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「ヒール・パンプス強制」めぐる大臣答弁、メディアの報じ方が"真逆"に?その背景は

根本匠厚労相の「社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲」発言をめぐり、共同通信や毎日新聞を始め、報道各社の評価が分かれている。厚労省に見解を聞くなどし、改めて経緯を整理した。

職場で女性にヒール・パンプスを義務づける必要はあるのか。

この問題について6月5日、根本匠厚生労働相は「社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲かと、まあ、この辺なんだろうと思います」と国会で答弁した。

この発言で、大臣はヒールやパンプスの強制を容認しているのか。していないのか。報道各社の評価が分かれている。

女性従業員へのヒール着用強制に反対する運動「#KuToo」のメンバーらが6月3日、厚生労働省に1万8千筆の署名を届けた。これを背景に5日、衆院厚生労働委員会で大臣が発言。報道のきっかけとなった。

共同通信はこの発言を「強制容認」と捉え、【パンプス「業務で必要」と容認 厚労相発言、波紋呼びそう】という見出しで報道。Yahoo! Japanのトップに掲載されたことで、批判が一気に噴出した。

しかしその後、毎日新聞が【根本厚労相「パンプス強制、パワハラに当たる場合も」】と「容認」とは全く異なるニュアンスで報道し、共同通信に代わってYahoo! Japanニュースのトップに掲載された。

同じ発言をめぐる、異なる解釈。2つの記事を比較し、インターネット上では「真逆の記事」「切り取り怖い」などという指摘が上がった。その後、共同通信は見出しを「容認」から「社会通念で」と、発言により近い形に変更した。

まず、経緯を振り返る

大臣答弁の言葉の細部とその解釈をめぐって、報道各社の判断はわかれている。BuzzFeed Newsも含め、報道各社はどう「解釈」したのか。

見出しまたは本文で、「容認」という言葉を使ったのは、朝日新聞と共同通信、産経新聞とBuzzFeed Newsだった。ハフポストは容認とはしていないものの、大臣の発言を否定的に捉えている。

  • 朝日新聞 見出し:「容認」 本文:容認する姿勢
  • 共同通信 見出し:「容認」→「社会通念で」 本文:事実上の容認→事実上の容認とも取れる
  • 産経 見出し:「業務で必要なら…」 本文:事実上容認
  • BuzzFeed 見出し:「容認発言」 本文:同上
  • ハフポスト 見出し:「#KuToo運動に否定的な見解」 本文:「〜範囲かと思います」と述べた


一方で毎日新聞と同じように、「パワハラになりうる」部分を強調したのが、NHKと読売新聞だった。

  • 毎日 見出し:「パワハラに当たる場合も」 本文:(義務付けについての大臣答弁には触れず)
  • NHK 見出し:「パワハラになりうる」 本文:「〜範囲」にとどまるべき
  • 読売 見出し:「パワハラに該当しうる」 本文:同上


各社の評価の基準は?

厚労相の発言を「業務上必要な範囲内であればヒール着用の義務付けは認められる」と評価したメディアは、発言を「容認」と報道したとみられる。

BuzzFeed Newsは、「事実上、容認」とした。

署名活動に賛同した女性からは「勤め先はヒール鉄則」などと窮状を訴えるコメントが相次いでいるほか、これまでの取材にも「強制」を証言する航空会社やホテル、教育業界などで働く女性たちがいたという背景があるからだ。

大臣の答弁を働く現場に適用した場合、「業務上、女性スタッフのヒールやパンプスの着用が必要だ」とされれば、義務づけが可能となり得る。つまり、職場の現状は変わらない。

ここからBuzzFeed Newsは「事実上の容認」と判断した。

一方、「容認」という言葉を使わなかった社は、その後に続く答弁を評価したとみられる。

根本厚労相は、着用の強制がハラスメントに当たるかどうかを問われた際、以下のように回答した。

「当該指示が業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうかがポイント。例えば足をけがしている労働者に必要もなく強制することはパワハラに該当しうると思います」

毎日と読売はこの点を重視したとみられる。

厚労省の見解は

BuzzFeed Newsは6月6日、改めて厚生労働省に取材した。

雇用機会均等課の担当者は「大前提として、強制することを容認するという発言はしておりません」という。

どういうことか。

「大臣は、『社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲』を超えているかどうかがポイント、と答弁しました。つまり積極的に認めるわけではありませんし、不必要な場合、たとえば足を負傷した労働者に全く必要もないのに着用することを指示すると、パワハラに該当するとも述べています」

「また、『社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲』としているのは、そういうケースも絶対にないとは言えないためです。ケースバイケースであり、明確な尺度があるわけではありません」

