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「発信者が悪魔になることもある」Twitterで“デマ潰し“に奔走した熊本市長、その心得

3年前の熊本地震でTwitterを駆使した情報発信をし、注目された熊本市の大西一史市長。逮捕者を出した「ライオン脱走」のようなデマや誤情報は、災害時に必ず現れる。行政はどうSNSで発信をしていくべきなのか。そして、受け手が身につけるべきリテラシーとは。

信頼できるSNSの情報発信とは何なのかーー。

3年前の熊本地震でTwitterを活用し、広がるデマの拡散や被災者の混乱を防ぐため、さまざまな情報発信を続けてきた、熊本市の大西一史市長。

BuzzFeed Newsは単独インタビューで、注目を集めるようになったその「Twitter術」や思いを聞いた。

2016年4月14日と16日、2度の最大震度7の揺れに襲われた熊本地方。

大西市長は、震災当日から連日、水道の漏水状況などのライフライン情報、ボランティアの募集情報など、幅広い内容をTwitterで発信してきた。

最初につぶやいたのは、14日の「前震」直後。こんな内容だ。

熊本市長の大西です。市民の皆さん被災状況は大丈夫ですか?余震にご注意下さい。まず身の回りの安全を確保して落ち着いて行動して下さい。現在私は市役所におります。被災状況の確認と災害対策に全力をあげます。

当時を振り返りながら、大西市長はこう語る。

《必死でしたね。ただ、何か伝えなきゃという使命感、それだけでした。

みなさん落ち着いて行動してくださいということを、何かしら発しなきゃという気持ちがあって、一番手っ取り早いのがTwitterだったんです。

まず私が市役所にいて、きちんと指示を出す状態にある、市役所が機能しているとお知らせすることが大切だと思っていました

熊本市では一時、11万人が避難をするまでの事態に見舞われた。70万人が暮らす都市ということもあり、断水被害や車での自主避難者が相次ぎ、混乱は深まっていた。

市民を案じるツイートを重ねた一方、大西市長は「情報」を求めるこんなツイートもしている。

水道の試験通水の結果大量の漏水が発生しており漏水箇所の特定を急いでおります。市民の皆さんからの情報提供をお願いします。道路や橋に水が噴き出したり染み出した箇所を見つけたら出来れば写真を撮り住所をリプして下さい。もしくは水相談課へお電話をお願いします。0963815600

単に発信するだけではなく、被災地の状況を把握する目的もあったのだという。

「市民が求めている情報」が何なのか、Twitter上では可視化されていると感じていたからだ。

自ら「断水」「瓦礫」などさまざまなキーワードを入れて、検索もしていたという。

《市民の皆さんのいろいろな被災状況を隅々まで掴むには、Twitterがツールとして役に立つんだろうと思ったのです。

つぶやきって、いろいろな本音も出るところ。逆に言えば本音が出やすいということは、被災して厳しい状況がリアルにわかるということですよね。

消防や警察などの関係機関からあがってくる情報をきちんと確認しながら、災害対応をセオリー通りにやっていくのは当たり前。これにプラスしてSNSが情報を得る手段として、非常に有効でした》

これからの防災減災に必要なTwitter

【車中泊の皆様へ】エコノミークラス症候群を防止するためエクササイズをして体を動かし水分を取り予防に努めて下さい。画像はフォロワの方からご提供頂きました。参考にして下さい。

こうして大西市長は、Twitterでニーズを把握し、事細かな情報発信を続けてきた。

エコノミークラス症候群の予防啓発から断水に関する事細かな情報、災害ごみの処理、精神的に追いやられた子どもたちの対策、ボランティア情報までーー。

大西市長は「正確な現場の情報をつかんで、必要なときにタイムリーに送るというのがこれからの防災減災にとってはとても大事なことになる」と語る。

一方で、災害対策本部で片手にiPhoneを持ちながらの指揮する大西市長をいぶかしむ部下もいたという。

僕がTwitterに振り回されていたら困ると思われたのか、「一回置かれた方が良いのでは」と言われたこともある。

そういう心配もあるのだな、と。これを全て鵜呑みにするほど慣れていないわけではありませんから、と言いました。

あくまで参考にしながらなんです。すべてをTwitterに依存したら、世論はガッと触れて、おかしなことになってしまいますから》

「本当も嘘も多いのがSNS

実際、SNSには偏った情報だけではなく、不確かな情報も多い。

熊本地震のときにはツイッターで「熊本市の動植物園からライオンが脱走した」などのデマが駆け巡り、被災者を不安に追いやった。

《本当も多いけれど嘘も多いのがSNSなんです。不確実な情報や噂が流れやすい。デマを食い止めるために、正確な情報をきちんと発信していくことが大切です。

特に、私たちのように公式マークのついた行政アカウントなどが、信頼感のある情報を出していけば、ファクトもまた広がっていく。

フェイクというのは一旦はバッと膨らむのですが、きちんとファクトはこっちなんだと出せば、時間が経つうちに自然と消えていくと思っています》

デマを拡散させないために

熊本市から発表する震災関連の情報は、熊本市HPの情報が公式なものです。 https://t.co/EKv2YmY3Dr これ以外の発表は熊本市からの発表ではありませんのでご注意下さい。

