• medicaljp badge

炎症を長引かせないで!具体的なケアの方法をお伝えします ステロイドの塗り薬は、安全?危険?(後編)

アトピー性皮膚炎の治療で、不安に感じて避けられてしまうことも多いステロイド外用薬。でも使わずに長引かせてしまうと、お子さんがかえってつらい思いをしてしまうかもしれません。後編では早めに炎症を改善させた方がいい理由と、具体的なケアの方法を青鹿ユウさんのわかりやすいイラストと共にお伝えします。

アトピー性皮膚炎の治療に使われるステロイド外用薬、前編では大事な薬だけれども説明に手間がかかること、だらだら使う薬ではなく、減らして、卒業することが目標だとお伝えしました。

後編では、なぜステロイド軟膏で早く炎症を改善させることが大事なのか、心配な副作用に関してや、具体的な使い方を青鹿ユウさんのわかりやすいイラストと共に届けます。

確かに子どものアトピー性皮膚炎の多くは自然に良くなる

「子どものアトピー性皮膚炎は自然に改善するから、ステロイドは不要」という考え方があります。たしかに、乳児期のアトピー性皮膚炎は、多くが自然に良くなることがわかっています。

例えば、台湾で出まれ、2歳までにアトピー性皮膚炎を発症した子ども1404人をみると、アトピーになっていた期間は中間で4.2年、最終的に69.8%は改善したと報告されています。

一方、その研究では10歳前後まで症状が治まらないと、その後も続く可能性が高いこともわかりました。

多くの論文をまとめて検討した報告は、12歳以降のアトピー性皮膚炎では、26歳までに治療しなくて済むようになった人はほとんどいなかったと評価しています。

もちろん、年齢が高くなってからの治療が無駄だという意味ではありません。

特に成人に関しては、デュピルマブ、PDE4阻害薬、JAK阻害薬といった新薬が続々登場してきています。今後の治療に期待していただけると思います。

ただ、残念ながら乳幼児に関しては、これらのように成人に効果が期待されている薬は当面、使える予定がありません。

乳幼児期の症状が長く、重症なほど、成長しても続く

自然に様子をみることも一度は試したいという親御さんもいるかもしれませんね。でもそれはお子さんの将来のことを考えると、おすすめしにくいのです。

例えば、デンマークで生まれたばかりの赤ちゃん411人を13歳まで追跡して、アトピー性皮膚炎が長引いた原因を調べた報告では、リスクのひとつに、診断した時の症状の重さが挙げられています。

アトピー性皮膚炎の特徴(目の下のしわ、ウールの刺激でかゆくなる、汗をかいた時のかゆみ、感染しやすさなど)が色濃くあると長引かせる可能性が高いという結果でした。

こうした研究を見ても、私は、重症にさせないよう、そして長引かせないように小さいうちにしっかり治療したほうが良いと考えています。

皮膚の乾燥は炎症を起こし、アレルギー体質を加速させる

ご家族がアトピー性皮膚炎だと、お子さんもより多く発症することは確かです。

アレルギー疾患のないご両親からお子さんにアトピー性皮膚炎が発症したのは27.1%であるのに対し、ご両親の一人にアレルギーがあると、お子さんの発症は37.9%、二人共だと50.0%だったという報告があります。

そして、アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能が低下し、乾燥しやすい体質の人に発症しやすいのです。

さらに、皮膚の炎症がはじまるとアレルギーを悪化させる物質がばらまかれ、皮膚のバリア機能が下がって、皮膚の乾燥がひどくなっていきます

では、ご両親のアトピー性皮膚炎があると、何もできないのでしょうか?

