女子高生の命を奪った高齢ドライバーに実刑判決 類似事故に警鐘鳴らす禁固1年6月

    駅に向かう道で、80歳の男が運転する車にはねられ亡くなった女子高生。被告人の男に重たい判決が言い渡されました。

    昨年末、大好きだったRADWIMPSのライブに行こうとしていた女子高生が、さいたま市の路上で乗用車にはねられ、死亡した。

    16歳の誕生日まで、あと2日だった。そのとき80歳だった運転手は、ブレーキとアクセルを踏み間違えていた。

    2016年12月16日午後。さいたま地裁(古玉正紀裁判官)は、運転していた男に対し、過失運転致死で禁固1年6月の実刑判決を言い渡した。

    交通事故の判決の中では、重い部類だ。

    事故は2015年12月23日午後2時半ごろに起きた。

    稲垣聖菜さん(当時15)は、大好きだったバンドRADWIMPSのライブを友人と見に行く予定だった。

    渋滞道路を渡り終わって道路脇を歩いていた聖菜さんめがけて、一台の乗用車がぶつかった。運転手はブレーキを踏むことはなく、アクセルを踏んで急加速した。聖菜さんは、鉄製のポールと車の間に挟まれ、死亡した。

    (詳報:ライブに行く途中、高齢ドライバーに奪われた女子高生の命 友人たちは立ち上がった

    「高齢者がハンドルを握る手に大きな影響」

    母親の智恵美さん(48)が判決後に開いた会見に、記者クラブの許可を得たBuzzFeed Newsも参加した。

    冒頭、智恵美さんは言葉を詰まらせながら、こうとつとつと話し始めた。

    「被告人には実刑になり、聖菜の死と向き合ってほしいということを訴え続けてきた。命の重さ、そして私たちの思いが判決に反映されたことをありがたく思っています」

    「判決が高齢者がハンドルを握る手に大きな影響を与えるという意味でも、聖菜の命の重さを汲み取っていただいた判決だと思います」

    「画期的で踏み込んだ内容」

    ともに会見にのぞんだ代理人の高橋正人弁護士によると、判決では、運転手の前方左右注視義務違反とブレーキ操作、ハンドル操作の誤りを過失とし、その「行為責任」を強調していたという。

    そんな判決を、高橋弁護士は「画期的で踏み込んだ内容だ」と評価する。

    「高齢ドライバーの起こす事故の件数がここ数年伸びていることに、裁判所がどこかで社会的な決着をつけないといけない、と考えたのではないでしょうか」

    なぜ、「決着」とまで言えるのか。

    「80歳の高齢者で、前科前歴はなく、否認もしていない。普通は執行猶予になる事案だが、それを許し続けたら警鐘にはならない。ということで、思い切った判断をされたのだと思います」

    「この判決が報道されれば、高齢ドライバーやその家族が危機感を持つようにもなる。免許の返納が増えるなどの効果が出てくるはずです」

    社会に与える影響は

    事故を受け、聖菜さんの友人たちが「Change.org」で署名活動を続けている。政府や政治家、自動車会社に「75歳以上の免許更新を毎年ごとにする」「事故防止に向けた技術開発」などを求める内容だ。

    智恵美さんはこうした活動を「これからも後押ししたいし、伝えていきたい」という。さらに、判決が社会にポジティブな効果を与えることを望む。

    「この判決をきっかけに、同じような事故が、もう繰り返されないでほしい」

    そして、こう付け加えた。

    「聖菜も一緒に頑張ってくれたはず。きちんと判決に想いが反映されたよ、聖菜の命は無駄ではなかったよ、と伝えたい」

    署名の賛同者は2万人を超えた。活動は、今後も続く。