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「朝鮮学校に寄せられた中傷メッセージの展示は自作自演」デマが拡散、作者の思いは

東京朝鮮中高級学校美術部に寄せられた誹謗中傷をテーマに、文化祭に展示された作品は、ネット上で大きな反響を得た。一方、「自作自演」というデマが拡散し、さらなるヘイトが寄せられることにもつながった。経緯を振り返る。

6月中旬、朝鮮学校で開かれた文化祭で、同校美術部に寄せられたネット上の中傷メッセージを書き写し、貼り合わせた展示が注目を集めた。

生徒たちに寄せられる誹謗中傷を可視化するという狙いがあった作品だったが、ネット上で拡散したあとには「自作自演」だというデマが広がり、ヘイト書き込みが再び相次ぐ、という事態も起きた。

いったい、何が起きたのか。

話題を呼んでいたのは、東京朝鮮中高級学校美術部の文化祭に展示された「Cafe:Freedom of expression」という作品。

美術部のTwitterアカウントに寄せられていたり、ネット掲示板に書かれていたりするコメントを紙に書き写し、貼り合わせた空間に作者が入り、鑑賞者と対話する、というコンセプトだ。

なぜ、わざわざ手で書き写したのか。同校美術部は、BuzzFeed Newsなどの問い合わせに応じ、見解を公式Facebookに掲載した。

「インターネットで一般的に使われている活字では、言葉が本来持つ重みが損なわれてしまうと考えた為、今回の作品では敢えて肉筆でヘイトのコメントを書き出しました。それによって、同じ言葉でもネット上では感じることの出来なかった部分を炙り出す事が出来たと考えています」

一方、そうした作業は苦しみを伴うものでもあった、とも振り返る。

「実際に多くの誹謗中傷を目の当たりにし、精神的にも多くの苦痛がありました。美術部の部員の中には、誹謗中傷が原因で体調を崩してしまう部員もいました」

そうして完成したこの作品は、「涙が出る…」なととネットで大きく拡散した。現代美術家の会田誠さんも「美術だ」とコメントするなどし、反響を呼んだ。

なぜ、ヘイトが相次いだのか

先日21日にYES PEACE! SDGs ハッピーアースパレード in 渋谷に参加し、朝鮮学校の高校無償化と文化祭での美術部企画、アンデパンダン・デパンダン展への参加を呼び掛けました。

そもそも、美術部に対するTwitter上でのヘイトコメントが相次ぐようになったのは4月末頃のこと。その数は400〜500件ほどだったという。

きっかけは、美術部がアースデイのパレードに参加した際のツイートだった。

当初はひとつひとつにメッセージを返信していたが、「拉致被害者を返せ」というコメントもあり、それに対する回答が批判を集めて炎上した。この点については、以下のように謝罪している。

「私たちのツイートが誤解を招くような発言であったこと、拉致被害者の方々やご親族の方々にとって傷つくような発言であった事を心から申し訳なく思っています。私たちへの誹謗中傷に対する反論だったとはいえ、拉致被害者を冒涜していると思われても仕方のないような言葉の選びであった事を反省しています」

ツイートは削除し謝罪したが、炎上はおさまることはなく、ネット上ではさらなるヘイトコメントや誹謗中傷が寄せられるようになった。「とても対応出来るような数」ではなかった、という。

しかし、学校内でもヘイトに直面している人と、そうではない人の温度差は大きかった。

「学校内の生徒は、ヘイトスピーチが存在する、自分達に対して誹謗中傷をしている人がいる、という事は知っていましたが、実感として理解出来ている生徒はいませんでした」

「私は社会全体に、そして朝鮮学校の他の生徒達にヘイトスピーチや誹謗中傷を実感として知ってもらう為に、今回の作品を作ろうと思いました」

広がった作品に関するデマ

そうして完成し、評価も受けた作品だったが、一方で「デマ」も出回った。

拡散したのは、「あじあにゅーす2ちゃんねる」というまとめサイトの「朝鮮学校さん、学校に寄せられた日本人からの中傷メッセージを展示 ⇒ 筆跡と用紙が全部同じで自演がバレるwwwwwwww これは酷いwwwwww」という記事だ。

記事では今回の作品を取り上げたツイートを引用しながら、ネット掲示板のこんな書き込みを取り上げている。

・全部同じ紙
・全部同じ筆跡

自演確定だね

そのほか、「同じ筆跡の文章が何枚もあるな」「被害者を装うために自作自演している」「お得意の自作自演かw」などという言葉も散見される。

張り出されているのは、「美術部のTwitterやネット上の掲示板に書かれたコメントを書き写したもの」なのだから、そもそも筆跡が同じであるのは当たり前だ。

記事では「Twitterの中傷コメントを書き写したものでは」という指摘も掲載はしているが、ほとんどは「自演」を指摘するメッセージで、見出しも同様だ。

つまり、虚偽情報、デマであると言えるだろう。

「帰ってください」ヘイトスピーチも

この記事に関するツイートは2500近くリツイートされ、拡散。これを鵜呑みにした人からのリプライも相次いでいる。

「そこまでして日本人を貶めたいんだ」「捏造が好きな人種」というもののほか、「いやほんと帰れよ」「日本が嫌なら、帰ってください」などというヘイトスピーチも含まれている。

当該記事はすでに削除されているが、同様の記事は「アルファルファモザイク」や「厳選!韓国情報」というまとめサイトのほか、複数のブログにも掲載されている。

こうした状況を、美術部側はどう捉えているのか。

「今回の展示がネット上で大きな反響を呼ぶ事によって、特定の民族に対するヘイトが世の中に蔓延していて、そのヘイトによって攻撃を受けている人がいる、という事実が可視化され、社会で日の目を見るようになったと思っています」

「この問題提起によってネット上に限らずあらゆる人がこの問題について考えを深め、お互いに議論する事が、今回の作品の最大の目的であり、一つの到達点であると考えています。また、作品にとって良い意見ばかりでなく、良くない意見も出てくる事が、議論を活性化する上でとても重要な事だと思っています」

そのうえで、ヘイトを送る人たちに向けても、こんな思いを綴った。

「私はヘイト発言をする方々と敵対しようと考えている訳ではありません。お互いに理解しようとする姿勢を持って接する事が出来れば、必ず相互理解する事が出来ると信じています。当日いらっしゃった方との『対話』をしたのはそのためです」

「お互いが理解し合い、共存していく社会、それぞれの尊厳が尊重される社会を作っていく為にも、相手を理解する姿勢を持つことが何よりも重要だと考えています。ヘイト発言をした事がある人、された事がある人に関わらず、全ての人が相手を理解し尊重する気持ちを持ってほしいと思っています」

作品は今後、「在日朝鮮学生美術展」に出品する予定だという。