そんなことはありません。

まずは生まれたときから保湿剤をしっかり毎日塗ると、アトピー性皮膚炎の発症リスクは大きく下がりますし、アレルギー体質が強まる可能性が低くなることもわかってきています。

そして、遺伝的な体質よりも、小さい時に発症した「湿疹それ自体」こそが、その後のアレルギー体質の進行に強く影響することもわかってきています。

すなわち、生まれてすぐからスキンケアをすると、皮膚のバリア機能が弱い体質でもかなり発症を抑えられます。そして、発症してからでも丁寧に治療を行うことで、アレルギー体質が進むリスクを減らすことができるかもしれません。

重症化、長期化は他のアレルギー疾患やアレルギー以外の病気のリスクもあげる

また、アトピー性皮膚炎は、低年齢で発症するほど、重症であるほど、期間が長くなるほど、気管支喘息やアレルギー性鼻炎、食物アレルギーの発症リスクが上がることがヨーロッパオーストラリアの研究で明らかになりました。

重症になると、身長が伸びにくくなる可能性も指摘されていますし、アトピー性皮膚炎のお子さんがその後10年間で白内障の手術をする可能性は、重症化すると9倍にも跳ね上がります

そのため、乳幼児期のうちにアトピー性皮膚炎を適切に治療することが、重要になってきています。

ステロイド外用薬は最初に使われる薬のうちの一つ

ステロイド外用薬は、アトピー性皮膚炎に対する治療方法として、第一線級の薬であることは日本でも海外でもガイドラインで述べられています。

一方で、ステロイドに関して様々な見解を持つ方がいます。

ステロイドに対して否定的な考えを強くもつことを「ステロイド忌避(きひ)」と言います。日本でも海外でも、医療者ですら、ステロイド忌避の人が少なからずいることがわかっています。

ステロイド忌避は、治療への抵抗を生みます。様々な報告を検討したところ、ステロイド忌避のある方は21.0%から83.7%もいて、アトピー性皮膚炎への治療効果が低下したことが示されています。

一方、ある病院のアトピー性皮膚炎の子どもの保護者436人に対するアンケート調査では、38.3%にステロイド忌避があり、父親がアトピー性皮膚炎であるかどうかやクリニックの頻繁な変更が関連したと報告されています。

治療が実を結ばず病院を転々とした結果、医療不信に陥っておられるのかもしれません。さまざまな情報に惑わされ、よくわからなくなって迷っている方も多いのかもしれないと、私は想像しています。

ステロイドは安易に長期間つかう薬ではない

それでは、「ステロイド外用薬を使わない」という選択は、患者さんの無知のせいなのでしょうか?

私は、必ずしも患者さんのせいではないと思っています。

エビデンスに基づかない情報が広まり、適切な医療にたどり着くことが難しい状況です。ステロイドの使用方法を十分説明されず、何度も悪化してしまったら、「ステロイドを使わない治療」を選択したくなる気持ちも理解できます。

そして、湿疹が悪化したお子さんを抱え、皮膚をひきちぎるほどかき壊し、苦しんだその結果、耐えられなくなってから受診されるご家族もいらっしゃいます。

皆さんの不安はステロイド外用薬の効果にあるわけではなく、副作用にあるのではないでしょうか

「ステロイド」は、もともと人間が作っているホルモンのうちの一つです。

ステロイドは、腎臓の上にくっついている、「副腎」という臓器が毎日作り出しています。副腎は毎日ステロイドを作り出し、もちろん体にたまりこんでしまうことはありません。

では、ステロイド外用薬の副作用は心配いらないのでしょうか? いえ、ステロイド外用薬も薬ですから、副作用はあります。処方している医療者自身、続けて同じ場所に使い続けることに問題があるのは十分承知しているのです。

ただ、ステロイド忌避の方が思っている副作用とはちょっと異なるかもしれません。

ときおり、「ステロイドを使い続けていると、副腎が怠けてしまってステロイドを作らなくなる(副腎不全)」といった話を見かけます。

多くの場合、ステロイドでそのような副腎不全を起こすことはありません。

しかし、最強ランクのステロイド外用薬を同じ場所に長く使うような不適切な使い方をすれば、副腎不全は起こりえますし、中程度のステロイドでもまれに起こりえます

ステロイドを使わなければ、副腎機能は低下しない?

