「ネットのデマを社会に拡散した」 ニュース女子問題 「人権侵害」の団体が見解

    BPOが「名誉を毀損した」とする勧告を出したことを受け、「のりこえねっと」が声明を発表した。

    放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会が3月8日、TOKYO-MX放送の情報バラエティー番組「ニュース女子」の1月2日、9日放送回について、「申立人の名誉を毀損した」とする勧告を公表した。

    これを受け、人権侵害の申し立てをしていた団体「のりこえねっと」が会見を開き、BPOの勧告を評価しつつ、MXや制作元であるDHCテレビジョンの対応や、当該番組がネット上で掲載されている点などを批判。

    動画削除や是正などの「人権回復」の対応が取られない場合は、法的措置の検討も辞さない構えを示した。

    まず、経緯を振り返る

    「ニュース女子」はバラエティー色のある情報番組。

    スポンサーが制作費などを負担し、制作会社が番組を作って、放送局は納品された完成品(完パケ)を放送するいわゆる“持ち込み番組”だった。制作は化粧品大手「DHCグループ」傘下の「DHCテレビジョン」が担っている。

    2017年1月2日、MXで沖縄基地問題の特集を放送した。

    「沖縄緊急調査 マスコミが報道しない真実」「沖縄・高江のヘリパット問題はどうなった?過激な反対派の実情を井上和彦が現地取材!」などと題し、沖縄・高江の米軍ヘリパッドへの反対運動を報じた。

    その中で、米軍ヘリパッド建設に反対する人たちを「テロリスト」と表現したり、「日当をもらっている」「組織に雇用されている」などと伝えたりした。また、日当については「のりこえねっと」が払っていると指摘した。

    放送後、批判の声が相次ぎ、「黒幕」として名指しされた「のりこえねっと」の辛淑玉共同代表が、人権侵害の申立書を委員会に提出していた。

    BPO「名誉毀損の人権侵害」

    「ニュース女子」をめぐっては、BPOの放送倫理検証委員会が2017年12月14日、「重大な放送倫理違反があった」と極めて重い内容の意見書を公表した。

    一方のMXは3月1日、「ニュース女子」の放送終了を発表。制作元のDHCテレビジョンは5日、番組を地方局やネット上などで継続すると発表している。

    3月8日に出されたのは、辛代表の申し立てに対する決定だ。放送人権委員会は「名誉毀損の人権侵害が成立する」との判断を下した。

    ここでは、「放送対象者に取材を行わなかったことを容易に考査で指摘できたのにも関わらず怠り、『特段の問題が無かった』とした」という点に加え、人権や民族を取り扱う際に必要な配慮を欠く放送内容に関しても、それを問題としなかった点について、放送倫理上の問題があると判断している。

    「MXはネットのデマを拡散させた」

    「のりこえねっと」はこの日の声明で、「ニュース女子」について、「沖縄基地反対行動に参加する人への揶揄とデマ、さらにはマイノリティのヘイトスピーチを扇動した」と改めて批判。「悪意を持った歪曲されたひどい内容」「根拠のないもの」とした。

    そのうえで、「歪曲とこの放送内の沖縄ヘイトデマにより、多くの人々がいわれない中傷を受け苦しめられた」と指摘した。

    また、31の地方局が「ニュース女子」の放送を継続している点や、制作元のDHCテレビジョンが勧告の出された放送回をネット上に載せたままにしている点について、「許されない」とし、放送や掲載の中止を求めた。

    ネット上での拡散によって「人権侵害が深刻化した」ことがその理由だ。

    辛代表は会見で、「MXのやったことは罪が深い。いままでネットの中にあったデマを社会に飛び立たせた」と声を震わせた。

    脅迫や嫌がらせの被害も

    ネット上では「ニュース女子」のみならず、「在日朝鮮人」をめぐるデマや脅迫、誹謗中傷が相次いでいる。2月23日には、朝鮮総連に対する右翼勢力の発砲事件が発生した。

    辛代表はこうした社会情勢に触れながら、「ヘイトがテロに移る、その扉を開いたのはMXです」と批判した。

    「ネットのデマは散弾銃なのです。打ち込まれたら八つ裂きになり、世界中どこでも見られてしまう。消すことができない。毎回説明しなくてはいけない」

    「多くの人たちは、検証する術を持っていません。ネットで拡散されれば、それをベースにして具体的な行動を起こす人が、必ずいます」

    問題後、「死ね」「殺す」という脅迫の手紙やメールを送られたり、仕事のクライアントに嫌がらせ電話をされたりする被害も受けた。

    また、駅や家のまわりといった日常生活で知らない人から侮蔑の言葉を投げつけられたり、サインを送られたりする、「いままでにない嫌がらせ」も起きるようになった。

    こうしたヘイトから身を守るために、辛さんは2017年11月からドイツで暮らしている。2年間の予定といい、「事実上の亡命」だという。

    そのうえで、委員会の勧告で人種差別についての言及があった点について、「BPOの決断は放送人の最後の良心の決断だったと感じています」と評価した。

    また、「BPOも私と同じように叩かれる。これからどんなひどいことを書かれるかと思います」と、今後への不安も語った。

    是正がない場合は法的措置も

    MXはこの問題をめぐり、訂正や謝罪をしていない。

    代理人の金竜介弁護士は、「MX側はうっかり放送してしまった、で済むわけではない。是正する機会はいつでもあった。人権を回復する機会もあった。しかしそれを一度もしていない」と批判。

    そのうえで、動画の削除や是正など、「きちんとした人権回復の手段を講じるなどの対応がない場合」は、法的措置も視野に入れているとの見解を示した。

    制作しているDHCテレビジョン側についても、同様の対応を検討するという。


    BuzzFeed Newsでは、DHCテレビジョンにBPOの意見書に対する見解や改善点、放送先などについて取材を申し込んでいる。回答があり次第、更新もしくは記事を公開する。