原爆で失われた、日常。人工知能によるカラー化でよみがえった記憶

    73年前の広島が、色を取り戻した。

    タンポポに囲まれて、笑顔を見せる家族連れ。これは、人工知能によって色付けされた戦前の広島の写真だ。73年前に落とされた原爆で失われた、光景だ。

    「白黒写真では、どうしても大昔の出来事になってしまうことが、カラー化によっていま私たちが生きる時代と、オーバーラップするんです。過去が、見慣れた景色に近づいてくる」

    そうBuzzFeed Newsの取材に話すのは、AI(人工知能)技術を用いた写真のカラー化で「記憶の解凍」に取り組む東京大学の渡邉英徳教授だ。

    渡邉教授は毎日、Twitterに「過去のきょう」に撮影された戦時下などの写真を、投稿している。多くの人たちに、過去をより身近に感じてもらいたいからだ。

    「戦争で破壊される前の人の営みを伝えることは、戦争の悲惨さを際立たせることにもつながります。たしかに、こういう人たちが生きていた。そうした人々の”生”を、何もかもをなくしてしまうのが、戦争なんだ、というメッセージにもなる」

    冒頭や上の写真は、渡邉教授のレクチャーを受けた広島女学院高校の生徒たちが、その技術を用いて色付けをしたものだ。

    こうしたカラー化は、すべてをAIに頼るわけではない。いったん自動でカラー化した写真を当時を知る人たちに見せ、色をヒアリングするという作業が必要になる。

    「一度AIでカラー化した写真を見せると、色の話が始まるんです。白黒の状態では出てこない、新しい要素に気がつくこともある。『ああ、このお花はタンポポだよ』といったように」

    シロツメクサだと思っていた花の色は、そうして黄色になる。まさに「記憶の解凍」だ。

    実際、有志でプロジェクトをはじめた広島女学院高校の生徒たちは、被爆者らと1対1のコミュニケーションを取りながら、写真のカラー化を進めていったという。

    「この学生服はちょっと、赤みが強いね」「80年前に引き戻してもらって、感謝ですよ」。そんな、会話が生まれていく。

    「インタビューの聞き手は、そうして記憶を掘り出していく。受けとられた記憶が、新しい世代に引き継がれているとも言えるんです」

    「記憶の解凍」展で展示した、濱井德三さんとお兄さんのお写真。背後には産業奨励館=現在の原爆ドーム、が写っています。

    こうして「過去をいまに接続」することは、風化に抗うことにもつながるという。

    「たとえば当時の女学生の日常を切り取った写真を、いまの女子高生に見せると、『みんな意外に美脚だ!』と笑い合うんです。まさに過去が現代につながった瞬間ですよね」

    「風化とは、時間の経過によって、史料の価値を人々が忘れることによって起きるものです。カラー化を通じて、いまの世代が過去と対話するきっかけを生み出すことで、史料そのものの価値をあげることにつながるのではないでしょうか」

    そのうえで、渡邉教授はこうも強調する。「記憶の解凍は、まだ間に合う」と。

    まだ、当時を知っている人たち、語れる人たちがいるからこそ。今回の広島女学院のケースのように、各地でこの技術が広がっていけば良い、と感じている。

    「その地域で文脈を知っている人たちが作業に関わることで、各地に眠っている多くの記憶の解凍が進んでいく。技術の広がりとともに、ボトムアップで世界が変わっていくはずです」