このパワハラについての解釈は、5月28日に成立した改正労働施策総合推進法の定義に基づいているという。これは以下の3点で、根本大臣もこの2を引いているとみられる。

  1. 優越的な関係に 基づいて 行われること
  2. 社会通念に照らし、当該行為が明らかに業務上の必要性がない、又はその態様が相当 でないものであること
  3. 身体的若しくは 精神的な苦痛を 与えること、又は就業環境を 害すること


大臣答弁と担当者の説明をまとめると、以下のようになる。

  • 強制することを積極的に認めるわけではない。
  • 「社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲」での義務付けを必要とするケースはないとはいえない。
  • 足をけがした労働者に着用を指示するなど、「業務上必要かつ相当な範囲」を超えるものはパワハラに当たるおそれがある。


積極的には認めていないし、不必要な場合はパワハラに当たるおそれがある。しかし、必要とするケースはあるかもしれない。そういうことになる。

副大臣の答弁は?

なお委員会では、尾辻氏に女性として「感想でいいから」と見解を求められた高階恵美子・厚労副大臣は、以下のように述べた。

「一般的に言ってその業務に必要な範囲、安全性が確保されるような環境の中で労働者に仕事をしてもらえるように環境整備をしていくことが職場の考え方だろうと思いますので、強制されるものではないと思います」

この発言に対し厚労省の担当者は「大臣と副大臣の言葉そのものは違うが、見解は分かれていない」という見方を示した。

担当者は、副大臣のいう「一般的に〜考え方」という部分と、大臣のいう「社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲」は「別の言い方ではあるが、同様のことを指している」と説明した。

これに対し、産経、BuzzFeed News、ハフポストは5日、根本厚労相と高階副大臣の「見解が分かれた」と報じた。

厚労相の答弁では「業務上の必要性」といった判断条件がついている。一方で高階氏は条件をつけずに、「強制されるものではない」と明言した点が、BuzzFeed Newsが「見解が分かれた」と判断した理由だ。

質問者の見解は

質問者である尾辻氏は、厚労相の答弁をどう捉えたのか。6月6日朝、以下のようにツイートしている。

私自身は、問題意識の共有くらいはしてほしいと思っていたのですが、大臣答弁からはあまり感じられなかったところです。

先出の厚労省の担当者は、取材の最後にこう語った。

「具体的な動きは現状ではないものの、メディアなどで様々な議論が喚起されていることを、真摯に受け止めないといけない。状況を注視しながら、ひとりひとりの労働者が働きやすい職場環境を整備することが大切だと考えています」


ヒール・パンプスを巡る国会での主なやりとり

(尾辻氏)署名運動が起きていることへの受け止めは?

(根本厚労相)要望書と署名を受理しております。一人ひとりの労働者が働きやすい就業環境を整備することが重要です。いろんな動向を注意しながら、働きやすい職場作りを推進していきたい。

(尾辻氏)職場で女性にヒールを義務づける必要はあると思うか?

(根本厚労相)義務づけられることについてどう思うかというお話ですが、これは、社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲かと、まあ、この辺なんだろうと思います。それぞれの業務の特性がありますから。

(尾辻氏)ハイヒールやパンプスを義務付けなければならない職場というのは、よく考えたら無いはずです。義務付け自体が時代に合わなくなり、健康障害を起こしている。労働安全の面から考えても問題だと思います。大臣は問題だと思っているのか、いないのか。そこだけでも認識を聞きたい。

(根本厚労相)強制する、指示する。これは社会通念に照らして業務上必要かどうかということ。要は、これは社会慣習に関わるものではないかなあと思います。だから動向を注視して、働きやすい職場作りを推進していきたいと思います。

(尾辻氏)ちょっとなんか、違うなという風に思います。大臣は男性なので厳しいと思います。感想で結構ですから(女性の)高階副大臣がどう考えておられるのかを伺いたい。

(高階副大臣)職場で強制しているところがどれくらいあるのか私も承知していないんですけど、一般的に言ってその業務に必要な範囲、安全性が確保されるような環境の中で労働者には仕事をしてもらえるように環境整備をしていくことが職場の考え方だろうと思いますので、強制されるものではないと思います。

(尾辻氏)大臣にも、そういう風に答えて頂きたかった。転倒で労災も起きている。労働安全衛生とハラスメントの双方の面からしっかり取り組んでいただきたい。

(根本厚労相)職場において女性にパンプスやハイヒールを履くよう指示すること、これについては、当該指示が業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうかがポイントだと思います。そこでパワハラにあたるかどうかだろうと思います。例えば足をけがしている労働者に必要もなく強制することはパワハラに該当しうると思います。どういう状況で成されてるのかという点の判断だと思う。