なぜ7人同日の死刑執行は「異例」なのか。オウム事件、専門家が危惧すること

    日本国憲法下で、同じ事件に関係した死刑囚が多数かつ同時に執行された例はない。

    オウム真理教をめぐる一連の事件で、麻原彰晃(本名・松本智津夫)死刑囚ら7人に刑が執行された。

    同一事件の共犯者の死刑は同時執行が原則とされているが、同じ事件で7人も執行されるのは、現行憲法下では例がないという。専門家からは「異常だ」との指摘も出ている。

    一連の事件をめぐっては、13人の死刑が確定していた。

    このうち7人が3月、東京拘置所から全国5か所に移送されており、死刑執行に向けた準備ではないかとの見方が広がっていた。

    7月6日に死刑が執行されたのは、オウム真理教の教祖で一連の事件の「首謀者」とされている松本智津夫(63)と、元幹部の早川紀代秀(68)▽井上嘉浩(48)▽中川智正(55)▽土谷正実(53)▽遠藤誠一(58)▽新実智光(54)の各死刑囚だ。

    「シンボリックなメッセージ」とは

    「日本国憲法下で、ひとつの事件で、ここまでの人数が死刑になったのは初めてです。7人を同時に執行する光景は、残虐とも言えます」

    そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、龍谷大学犯罪学研究センター長の石塚伸一教授(刑事法)だ。

    石塚教授によると、死刑の執行数が年30人を超えることもあった昭和30年代には、多人数の同日執行が行われていた。だが、同じ事件に関係した死刑囚が多数、同時に執行された例は、現行の憲法下ではないという。

    ただし、戦前の大日本帝国憲法下では、明治末期の思想弾圧事件、大逆事件で明治天皇の暗殺を企てたとして死刑判決が出た24人のうち、幸徳秋水ら11人が1912年1月24日に、1人が翌25日に処刑された例がある。

    「同一事件同時執行の原則は、慣例として戦後に始まったものです。共犯者のいずれかが執行されたり、執行されなかったりするのは不平等だという考え方のほかに、残されたものの不安感が高まることを防ぐ意味をある。つまり、共犯者が自殺をする可能性を危惧しているのです」

    「しかし今回の場合は、死刑が確定した13人のうち、先に7人の刑を執行した。すでにここで原則から矛盾しています。なぜ7人なのか。これは、政府としてシンボリックに『オウムは終わった』というメッセージを示す必要があると考えたからではないでしょうか」

    7人まとめて命令書にサインか

    死刑の執行は刑事訴訟法に基づき、法務大臣の命令によって行われる。同法476条では、「法務大臣が死刑の執行を命じたときは、5日以内にその執行をしなければならない」と定められている。

    石塚教授は、こうも指摘する。

    「できるだけ死刑囚の生を保障しようという観点から、月曜日に命令が出され、木曜日や金曜日に刑が執行されることが多い。上川陽子法務大臣も同様に、まとめて7人の執行命令書にサインをしたのでしょう」

    この日、東京拘置所では、松本死刑囚と土谷死刑囚、遠藤死刑囚の3人が、大阪拘置所では井上、新実両死刑囚が、広島拘置所では中川死刑囚、福岡拘置所で早川死刑囚が、死刑を執行された。

    「これほどの同時執行の意味を、どう考えていたのでしょうか。政治的背景があるのでは、と感じます。2019年には改元が、2020年には東京オリンピックがある。死刑廃止を求める国際的な評価を意識したものではないでしょうか」

    閉ざされた全容解明への道

    そのうえで石塚教授は「真実が究明されないまま、早期の執行をした」とも指摘する。

    麻原死刑囚は、法廷でほとんどまともに発言していない。しかも、麻原死刑囚を巡る審理は、実質的には一審の東京地裁でしか行われなかった。

    サリンなどの化学兵器を製造し、実際に使った一連の事件を起こした目的は何だったのか。部下にどんな指示を出したのか。本人の口から説明はないままだった。

    さらに、ロシアからヘリを輸入し、自動小銃まで密造するという行動を、はたしてオウム単独で取れたのか。外部に協力者はいなかったのか。いずれもはっきりしないままだ。

    「この面に関しては、大逆事件と同じだと言えるでしょう。政治的背景をともなった死刑執行により、その全容解明の道も閉ざされてしまったということです」

    7人の死刑執行をめぐっては日本弁護士連合会のほか、欧州連合も懸念を示し、死刑制度の廃止を求める声明を発表している。