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川崎殺傷事件、ネットに広がった「犯人は在日」 根拠なく拡散した“トレンドブログ“とは

事件後に作られる「顔画像やFacebookは?国籍は?韓国人?」などといったトレンドブログが、そうした言説を拡散していた。識者からは「ヘイトスピーチ」と指摘する声もあがっている。

川崎市登戸の路上で5月28日朝、児童ら19人が相次いで殺傷された事件。

通学バスを待つ子どもたちを襲った直後に自殺したのは、市内に住む岩崎隆一容疑者(51)だった。

事件の発生は午前7時40分すぎ。一方で神奈川県警が容疑者の特定作業などを終えて氏名を発表したのは、同日夜になってからのことだった。

しかしインターネット上では、事件の発生直後から、「犯人は在日」などという書き込みが相次いだ。

そもそもメディアが容疑者の名前を記事に明記するのは通常、警察の発表を受けてからのことになる。

今回の事件のように容疑者が死亡している場合は、警察の捜査員も、本人に話を直接聞きながら裏付けを取っていくことができない。

たとえば容疑者が健康保険証のようなものを身につけていたとしても、それが確実に本人の物なのかを確認するには、一定の時間が掛かる。

さらに、刑事責任能力の有無の検討が必要になるケースもあり、事件・事故後に警察が容疑者の名前をすぐに公表しないことは、珍しくない。

出回った決めつけ

一方で今回の事件では、容疑者の人定がはっきりしない状態から、「在日」という決めつけに等しい言説が多々、流布されていた。

Twitterにあふれたのは、以下のような言葉だ。

「犯人は在日らしいよ」「川崎って在日多いから…?」「在日朝鮮人による無差別殺傷事件が増えてきている」

そうした言説を拡大させたのが、「トレンドブログ」だ。

検索エンジン対策(SEO)に長けており、ユーザーが検索しそうなキーワードを先回りして記事化し、検索からユーザーを流入させてページビューを得ることで、広告収入を稼いでいるとみられるブログ群だ。

その内容は、ほかのサイトの記事の引き写しや、単なる憶測に留まっていることが多い。

社会の注目が集まる事件・事故が発生するたびに、容疑者のプロフィールや顔写真を紹介するといった触れ込みのトレンドブログの記事が、大量に作り出されている。

今回の事件では、たとえばこんな記事が掲載されていた。

《川崎市登戸事件の犯人は韓国人(在日)だった?顔や名前はまだ?画像や動画は?住所は多摩区登戸新町?》

《顔画像やFacebookは?国籍は在日韓国人が川崎登戸の通り魔事件の犯人か》

いずれも断片的な情報を切り貼りし、「彼の家族の情報などが今後明らかにならないと、彼の国籍や在日韓国人などと決めつけるのは難しいでしょう」「確かに、韓国料理店などが多いですが、今回の犯人が韓国人であるとか在日であるとかの証拠はありませんでした」などと結んでいる。

見出しは思わせぶりだが、記事内にきちんとしたファクト(事実)はなく、「在日」であることへの断定も避けている。

それでも、タイトルやサムネイルだけを見て誤解する人は少なくないだろう。

トレンドブログは検索エンジンで上位に表示されることを目指し、検索されそうな言葉を先回りして考え、記事化している。

「犯人、在日」などと検索する大勢の人たちの存在があるからこそ、そこからの流入を狙った、こうした記事が多数作り出されているという現実がある。

繰り返されてきた「ヘイト」

「こんな事件を起こすのは○○人に違いない」などと、出自と犯罪を結びつけて一般化することは、明確な差別だ。

外国人差別などに詳しいジャーナリストの安田浩一さんは5月29日、参議院議員会館で開かれた「ヘイトスピーチ対策法」施行から3年となったことを受けたシンポジウムで以下のように語り、日本社会に潜む民族差別の存在を指摘した。

「容疑者の身元が確認されるまでの間、ネットにはどんなことが流れたのか。

犯人は外国人に違いない、川崎だから在日コリアンが多いからおそらく在日だろう、名前が発表されないのは何らかのの忖度があるなーー。

ふざけるな、という気持ちでいっぱいになりました。凶悪事件が起きるたびに、ヘイトにまみれたデマが流布され、信じる人がそれを広げる。

多くの場合には全くマイノリティが関係ない場合が多いにもかかわらず、何度なんども繰り返されている」

ヘイトスピーチ対策法は、2016年6月に施行された。

「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」を防ぐことを目的にしているが、具体的な罰則などが規定されていないこともあり、現状が改善されたとは言い難い。

安田さんも、「施行以降もヘイトスピーチが野放しになっている。法律の実効性を考えないといけない」とも語った。

対策法に限界も

ヘイトスピーチ問題に詳しい師岡康子弁護士も、シンポジウムで川崎の事件のようなケースに言及した。

「対策法で『啓発活動を行う』としているのだから、今回のように特定の民族と犯罪を結びつけることそのものがヘイトスピーチであると、政府が言うべきではないでしょうか。デマが広がっているのであれば、それを指摘するべきです」

そのうえで、この3年間でヘイトデモが半減したり、民事裁判で差別的言動に対する慰謝料が支払われやすくなったという効果も生まれているとしながら、理念法ゆえの「対策法には限界がある」とも述べた。

今年4月には入管法も改正され、今後は在留外国人がよりいっそう増えることになる。

師岡弁護士はその点にも触れながら、「禁止規定や罰則規定、さらに救済措置などを含めた人種差別禁止法の必要性が明確となっているのではないか」と語った。

UPDATE

「根拠なく」を見出しに追記しました。