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【全文】高橋まつりさんの母親が電通の石井社長に話したこと 「このことを胸に刻んで」

長時間労働をさせていたとして厚生労働省に書類送検された大手広告代理店・電通。謝罪した社長に対し、母・幸美さんが述べたこととは。

違法な長時間労働をさせていたとして厚生労働省に書類送検された大手広告代理店・電通。

2015年12月に過労自殺をした新入社員、高橋まつりさん(当時24)の母親・幸美さん(54)が1月20日、会見を開き、同社と合意書を調印したことを明らかにした。

調印にあたっては、石井直社長から幸美さんに対して謝罪の言葉が述べられたという。また、合意書では高橋さんの死に対する責任を認めたほか、再発防止策などが示された。

関連:電通の石井社長、高橋まつりさん母に謝罪 双方で合意書に調印

会見で、幸美さんがその際、「石井社長に話した内容」として公表した全文は以下の通り。

本日合意しましたが、娘は二度と帰ってこないし、抱きしめることはできません。

娘が死ぬほど辛かった、死の原因となった連続の深夜残業・休日出勤。これらの業務が私的情報収集・自己啓発などの名目で業務として認められていなかったこと。

このことが原因で、娘の残業申告時間は月70時間に収まっていました。そのため、娘は産業医との面談も受診していませんでした。

これらが業務として認められていたら、残業時間を正確に申告することが許されていたら、娘はどこかで誰かに救われていたかもしれません。娘は死なずにすんだかもしれません。

「ハラスメントや長時間勤務に関する相談が本人からなかった」といわれていますが、彼女のメールには、くり返し「会社に行くのが恐い」「上司が恐い」「先輩が恐い」「相談したことがわかったら恐い」とありました。

電通における社風「体育会系レベルではない異常な上下関係」「年次の壁は海より深い」と娘が言っていた社風であるのに、新入社員が相談できる相手は年のごく近い先輩だけしかいなかったのです。

人事に相談しても有効ではなかった。

12月には特別条項まで出されていました。11月に勇気を出して、人事や上司に相談していたのに、誰も娘を助けてくれなかったのです。

娘が生きていたら、誰かが娘を助けてくれていたら、娘は今でも電通のために働いていたでしょう。娘の希望どおりに英語や中国語を活かして仕事をしていたかもしれません。

そして、娘の描いていた夢のとおり、将来は母と弟を招いてハワイで結婚式を挙げ、子どもを産み、母を東京に呼んで一緒に住んでいたかもしれません。私は、娘と一緒に孫を育てていたでしょう。

日本の発展に貢献するために教育を受けてきた娘は、それを実現することができたでしょう。私は今でも娘を抱きしめることができたでしょう。

みなさんは、このことをしっかりと心に刻んで下さい。

彼女の配属希望では、デジタル部門は7部門中一番希望しない7番目でしたが、娘は電通の仲間として迎えられたことを誇りに思っていました。世間では、彼女は電通に入社しなければよかったのにと言われています。

こう言われていることを返上できるよう、ひとり残らずすべての社員が幸せにいられる会社に変えてください。

過労に苦しむ人たちに伝えたいこと

会見で、「まつり」という名前には、元気で明るくお祭りみたいな子になってほしい、茉莉花(ジャスミン)のような子になってほしいという意味を込められたと明かした幸美さん。

「もし伝えられるのなら、合意を受けてどういうことを伝えたいか」と記者に問われると、声を詰まらせながらこう答えた。

「本当に、その質問があったらなんて答えればよいのだろうとずっと思っていたのですが、娘に報告ができたら、どこかで生きていて見ていてくれればいいのにという気持ち、ただそれだけです」

一方、「いまも長時間労働に苦しむ若い人たち」に何を伝えたいか、というBuzzFeed Newsの質問には、こう話した。

「会社に入社して、成果を求められ、それに応えようと頑張っているのだと思います。ただ、本当に頑張りすぎないで、どこかでSOSを出してほしいし、逃げてほしいと思います。どこかに戻るところがあれば、戻ってほしい」

このことが、「本当に無念でした」という幸美さんは、つぶやいた。

「娘が生きていた24年間は、本当に、幸せでした」

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