このようなお話をすると、「では副腎不全の可能性がわずかでもあるなら、絶対使いたくない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。

でも、ステロイド外用薬を使わなくても、アトピー性皮膚炎が重症になると副腎の機能が低下することもわかっています。

アトピー性皮膚炎の乳幼児38人の副腎の反応を、重症度別に比較した研究があります。すると、ステロイドを使用しているかいないかにかかわらず、重症度が高いほど副腎機能が低下していることがわかったのです。

つまり、ステロイドの使用をためらってアトピー性皮膚炎が重症化してしまうと、副腎機能も低下してしまうのです。

そのため、医師は、ステロイドの効果だけでなく副作用にも十分な配慮をし、減量するための道筋をお伝えしなければならないはずです。

とても優秀なある若手医師の話

ある若手医師のお話をしましょう。勉強熱心で、とても信頼できる医師のひとりです。

その医師にお子さんが生まれ、アトピー性皮膚炎を発症しました。

最初はご自身で治療していたのですが、どうにも改善せず、私の外来に2時間以上かけて通うことになりました。とても頑張って治療に向かっていただきました。

ステロイド外用薬に関する不安もたくさんお聞きし、ひとつひとつお答えしました。半年ほどでステロイドを使う必要がなくなり、現在はすごくきれいな、つるつるのお肌になっています。

私の外来を卒業されるとき、「ステロイドの使い方は、思った以上にいろいろ考えなければならないことがあるでしょう?」と尋ねました。

その医師は「とてもよくわかりました。これまで患者さんに十分にお話できていませんでした。もっと勉強します!」と答えました。彼女は、この経験を通じてさらに優秀な医師になっていくことでしょう。

彼女ほど優秀な医師でも、「ステロイド外用薬と保湿剤とスキンケア」という文字の羅列だけで勉強が止まっていたのです。もしかすると一部の医師はその段階で止まっているかもしれない、そのために、医療不信の芽になっていまいかという心配を抱いています。

「具体的な説明」とはどういったものでしょう。

例えば、

  • 「1日2回、しわを伸ばしてあらいましょう」
  • 「塗る量は、1回小さじ1杯を目安にしましょう」
  • 「1日2回で1週間塗ります」
  • 「1週間ぬったら、つぎは1日おきにします」
  • 「保湿剤は必ず毎日1日2回ぬりましょう」


といったものです。

私は、こういった内容を紙に書いてお渡ししています。そして診察のときは必ずお肌を直接確認して、保護者さんや患者さんと、改善したことを一緒によろこびます。

私自身がまだまだ発展途上です

こんなに偉そうに言うのなら、私が治療すれば「全員」うまくいくかというと、残念ながら未だに百戦百勝ではありません。私もまた、毎日真剣勝負で診療にあたりながら、百に近づこうともがいている道半ばの医師のひとりです。

どうすればより良くなるか。

どうお話すれば患者さんに伝わるか。

私の目標は次の外来で、患者さんと「良くなったね!」を共有し、お子さんとハイタッチをすることです。そして、最終的にステロイド外用薬を減らして中止し、きれいなお肌で私の外来を卒業していただくことです。

医師・医療者の中には、「いや、忙しい外来ではそんなことできないよ」と思っておられる方もいるかもしれません。

おっしゃるとおりです。医療者のみなさんが時間とマンパワーがとても不足している中で、仕事をされています。

私も、同じです。

私も、丁寧にお話しする時間を確保することが難しいことも多く、不十分なことも大いにあるに違いありません。うまく伝えることに失敗することもたくさん経験してきました。

そして今日の外来はもっとうまくできたのではないか、自問や反省をする毎日です。

患者さんにもお願いがあります。

もし、適切なスキンケア指導をしてくださる先生に出会ったら、ぜひ、きちんと実行していただきたいのです。そして継続して通っていだきたいのです。

きっとその医師も説明する時間をなんとかやりくりしてお話しています。

なぜなら、お子さんに良くなっていただきたいからです。

「よくなった!うれしい!」という声を聞き、その喜びを共有したいからです。

この記事を読んでくださっている方には、ステロイドで良くなった方々も、現在保湿剤で安定されている方もいらっしゃると思います。いま受診を迷っておられる方も、いらっしゃるでしょう。

そして、ステロイド外用薬でうまく治療目標に達しなかった方も。

子どものうちにできる限りアトピー性皮膚炎を改善していくことを、我々もお手伝いします。大人になるまで、できるだけ持ち越さないように。

大人になるまでに良くならなかったときも、丁寧に治療してくださる医療者は必ずいらっしゃいます。成人では新しい治療も出始めており、状況が変わってきています。ぜひ医師に尋ねてみてください。

