「信じて待ったのに」1人も来なかった。30人の貸切予約があった小さな飲食店の悲しみ

    「作ってくれてる人の気持ちとか考えへんのかな、と思います」

    両親が個人で経営する店に12月15日、30人の団体の貸切予約が入っていた。

    ところが、約束の時間になっても誰一人として来店しない。連絡すら取ることができない。

    無断キャンセルだった。

    丹精込めて作った料理は、客の口に運ばれることはなかった。店は悲しみに暮れた。

    両親から知らせを受けた息子の新谷有幹さん(@shinchan_orz)は、悔しさに涙しながらTwitterに次のように投稿した。その日、用意していた母自慢の料理の写真とともに。

    「オトンとオカンが大阪の梅田でやってるお店、今日30人の貸切予約が何も連絡ないまま当日来なかったらしい。悲しいって連絡がきた。一生懸命心込めて準備してたみたいだし、本当にかわいそう」

    いったい何があったのか。BuzzFeed Newsに詳細を語ってくれた。

    大阪市の梅田駅近くにある「和風ダイニング tsukushinbo 梅田店」。料理好きの母・明美さんが「多くの人を料理で笑顔にしたい」と始めた店だ。

    貸切予約の連絡は電話であった。客は店を「ぐるなび」で知ったという。

    決して大きな店ではない。30人全員の着席は無理だと伝えると、「椅子はいらないから、立食でお願いします」と返答があり、予約が確定した。

    人数変更がある場合は、予約日の2日前までに連絡をしてほしい、と約束していたが、電話はなかった。そのため、30人分の食材を調達し、準備に入った。

    少しでも居心地良く、楽しんでもらうため、スタッフ総出で椅子を全て運ぶなどして広いスペースを確保した。そして、コース料理全6品のうち、オードブル3種とサラダ、ばら寿司を事前に作って、客を待った。

    しかし、予約時間の午後7時半になっても、誰も来店しない。15分後に幹事の携帯電話に連絡しても通じない。ショートメールも送ったが返信はなかった。

    午後9時頃には別の客が来店したが、団体予約が入っており、貸切体制だったため断った。

    料理は自分たちが食べるはずではなかった。

    多くの来店客を見込める金曜日。団体客を信じて待ったが、結局、客は来なかった。

    すぐに痛んでしまうばら寿司は急遽、友人が買ってくれ、アルバイトの従業員にも持って帰ってもらった。残りは夫婦2人で食べた。

    団体客が支払うはずだった料金は1人あたり3500円。値下げの依頼に応じて決まった額だった。

    今回のように、コース料理の予約注文があった客に無断キャンセルされたのは初めて。幹事からの連絡やキャンセル料金の支払いは今もない。

    「食材と料理への想いもある」

    明美さんが心情を吐露する。

    「当たり前だけどがっくりしました。自分で作ったもので食材と料理への想いもあるから捨てられへんし。お客さんに来てもらって『おいしかったよ』『ほっこりしたわ』『いろいろ考えてやってくれはって、ここに来て良かったわ』って言ってもらえるのが、うれしくて頑張っているのに」

    スタッフに申し訳ない、という気持ちも募る。

    息子の有幹さんは言う。

    「母はもともと料理が好きで、人に食べてもらいたくて店を始めました。良くも悪くも、対策など抜本的な解決を自分でやれるタイプじゃないです。個人店舗だとそういうお店も多いと思います」

    そのため、飲食店を紹介するポータルサイトなどの助けがほしい、と考える。

    「客側を断罪したり、憤ったり悲しんだりするだけでは、解決にはならないと思います。だからこそ、ポータルサイトなどが、団体の貸切ならクレジットカードで前払いするなど無断キャンセルが発生しないような仕組みを作って、解決してくれればと願います」

    悲しみは消えない。

    涙するのはこの店だけではない。全国の飲食店で被害が相次いでいる

    食材費や人件費のロス、売り上げの減少が打撃を与え、頭を抱えざるを得ない。

    インターネットで簡単に予約できるようになり、客側の罪悪感が薄れているのが無断キャンセルを生む背景にある、との指摘もある。

    今回の無断キャンセルが生んだ悲しみは消えない。明美さんは「人数が多いから問題で、少ないから別に大丈夫という話ではない」と強調した上で、こう訴える。

    「作ってくれてる人の気持ちとか考えへんのかな、と思います。こっちは食べてくれはる人の気持ちを考えて、頑張ってやってるから」

    BuzzFeed JapanNews