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京アニ火災「犯人は在日?」を根拠なく拡散 トレンドブログが複数掲載、ヘイトスピーチも

発生直後からTwitter上で「犯人って在日コリアン?」「犯人が在日か韓国籍だったら最悪の展開」などという発言がなされていた。中には「帰ってほしい」などというヘイトスピーチも散見された。

「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズや「けいおん!」「聲の形」などで知られる京都アニメーションで7月18日午前10時半に起きた爆発的な火災は死者が33人となり、戦後最悪レベルの放火事件となった。

火をつけたのは青葉真司容疑者(41)。全身火傷により意識不明の重体で、病院で手当てを受けている状況という。

青葉容疑者をめぐっては、その名前の公表前から「在日では?」などという無根拠な情報が複数SNSでアップされ、さらに「トレンドブログ」と呼ばれるサイトが拡散している。

今回の事件では、発生直後からTwitter上で「犯人って在日コリアン?」「犯人が在日か韓国籍だったら最悪の展開」などという発言がなされていた。中には「帰ってほしい」などというヘイトスピーチも散見された。

また、Yahoo! 知恵袋にも「犯人は在日ですか?」などという質問があげられていたほか、2ちゃんねる内でも同様の指摘が相次いでいる。

これは男の名前が公表されていなかったからだが、そもそもメディアが容疑者の名前や国籍を含めた人定を記事に明記するのは通常、警察の発表を受けてからのことだ。

男は現在入院中で、意識不明との報道もある。警察の捜査員も、本人に話を直接聞きながら裏付けを取っていくことができないため、たとえ免許証を身につけていたとしても、それが確実に本人の物なのかを確認するには、一定の時間が掛かる。

さらに、刑事責任能力の有無の検討が必要になるケースもあり、事件・事故後に警察が容疑者の名前をすぐに公表しないことは、珍しくない。

登戸殺傷でも「犯人は在日」トレンドブログとは

そもそもトレンドブログとは、検索エンジン対策(SEO)に長けており、ユーザーが検索しそうなキーワードを先回りして記事化し、検索からユーザーを流入させてページビューを得ることで、広告収入を稼いでいるとみられるブログ群だ。

その内容は、ほかのサイトの記事の引き写しや、単なる憶測に留まっていることが多い。

社会の注目が集まる事件・事故が発生するたびに、容疑者のプロフィールや顔写真を紹介するといった触れ込みのトレンドブログの記事が、大量に作り出されている。

川崎市登戸で5月に起きた児童らに対する無差別殺傷事件でも、トレンドブログが「犯人は在日」という言説を拡散させていた。

この際には、福田紀彦・川崎市長が「事実に基づかない臆測が流布している。不適切で遺憾だ」(6月3日、神奈川新聞)と発言し、こうした言説そもそものを否定。批判した。

断定はしていないが…

今回の事件でも、複数の「トレンドブログ」がそうした断片的な情報を記事化している。どれも根拠はない。

BuzzFeed Newsが調べた限り、現在複数のブログで以下のような言及がなされている。

  • 「京アニ放火犯人の顔画像や名前は?国籍は在日韓国?経歴&犯行動機は?
  • 京アニ火災の犯人の動機や特徴、顔画像、40㍑ガソリンとは?在日韓国との噂も!」
  • 「京アニ火災犯人は在日韓国人!?本名や経歴は?茨城出身の元従業員ではなかった」


いずれも断定しているものはない。「決めつけるのは止めましょう」などと書いているような記事もあるが、見出しに疑問符などを持ってきている以上、かたちのうえでは断定を避けながらも、検索流入を期待して「在日」という言葉を入れた可能性は高いと考えられる。

また、これ以外にも2ちゃんねる上の情報を「あじあにゅーす2ちゃんねる」が以下のように掲載している。あくまで「可能性」の指摘ではあるが、その根拠は示していない。

【京アニ放火】放火犯が韓国人の可能性!!! 安倍首相が国家公安委員長に徹底捜査を指示した理由!!!

「在日」と調べている人たちがいる

先述の通り、トレンドブログはSEO対策に長けており、検索ボリュームが大きいキーワードを記事内に多く取り込んでいる。

つまり、こうしたキーワードがあるということは、「在日」と調べている人たちが存在するということを忘れてはいけない。

外国人差別などに詳しいジャーナリストの安田浩一さんは、川崎の事件を受け、「ヘイトスピーチ対策法」に関するシンポジウム(5月29日)で以下のように語り、日本社会に潜む民族差別の存在を指摘した。

「容疑者の身元が確認されるまでの間、ネットにはどんなことが流れたのか。

犯人は外国人に違いない、川崎だから在日コリアンが多いからおそらく在日だろう、名前が発表されないのは何らかのの忖度があるなーー。

ふざけるな、という気持ちでいっぱいになりました。凶悪事件が起きるたびに、ヘイトにまみれたデマが流布され、信じる人がそれを広げる。

多くの場合には全くマイノリティが関係ない場合が多いにもかかわらず、何度なんども繰り返されている」

ヘイトスピーチ対策法は2016年6月に施行されたが、罰則規定などがないため、その実効性を疑問視する声は大きい。

一方、川崎市では条例違反を繰り返した場合、50万円以下の罰金とする、全国で初めてヘイトスピーチ に刑事罰を科す条例の制定を目指している。