宮城さんは捉えている。

SNS上で個人が発言するだけに留まらず、新聞社やテレビ制作会社がメディアを使い、バッシングに加わるようになった。

DHCテレビジョンが制作し、東京MXテレビが2017年1月に放送した情報番組「ニュース女子」が基地問題を伝えた。

「マスコミが報道しない沖縄」と題し、米軍ヘリパッド建設に反対する人たちを「テロリスト」と表現したり、「日当をもらっている」「組織に雇用されている」などと伝えた。

しかし、放送人権委員会(BPO)は「重大な放送倫理違反」「名誉毀損の人権侵害」と判断。再発防止を求めた。

また、産経新聞は2017年12月、「沖縄2紙が報じない真実」と銘打ち、交通事故で米兵が日本人の命を救ったのに、沖縄の地元紙2紙は報じていなかったと批判する記事を配信した。のちに、これは誤報ということが発覚し、産経は記事を削除して謝罪した。

宮城さんは「以前はネットの中だけだったものが、普通に行われるようになっている。そういう状況を変えたい、と思ったのです」という。

「中国人になりたいんですか」という批判も

そして、質問箱をはじめてみた結果。投開票日までの1週間に、473件の質問が寄せられた。

やはり多かったのは「偏向しているのでは」という声や、中傷コメントだった。

複数のまとめサイトに取り上げられたことも影響したのか、こんな声が多く寄せられた。

「フェイクニュースを垂れ流す琉球新報という新聞をファクトチェックしてほしい」

「自らがフェイクニュースを垂れ流している自覚はありますか?」

「日本人のままでいたいですか。中国人になりたいんですか。」

しかし、同様の内容のものではない限り、できるだけ丁寧に答えていくことに注力をしたという。たとえば一番上の質問には、こう答えている。

「フェイクニュースを垂れ流す」というのは琉球新報へのご指摘として受け止めます。私どもは事実を重視し、取材をして記事を書くように心掛けています。 ミスを出さないことも、誤った情報を流さないことも当たり前のこととして記者一人一人が心掛けなければいけないことだと思っています。琉球新報は私どもが発行している新聞なのでそれをしっかり心掛けることがファクトチェックにつながることだと考えています。

そのほか、「賛成派の声を取り上げないのですか」「中国の脅威は取り上げないのか」という誤解に基づいた質問も多かった。実際に報道をしていることを示し、記事を提示していくという作業を、地道に続けた。

沖縄を、理解してほしい

基地問題についても、同様だ。たとえば辺野古を「新基地」と表現する理由について問われた際は、こう説明している。

米軍キャンプ・シュワブは既存の基地ですが、その側に海を埋め立てて新しく造る基地であること、現状の普天間飛行場にない軍港など新たな機能が備えられることなどから、単純に米軍普天間飛行場を移すということと区別するために「新基地」との表現を用いています。

また、「辺野古ができても普天間が返還されないのか」という質問についても、稲田防衛大臣(当時)の「建設が進んだとしても、それ以外の返還条件が満たされない場合は返還されない」とした発言に触れながら、こう回答した。

辺野古に新たな基地が建設されても他の返還条件が満たされない場合、米軍が辺野古と同時に使用する可能性は否定できないと考えております。

ネット上で広がっている言説について問うもの、県民投票の意義そのものを聞くもの、反対運動の実態を尋ねるものーー。様々な疑問が寄せられた。

結果として、回答率は34%だったという。「回答率が低い」「質問を選んでいる」という指摘もあった。重複を避けたとはいえ、一人体制ということもあり、及ばないところもあったそうだ。

とはいえ、こうした取り組みは今後も地道に続けていきたいと、宮城さんは思っている。

「丁寧に答えることで、沖縄について少しでも理解をしてもらったり、もっと知りたい、と思ったりしてもらえれば。直接やり取りできることに、価値はあるはずですから」