前編でご紹介した2歳の女の子のその後

前編でご紹介した2歳の女の子のその後をご紹介します。

お母さんもお子さんも、とても頑張ってくださいました。

どんどん皮膚は良くなり、お子さんは笑顔を取り戻していきました。アトピー性皮膚炎の治療は、続ける努力をした方には、何らかの光を見せてくれるものです。

そして、その光を、ご家族は自ら引き寄せてくださいました。皮膚が悪化していたのは最初の数ヶ月のみで、それ以降はとてもきれいな状態を保ちました。今はもうステロイド外用薬はほとんどつかっていませんし、もちろん副作用もありません。

小児科医としての私がなにより嬉しいのは、お子さんが外来にいつも満面の笑顔で通ってくださっていることです。おそらく、近いうちに私の治療は必要なくなり、病院を卒業されることでしょう。

そして、最初すぐれなかったお母さんの顔色も良くなり、ある日からきちんとお化粧をされて受診されるようになりました。お子さんのアトピーを何とか良くしようと思われるあまり、ご自身のことが後回しになっておられたのでしょう。私は内心、嬉しく思った......のはここだけの内緒の話です。

患者さんやご家族と、医師の目標は同じ

私の患者さんは、「スキンケア、スキンケアうるさいやつだなあ、朝は忙しくてスキンケアは大変なんだよ」と内心思っていらっしゃるかもしれません。でも、毎日のスキンケアは実を結びます。

多くの患者さんが私のうるさい指導を乗り越え、ステロイド外用薬を減らし、そして保湿剤だけになり、毎日のように卒院されていきます。

卒院の時が私にとって一番嬉しい瞬間です。そのためだけに毎日の小さな歩みを患者さんと共有しているのです。

卒院の時、「良くなったのは先生のおかげです」と言われることがあります。でも、目標に達したのは私なんかの力ではないのです。

私は、「私もとても嬉しいです。でも、良くなったのは、ご家族が毎日スキンケアを頑張れたからですよ。私はいつもうるさかったと思いますが、それを乗り越えてがんばられましたね!」と伝えています。

一緒に走ってきて、私の力がいらなくなったとき、結局は私の力は微々たるものだったということを毎回実感します。

結局は、ご家族のチカラがほとんどだったのです。毎日毎日実行していただいて、はじめて結果がでたのです。

ご両親は皆、お子さんのアトピー性皮膚炎が改善し、お子さんがより健康な未来に向かうことを希望されていることでしょう。多くの医療者もまったく同じことを願っています。

目指す目標は実は同じなのです。

ステロイド外用薬を使わないことを目標にしていませんか? いつの間にか、目標が変わってしまっていないかを、私は心配しています。

そして多忙を極めているなか、丁寧な治療を指導いただいている医療者の方々に心より敬意と深謝申し上げます。

将来のステロイド忌避の患者さんを生まないために。

私も、すこしずつ前進できるように頑張ります。

まとめ

  • アトピー性皮膚炎は子どもの皮膚の炎症を起こす病気のなかで最も多い
  • 7割程度は自然に改善する
  • しかし、年齢が高くなるまで持続すると、治りにくくなる
  • アトピー性皮膚炎の重症度が高いと大人に持ち越しやすくなる
  • アトピー性皮膚炎が、他のアレルギー疾患の発症リスクを上げる。
  • ステロイドは体の中にある臓器ひとつである、「副腎」からつくられている
  • 皮膚に塗るステロイド外用薬自体で、副腎の機能を低下させるリスクは低い。
  • 保湿剤を定期的に塗ることで、ステロイド外用薬の使用量を減らすことができる
  • 医療者自身がステロイド忌避の原因を作っている可能性があるが、多忙な医療環境もまた、状況を悪化させているかもしれない。
  • 医療者と患者さんがともにアトピー性皮膚炎の治療に向かっていけるように、少しずつゆっくり進むことができることを望んでいる。


【堀向健太(ほりむかい・けんた)】東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科助教

1998年、鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院および関連病院での勤務を経て、2007年、国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。

日本小児科学会専門医。日本アレルギー学会専門医・指導医。

2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防に関する介入研究を発表。

2016年、ブログ「小児アレルギー科医の備忘録」を開設し出典の明らかな医学情報の発信を続けている。