ライオンデマを受けてツイートした内容

一方で、ひとつひとつを正していったとしても、次から次へと別の情報が出てくるという現実もある。

とくに情報が混乱する災害時、有事にはたびたび拡散を繰り返す。大阪北部地震や北海道地震などの災害でも、デマや噂が多々広がった。

北海道では典型的とも言える「余震デマ」が拡散し、新興住宅街の避難所に、若年層の避難が相次いだという事件も起きている。

受け手側は、何に気をつければよいのか。

《大切なのは、受け手のみなさんが一度必ず確かめるということ。RTするときはふた呼吸置いてください、といつも言っています。

とくに被災地にいるときは気持ちが高ぶっていますから、普通の精神状況と違うんですよね。とにかく、冷静になってもらうしかない。

そのためには、普段から情報を確かめる癖をつけてもらいたい。日常でそういう訓練ができていると、リテラシーが上がってくるはずですよね》

先出の「ライオンデマ」では3ヶ月後、発信者の20代男が逮捕された。調べに対し、「悪ふざけ」と話したという。

このような愉快犯は少なくはない。大西市長は「何らかの形で規制が必要になって来ると思います」とも語る。それは、SNSが「社会に大きな影響力を与えるもの」だからだという。

大切な「生身の暖かさ」

熊本市では震災後、市長の発信が功を奏したことを受け、Twitterの公式アカウントを開設した。

大西市長は「私にだけ頼ってても困る。トップが変わったら、同じような情報発信ができるのか。トップに依存せず、組織的に信頼できる情報発信ができるようになると良いですね」と笑う。

そして、そのためには平時の「信頼」こそが大切と、力を込める。

Twitterというデジタルなツールなんだけれど、アナログ感があるから親しみを覚えるんですよね。

熊本市役所もむちゃくちゃでは困るけれど、生身の暖かさみたいなものが伝わるように発信すれば、いざ災害のときには逆に「あのアカウントだから安心できる情報なのだな」となるかもしれない。

日常のツイートから信頼してもらうことこそ、私もやってきていることなんです

発信者は、天使にも悪魔にもなる?

【ONE PIECE(ワンピース) 熊本復興プロジェクト】として県内各地に設置される「麦わらの一味」の仲間たちの像。 設置場所が本日発表され、熊本市は動植物園に船医のチョッパーが設置されることが決定しました!! チョッパーが設置されるなんて・・・『嬉しいぞコノヤロー!(^ω^)』

とはいえ、それだけでも良いのだろうか。あくまで「一般論」として、こんなことも質問してみた。

Twitterでの信頼を勝ち取れた場合、行政長や行政そのものがその「信頼」を政治利用しようと思えばできる、危うさもあるのではーー?

《そういうことは往々にしてあるでしょうね。そこは受け手が敏感になることが大切だと思います。

信頼できるからといって、全て正しいと受け取ることは問題がある。常にどんな発信者であっても批判的に見るところは必要です。

情報を発信する人も、天使ではなく、時として悪魔になる可能性もある。受け手の人も批判的な精神を片隅に持ちながら、ソーシャルにしてもマスにしても、メディアと付き合うべきなのではないでしょうか》

背伸びをしないということ

発信者は日常の地道な積み重ねを繰り返し、信頼を勝ち取ることこそが大切だ。受け手側は、その情報が本当なのか、信頼に値するのか、批判的に吟味することが求められるーー。

そう語る大西市長に、最後に余談として、Twitterとのうまい付き合い方を教えてもらった。

《私は、日々の発信は音楽に関することに徹しているんです。得意分野しかやらないと、ミスをしないから。

苦手なところをやろうとするから、背伸びして、失敗しちゃうんですよ。たとえば普段発言しないような強い言葉をTwitterに書いちゃうと、仮に本音であっても炎上してしまう。

自分が正直に出るのがTwitter。自分にないものは背伸びしても出ない。大切なのは慣れないことをするな、ということですね