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新入社員の僕は、上司のセクハラに声をあげていいのかわからなかった。

「男性だって、苦しむことがある」

男性だって、セクシュアルハラスメントの被害を受けることはある。そして、それに苦しんでいる人だっている。声をあげていいのか、わからずにいる人も。

23歳のショウタさん(仮名)も、その一人だ。「#metoo」のムーブメントに背中を押された彼は、いう。

「男なら理不尽にも耐えるべきで、笑い話にすべきなのでしょうか」

「これがハラスメントと言えるのか、それすらわからなかったんです」

BuzzFeed Newsの取材に応じたショウタさんは、そう重い口を開いた。

男性上司からのセクハラを機に、勤めていた広告会社を辞めて2ヶ月。心の傷はまだ癒えていない。いまは躁鬱病の薬を服用しながら、ぼんやりと再就職したいと考えている。

「朝までキャバクラに付き合わされるとか、そういうことをする上司だということも、よく聞かされていた。でも、ここまでのことをするなんて」

ショウタさんが受けたのは、性風俗の強要だった。セクハラという認識はあまり広がっていないが、「セクハラにもパワハラにも」なり得る行為だ。

労働問題に詳しい弁護士の圷由美子さんは、BuzzFeed Newsの取材にこう語っている。

「先輩目線では『後輩サービス』でも、後輩にとっては性的嫌悪感があっても断れないことがあります。地位を利用して性的な場所に連れていく行為は、セクハラにもパワハラにもなりえます」

耐えきることは、できなかった

それは、ショウタさんが入社して半年ほど。イベント準備のため、会場近くに急遽宿泊する必要があった日のことだった。

一緒に設営に携わっていた30代後半の上司2人に、飲みに誘われた。同期と、参加した。時間は10時ごろだったと思う。いつものように、酒を飲まされた。

「俺の酒をお前は飲めないのか、という典型的な飲ませ方をする人でしたね。これくらいは仕方ないと思っていたし、大学時代に体育会だったので耐性はありました。ただ、上司は、普段忙しくて相談する機会もなかなかない。これを機にゆっくり話ができればと思ったんです」

飲み会の終盤、酔っ払った上司たちに部屋番号を聞かれた。何気無しに、答えた。ちょうど給料日の直後だった。2人は「いまだったらお金あるでしょ」と笑っていた。

「その後、部屋に戻ると頼んでもいないデリバリーヘルスの女性が部屋に来ていたんです」

上司たちが、勝手に呼んだ女性だった。

「僕はそもそも、好んで風俗店などを利用するタイプではありません。その場で2万円を自腹で払い、何もせずに帰ってもらいました。仕事がようやく落ち着くからと、彼女と一緒に美味しいものを食べようと思っていたお金だったのに」

同期も同じことをされていた。その同期は上司を喜ばすため、女性のパンツをオプションで「お持ち帰り」し、翌朝スーツの下に履いてきていたという。

「朝、上司たちに会うと、『お前は面白くないなぁ』と馬鹿にされました。それから、ことあるごとに、この日の話を繰り返されるようにもなったんです」

「上司がしたことには、嫌悪感しか覚えませんでした。でも、嫌だとは言えなかった。そのたびに笑いながら受け流すしかできなかった」

「お前は、負け犬だ」

もともと、会社の雰囲気には違和感を覚えていた。上司が女性社員を目の前にして、「すぐヤレるよ」「こいつはエロいよ」などという言葉を投げかけるような風土があったからだ。

「これが普通なのかな、と思うようにしていました……。自分の価値観が違うんだ、と」

しかし、あの夜の出来事に、耐えきることはできなかった。

忙しさも重なったのか、この事件があって以来、精神的に不調を来すようになった。「死にたい」と感じることも増え、仕事は手につかなくなった。

「上司がしたことを面白いと思えないのは、社会人として自分に何かが欠如しているんじゃないか、間違っているんじゃないかと自分を責めるようになりました」

「僕もパンツを履いてヘラヘラするべきだったのか。どこまでの理不尽なら、社会人として耐えるべきなのか。わからなくなってしまったんです。そうして鬱状態になっていました」

ショウタさんはほどなくして、退職した。人事担当者には上司の名前を伏せてハラスメントのことを話したが、「そういうこと、あるよな」と言われるのみで、謝罪をされることはなかった。

家族にも相談をした。「古いサラリーマンタイプ」である父親からは、「そんな程度の理不尽に耐えられないなら、どこの社会も無理だ。負け犬だ」と一蹴された。

ショウタさんの絶望は深まった。

「僕はそこまでされてもあの会社にいなければいけなかったのか、社会の理不尽に耐える必要があるのか。そんなことが許される日本の社会というものが信用できなくなっていて、何の希望も見出せなくなってしまいました」

「あの日以来、急に知らない女性と会うことが怖くなってしまいました。嫌悪感がよみがえるんです。それでも、『男なのに』と言われるのではないかと、友人たちに相談することもできなかった」

嫌なことは、嫌だと言っていい

そんな中で、日本でも広がりつつあった「#metoo」のムーブメントを知った。背中を押されたように感じた一方で、自分なんかが声を上げていいのだろうか、と戸惑いも覚えた。

「自分がされたことがハラスメントなのかも、わかりませんでした。それに、あまり男性の被害を見かけなかったので、僕が情けないだけなのかな、とも思ってしまっていた」

それでも、「同じように悩んでいる人は絶対にいるし、自分が名乗り出ればその人たちが救われるかもしれない」と、作家・ブロガーのはあちゅうさんのハラスメント被害を報じていたBuzzFeed Newsに連絡をした。

「ハラスメントと言って良いんだ、と思えるようになりました。経験を処理できて、ちょっとでも楽になった気がしています」

自分の言葉で、自分の経験を顧みるだけで、心の負担は軽くなった。

「いまの社会って、強い男性像が根強いですよね。多少苦しくても、それを表に出さないで働くような。嫌なことを嫌と言わず、笑い話にしないといけないような。自己犠牲が当たり前になっている」

「でも、もう時代は違うと思うんです。いろいろな人がいる。『俺らの時代だってさ……』というだけじゃなく、自分がされたら嫌だったことを、下の世代に繰り返さないでほしい」

ショウタさんは「別に上司に社会的制裁を与えたいわけではないんです」と言う。

「嫌なことは嫌だと言っていいと伝えたい。男性だって苦しむことがあるんだということ、と一緒に」

体調がもう少し良くなれば。実家のある関西に戻って、新たな仕事を探したいと思っている。


BuzzFeed Japanが考える「#metoo」は「声をあげて」と促すものではありません。「#metoo」と名乗りをあげる当事者の動きに賛同し、ともに考え、つながりをサポートするものです。性暴力に関する記事を発信し、必要な情報を提供していきます。

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