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今年は13年に一度の”逆エイプリルフール”? 「少女を処刑」の逸話は本当か

13歳の少女が処刑されたことを哀悼するため、13年に一度は「全く嘘をついていけない日」という風習が生まれたという「逸話」とは一体何なのか。

今年は、全く嘘をついてはいけない13年に一度の「逆エイプリルフール」……?

そんな噂が3月下旬、ネット上をかけめぐった。きっかけは、株式会社タニタの公式アカウントが引用したWikipediaの記載だ。

【拡散希望】 2019年は逆エイプリルフールの年 2019年は逆エイプリルフールの年 2019年は逆エイプリルフールの年 2019年は逆エイプリルフールの年 2019年は逆エイプリルフールの年 2019年は逆エイプリルフールの年

【拡散希望】としていることもあり、6700リツイートを超えるほどの話題となったが、結論からいえばこの「逆エイプリルフール」には明確なソースがない。

タニタ公式はのちに「どうやらガセのようでした」と謝罪している。いったい、何が起きているのか。

Wikipediaに記された”史実”

そもそも、エイプリルフールの起源は明らかになっていない。

有力とされているのは、フランスの国王・シャルル9世がグレゴリオ暦(太陽暦)を採用した際、旧暦の新年を祝い続けたことをきっかけとする説だ。

日本語版Wikipediaの「エイプリルフール」には、その「有力とされる起源説」として以下のような記載がされている。

時の王・シャルル9世が採用した新しい暦。反発したひとびとはこれまでの「嘘の新年」を祝い、馬鹿騒ぎをした。これにシャルル9世が激怒し、市民を片っ端から処刑した。処刑されたなかには、13歳の少女もいた。

この事件に抗議し、さらに忘れないよう、市民たちが毎年「嘘の新年」を祝ったのがエイプリルフールの始まりだ。

少女に哀悼の意を表するため、13年に一度は嘘を全くついてはいけない風習も、あわせて生まれたが、いつしか人々の記憶から消えてったーー。

もっともらしいエピソード。これこそが、通称「逆エイプリルフール」(Wikipediaでは2018年4月まで「嘘の嘘の新年」と記載)だ。

海外版にも記載なし

今年が13年に一度の「逆エイプリルフール」に当たるということで拡散したこの逸話には、実はソースが記されていない。

Googleで調べてみても、インターネット上に広がる関連の逸話は、どれも日本語版Wikipediaの記載を引用したものばかり。

250年の歴史を持つ「ブリタニカ百科事典」(英語版)にはもちろん、フランス語版や英語版Wikipediaにも記載されていないのだ。

また、シャルル9世が「嘘の新年を祝う人を処刑した」というエピソードも日本語版「シャルル9世」のWikipediaにも転載されているが、同様にソースは明示されておらず、前出の3者にも記載はない。

そもそも、シャルル9世は10歳で即位しており、母親が全権を握っていたとされている。Wikipediaに「片っ端から処刑した」とか書かれた1564年当時は14歳だ。

フランス大使館も困惑

BuzzFeed Newsはフランス大使館に取材をしたが、広報担当者も、「嘘の嘘の新年や処刑の逸話については、初耳です」と戸惑う。

事実かどうかについては「大使館からはご回答できかねます」としながら、担当者は、同国で有力とされるエイプリルフールの起源についても、こう教えてくれた。

「エイプリルフールの起源には諸説あり、確かなことはわかりませんが、よく言われているのは、16世紀フランス王シャルル9世が新暦を導入したこととする説です」

「新年が1月1日に変更になった後も、そのことに気がつかず、あるいはうっかり古い慣習を踏襲して、春に新年のお祝いをしている人たちをからかったことに始まるとしています」

書き込まれたのは13年前の…?

では、Wikipediaに書かれていた「逸話」は、いったい何なのか。

実はこの記述が書き加えられたのは、13年前の2006年4月1日未明(日本時間)のことだ。それ以前は、以下のようにフランス大使館の説明に似た由来が記されているのみだった。

その昔、ヨーロッパでは3月25日を新年とし、4月1日まで春の祭りを開催していたが、1564年にフランスのシャルル9世が1月1日を新年とする暦を採用した。これに反発した人々が4月1日を「嘘の新年」として位置づけ、馬鹿騒ぎをするようになったのがエイプリルフールの始まりと言われている。

当時、「エイプリルフール」の項目では編集合戦が小規模ながら開催されていたとみられる。「ネタ」を書き込む人もいたようで、以下のようなものも書き込まれていた。

2005年の祝日法改正により、2007年からは国民の祝日「万愚の日」となる。この祝日名については「ふさわしくない」との声が多く、工イプリルフールへと改称を求める超党派の議員連盟が結成されている。

起源に「嘘の嘘の新年」や「処刑」の逸話が書き加えられたのも、こうした流れのなかのことだ。つまり、ネタである可能性が高いと考えられるだろう。

復活した「逆エイプリルフール」

一連の記述は、4月2日(日本時間)未明に、書き込んだ本人によって削除された形跡が残っている。

しかし、なぜか3週間ほど後、別の人物(IPアドレス上)によって復活させられる。そして、そのまま13年間削除されることなく、インターネット上に残り続けたのだ。

実際、Googleで2006年3月31日以前に時期を限定して調べると、「逸話」をめぐる記述は見当たらない。

一方でそれ以降は、「NAVERまとめ」や様々なブログ、企業サイトや大学のレポートなどまでに引用され、「逆エイプリルフール」などという呼び名がいつの間にかつけられていることがわかる。

フランスでは「4月の魚」

2019年になり、「13年に一度」の年が訪れたことで、その信憑性が指摘されるようになった。Twitterで話題になったのち、Wikipediaには該当部分に「要検証」とつけられている。

なお、フランスではこの日を「4月の魚」と呼ぶのだそう。大使館ではこれまでも「納豆マカロン」などのネタを仕込んできたといい、担当者は、同国におけるエイプリルフールの楽しみ方をこう教えてくれた。

「4月1日のエイプリルフールは、フランス語ではPoisson d’avril(ポワソン・ダヴリル、直訳すると「4月の魚」)と言います。フランスの一般的なPoisson d'avrilの過ごし方ですが、他愛のない嘘で笑いをさそって楽しむ、世界共通のエイプリルフールと同様です」

「子どもたちが魚の絵を人の背中にこっそりと貼ってからかったり、その人が気がついた時にはPoisson d'avril ! と叫んで笑い合います。嘘をついたりいたずらした後にもPoisson d'avril ! と言って笑います」

今年は「逆エイプリルフール」が「Poisson d'avril!」と言われないように気をつけたい。


BuzzFeed Newsではこの「嘘の嘘の新年」のWikipedia書き込みに関する情報を探しています。何かご存知の方は、筆者(kota.hatachi@buzzfeed.com)までご連絡ください。