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県民投票を封じる「抜け穴」を自民議員が伝授? 沖縄で広がる混乱

ネット署名やハンスト、訴訟の動きも広がっている。

沖縄県で2月24日に実施される、米海兵隊普天間基地の辺野古移設をめぐる県民投票。

普天間基地がある宜野湾市をはじめ、実施をしない自治体が相次いでいる。参加できなくなる有権者が、3割を超える可能性もあるという。

首長の一存で投票ができなくなることへの反発は広がり、全県下での実施を求めるネット署名などの動きも出ている。いったい、何が起きているのか。

現段階で不参加を表明しているのは、宜野湾、沖縄、宮古島、石垣、うるまの5市。有権者は計36万人、沖縄県全体の約32%となる。

このままでは「県民投票」といえど有権者が7割を切ることになり、さらに沖縄市に住民票のある玉城デニー知事自身も、投票できないことになってしまう。

そもそもこの県民投票は、9万2848筆の署名が提出されたことを受け、条例が制定されて実施が決まった。ただし、その投票結果に法的拘束力はない。

「賛成」「反対」の二者択一の選択肢の変更があれば応じるとしている市もあるが、玉城知事は現状のままの実施する構えを崩していない。

条例制定時、県政野党の自民党と公明党が選択肢に「やむを得ない」「どちらとも言えない」を加えた4択案を出していたが、否決されているという経緯もある。

県民投票をめぐる「抜け穴」

不参加を表明している5人の市長は、いずれも安倍政権に近い保守系だ。とはいえ、なぜ県条例で定められた県民投票の実施を拒否できるのか。

実は、「抜け穴」があった。

そもそも投開票事務の一部は市町村が実施するが、その経費は県が全額負担することになっている。問題は、市町村議会が、県から交付された経費の予算計上を否決した場合だ。

その場合、首長は地方自治法に基づき、議会に「再議」を求めることになる。この再議においても議会が否決をした場合、同法177条2項にある通り、首長が予算計上「できる」とされている。

議会の議決がなお同号に掲げる経費を削除し又は減額したときは、当該普通地方公共団体の長は、その経費及びこれに伴う収入を予算に計上してその経費を支出することができる。

県民投票を拒否する自治体は、この「できる」という言葉を首長の「裁量」と捉え、不実施の意向を示しているのだ。これが、「抜け穴」だ。

県側の見解は違う。「できる」という言葉は「権利等を与えられていると同時にその権利等を一定の場合には行使する義務をも負う、という意味も含む」「市町村の長に裁量権を付与したものではない」としている。

自民議員が「抜け穴」を指南?

こうした「抜け穴」を指南する文書が、弁護士の資格を持つ自民党の宮崎政久衆議院議員(比例九州)によって作成されていたと、琉球新報などが報じた。

それによると、「県民投票条例への対応について」「県民投票条例への対応に関する地方自治法の解釈」などという文書が、保守系市町村議員らの勉強会で配布されたという。

資料には、「予算案を否決することに全力を尽くすべきである」などと記され、地方自治法177条の法的解釈や、「議員が法的責任を負うことはない」などとも記されていたという。琉球新報は以下のように指摘している。

市町村議員が議会での予算案を巡る反対討論や反対の意見書で指摘した内容は、宮崎氏の主張と一致している。現在、投票事務を拒否している市長らの見解とも重なっている。

一方、宮崎議員は1月16日に会見を開き、勉強会は「県民投票への反対を説いてまわるように開催したものではない」とし、さらに政府や自民党本部の関与はないとも説明した。

また、Facebookでは以下のようにコメントしている。

議員の皆さんから要望があり県民投票条例に関する勉強会が開催されたことは事実であり、その際に話の内容が法令に関連する点もあることから、参加された方の理解のためレジュメを作成しました。

私が一定の見解を強制できるものでないことは改めて申すまでもありません。勉強会の際にも、私ができるのは勉強会という場で意見交換をするところまでであり、その後のご判断は、各議員で自由に行ってくださいともお伝えしております。

ネット署名も始まった

県民投票に関する無作為の世論調査では、「賛成」と回答した人が74%を占めた。不参加表明した5市でも、いずれも過半数を超えている。

そうした人たちの投票の機会を奪って良いのかーー。実際、反発の声も広がっている。

沖縄県弁護士会は1月11日付で、「投票資格者の政治的意思を表明する権利をないがしろにし、直接民主主義の意義を没却する、由々しき事態」とする会長声明を発表。

「たまたま居住している地域によって投票できる者とできない者が生じることは、法の下の平等の見地からも、極めて不合理」として、不参加を表明した首長を批判している。

また、ネット上では、「すべての沖縄県民が等しく参加できるように、沖縄県内の全市町村で実施されることを求めます」とする署名も始まり、すでに1万筆が集まっている。主催者は、以下のように訴えている。

このままでは住んでいる場所によって、投票権を行使できる人とできない人とが生まれることになります。

実施が決まった県民投票の機会を首長と議会が奪うことは、住民の意思を反映させることを拒むようなもので、日本に暮らす国民として看過するわけにはいきません。

宜野湾市を相手に損害賠償を求める訴訟を起こしたり、沖縄市に行政不服審査を求めたりする動きも出ている。

さらに1月15日には、県民投票の実施を求めて署名活動を行った「辺野古県民投票の会」の代表の元山仁士郎さんが、宜野湾市役所前でハンガーストライキを始めた。今後も、こうした動きは拡大しそうだ。