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東京入管で起きた「異変」 消えた味噌汁と醤油、牛豚肉…?

長期収容が問題視されるなか、「実質的な有料化」という批判も上がっている。

東京入国管理局が、収容している外国人に出している給食で、味噌汁と、小分けのパックに入った醤油の提供を中止していたことが、BuzzFeed Newsの取材でわかった。同時に、牛肉と豚肉の提供も止めたという。

入管はその理由を「一部の収容者に対する宗教的な配慮」としている。

味噌汁とパック醤油は、希望者がお金を出して購入する方式に変わった。一方、味噌と醤油そのものは、今後も調味料として給食の調理に使うという。収容者やその支援者からは「味噌汁と醤油が実質的に有料化された」という反発の声が上がっている。

東京入管の説明や複数の関係者の話を総合すると、いままで給食に付いていた味噌汁と、パック醤油の提供を止めたのは、2019年2月から。あわせて、牛肉と豚肉を使った献立も出さなくなった。

東京入管は、その理由をBuzzFeed Newsの取材に「こうした食べ物に宗教上の問題がある収容者への配慮」とした。

「宗教的な配慮」

実際、イスラム教では豚を食べることが禁じられている。ヒンドゥー教徒の多くも牛を「神の使い」とし、食べることを避ける。

味噌汁と醤油については、アルコールが含まれたものがあることが理由だという。イスラム教徒はアルコールを避ける。

入管が収容者に出す食事は今後、鶏肉と魚が中心になるほか、味噌汁とパックの醤油に関しては、希望する収容者が、入管が提携する庁舎内のコンビニで購入する方式にしていくという。

入管は収容者それぞれの宗教や生活習慣に個別に配慮して献立を変えるのではなく、牛と豚と味噌汁と醤油を、それが差し支える人も差し支えない人にも一律に出さない、というかたちをとったことになる。

では、それが本当に、宗教的な配慮として十分なのか。

味噌汁は出さない、でも調理には…?

入管は味噌汁と醤油の提供は止めた。一方で味噌と醤油は、これからも給食の調理に使うという。料理酒やみりんも使っているという。

その理由を入管は「味噌、醤油やみりん、酒を使わないと調理の幅が狭まるため」という。イスラム教徒にとっては豚肉に加え、アルコールの有無が宗教上の問題となるが「調理の過程で火を通すため、飛んでしまう」としている。

だが、アルコール分が飛んでいたとしても酒やみりんを使った和食を避けるイスラム教徒は、少なくない。

鶏肉も本来は、食肉処理時に神の名を唱えて祈るといった一定の作法に従ったものを使う必要がある。

近年では観光などで日本を訪れるイスラム教徒のために、こうした決まりに従った「ハラール食材」を出すレストランや焼き肉店などが増えているのだ。

豚肉と味噌汁、パック醤油の提供停止だけでは、イスラム教徒への配慮としては不十分といえる。

菜食のヒンドゥー教徒は…?

牛肉の中止は、ヒンドゥー教徒への配慮と説明している。インドのヒンドゥー教徒には、牛肉のみならず、鶏肉も魚も食べない菜食主義の人が多い。インド人口の2−3割をこうした菜食主義者が占める。

菜食主義の人は、例えば野菜の煮物でも、それが鰹だしであれば避ける。よって、牛肉を避けても、それだけでヒンドゥー教徒への配慮を十分果たしたとは言えない。

支援者からは批判も

複数の収容者によると、味噌汁に関しては、10個入りインスタントが200円ほどで販売されるようになった。醤油は2月14日現在で、まだ売られていないという。

入管施設では法務省の「被収容者処遇規則」に基づき、収容者に1日3回の食事が提供されている。

第二十五条 被収容者に給与する糧食は、主食、副食及び飲料とする。

2 前項の主食は、被収容者の食習慣を勘案し、米、麦、パン及びめん類等とする。

第二十六条 被収容者に給与する糧食の一人一日当たりのエネルギーは、二千二百キロカロリー以上三千キロカロリー以下とする。

しかし、この食事の内容や栄養バランスなどの改善を求める声が、収容者からたびたび上がっている。これがもとでハンガーストライキが起こったこともあった。

収容者に対し、外部からの食事の差し入れはできない。収容者がお金を持っていれば提携コンビニで食品を買うことはできるが、その品目は限られている。

そうした中での入管の対応に、支援者からは「給食の一部が実質的に有料化」「兵糧攻めだ」といった批判が上がっている。

一方、東京入管の担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、今回の変更内容でも提供カロリーは法務省令の定めた基準に基づいているとしたうえで、「一部有料化ではなく、問題はない」という認識を示した。

宗教に合わせた個別の対応ではなく、一律に提供を止めた理由については、「混入のおそれがあることに配慮した結果」としている。

問題視されている長期収容

入管をめぐっては、施設に半年以上も収容されている「長期収容」の数が増えており、問題視されている。

「長期収容」は、2018年9月末現在で713人。2〜3年を超えるケースもあり、自殺者や死者なども出ている。

一連の決定は、すべて裁判所の判断を経ることなく、入管が決めることができるため、人道的観点から批判する声は少なくはない。

収容生活では、外部との連絡手段は公衆電話と手紙だけ。運動時間も制限されているほか、多くは6人部屋での暮らしが続いており、ストレスを抱える収容者は少なくない。

1年以上収容されているある女性は、BuzzFeed Newsに「突然、味噌汁や醤油、牛や豚がなくなるという『おしらせ』がありました。理由がわからなかった」と語る。

収入や貯金があるわけではないため、同じ国の友人からの支援が頼りだ。200円の味噌汁でも、金銭的には厳しいという。

一時的に施設から出られるための「仮放免」などを申請しているが、収容は解かれていない。女性はこう語った。

「ただ、しょうがないです。私たちは、入管が決めたことに意見はできないので……。とにかく、早く出してほしい」