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辺野古移設「容認」と「反対」の若者 2人が選んだ道とこれから

「『辺野古』県民投票の会」代表と、移設容認派陣営の元青年部長。2人は県民投票から一夜明けた日、意見を交わした。

沖縄県における米軍普天間基地の名護市辺野古移設に伴う埋め立ての是非を問う、2月24日の県民投票。「反対」票が7割を超え、投票率は52.48%だった。

県民投票の投票率を上げるため、意外な組み合わせの2人が協力を続けてきた。

署名活動などを通して県民投票の実現にこぎつけた「『辺野古』県民投票の会」代表で、大学院生の元山仁士郎さん(27、写真右)。そして、2018年の県知事選で自民党系陣営の青年部長を務めた、会社員の嘉陽宗一郎さん(24、写真左)だ。

元シールズのメンバーと「自民側」の若者

辺野古への基地移設に「反対」の元山さん。「容認」の嘉陽さん。主義主張が異なる2人は交流を深め、シンポジウムやラジオ番組へ同時出演などを通して、協力しながら県民投票への参加を呼びかけてきた。

2人は県民投票から一夜明けた2月25日、BuzzFeed Newsのインタビューに応じた。

どちらも口をそろえて県民投票を「成功でした」と語った。なぜ協力するのか。何が「成功」だったのか。

元山さんは安保法制に反対した「シールズ琉球」の元メンバーで、「移設反対」を叫んだ。「対話のため、何か新しいことができないか」。そう考え、東京の大学院を休学。沖縄で県民投票の会を立ち上げ、仲間とともに県民投票実施請求のために必要な署名集めに奔走。9万筆以上を集め、実現につなげた。

一方の嘉陽さんは、2018年9月の沖縄県知事選で、「移設容認」とする自民、公明両党などが推す佐喜真淳氏の陣営で青年部長を務め、若者に支持を訴えた。この年1月の名護市長選でも、自民党推薦の渡具知武豊氏の選対本部で青年部長を担い、若者の票を取り込んで勝利に貢献した。

意見が違いながら手を組む2人の姿は、上の世代からは「異例」だと思われているという。

嘉陽:よく言われるんですよ。「なんで一緒にいるんだ。理解できない」とか「利用されていることに気づけ」とか。

元山:僕も同じようなことを言われますよ(笑)。

2人が似ているところ

周囲からは心配や批判の声が寄せられる。それでも、近づこうと思ったのはなぜか。

嘉陽:元山さんの存在は知っていたんですが、ちゃんとお会いしたのは2018年4月ごろです。お互いに会おうということになり、那覇市内で会いました。

主義主張は違うと思っていたけれど、若い同世代がこうやって行動を起こして声をあげていることは、心強いなと思っていました。

それで、実際に話したら、想像していたよりずっと自分に似ていると感じたんですよね。

元山:僕が初めて嘉陽くんのことを知ったのは、彼が大学生の時です。活発に活動していて、すごい大学生がいるな、と見ていました。

嘉陽くんは「利用されているのではないか」とよく言われますけれど、そうやって周りからいろいろ言われたり、表に立たされたりする立場であることに、共感することが多かったんです。

最初は挨拶をする程度でしたが、実際に話してからは、一緒にシンポジウムに出たり、企画を立てたりするようになりました。

敬遠しなかった理由

沖縄で、基地問題に対する考えが異なる人々が直接顔を合わせて冷静に語り合う機会は、稀だ。

ましてや顔や氏名を出して自身の立場を示した人同士が交わることは、めったにない。

どちらも、沖縄にあるその空気感を知ったうえで、会うことを敬遠しなかった理由を「相手に興味があったから」と言う。

嘉陽:だって珍しくないですか。自分の主義主張を表に出している同世代って、なかなかいないから。

元山:嘉陽宗一郎とはどういう人なんだろうと興味があった。いろいろ話したいし、それで自分と嘉陽くんが何か変わるかもという思いもあり。長く付き合えるかもしれないと、会って感じたんです。

「静観」でも良かったのに協力した

今回の県民投票では、国政では与党である一方で県政では野党の自民、公明に加えて維新が、「自主投票」とした。投票への呼びかけなどを会派としてはせず、投票率の伸び悩みが懸念された。

自民党側に立つ嘉陽さんも、「静観」でも良かったはずだ。それなのに、元山さんに力を貸すことになったのは、なぜか。

嘉陽:元山さんがハンガーストライキを始め、「本気だなこの人」って思ったんです。

県民投票は、県議会が可決した条例に基づいて行われる。

だが、沖縄市長や宜野湾市長ら5自治体の首長が一時、それぞれの自治体の投票への不参加を表明。5人は、辺野古の埋め立て反対を掲げる玉城デニー知事と距離を置いていた。

ハンガーストライキへのエールの言葉

元山さんは、県民投票の全県での実施を訴えるために1月中旬、ハンガーストライキを決行。始めて100時間を超えたところで血圧が急激に下がり、ドクターストップがかかった。

グスーヨー、おはようございます🌞 5市長に県民投票への参加を求めるハンガーストライキは5日目に入りました。 宜野湾市役所の近くに住んでる方が、血行を良くした方が良いと手湯。持ってきてくださいました。 体が温まります☺️ #HungryforVote #ハンストなう

Twitterで報告されるその姿は、主義主張の異なる人たちにも影響を与えた。改めて県政各派の折衝が行われ、県民投票に「どちらでもない」という選択肢を加えることで、全県実施が決まった。

嘉陽:それまで、僕は静観していた。けれど、ハンストがきっかけで、自分も県民投票ついて発言することが増え、一緒に企画してラジオ番組にも出演しました。やっぱり、同世代がああいった行動を覚悟を決めてやってくれたのは、大きいですね。

嘉陽さんは、Twitterでハンガーストライキに触れた際、元山さんに向けてこう思いを投稿している。

「目的に100%同意しているわけではありません。しかしその行動・想いはめちゃくちゃかっこいいです。頑張ってください」

私の先輩がある目的のために、#ハンガーストライキ をしていて、それに対して心無い言葉が浴びせられています。 そんな中、私はこの言葉を僭越ながら先輩に送りたいと思います。 目的に100% 同意しているわけではありません。 しかしその行動・想いはめちゃくちゃかっこいいです。頑張ってください。 https://t.co/40xlpl7RV2

元山:嘉陽くんが1日目くらいに来てくれたんです。自分の思いが届いてほしかったのは同世代だったので、影響力のある嘉陽くんがそう感じてくれたのは、嬉しいです。

嘉陽:同世代にも響いたと思いますよ。

投票先は変わらなかった。でも...

2人はいずれも期日前投票で、それぞれ一票を投じた。

嘉陽さんは辺野古がある名護市出身。それでも基地の辺野古移設に容認の立場で「賛成」。元山さんの出身は普天間基地がある宜野湾市だが、移設には「反対」だ。

基地問題で揺れ動く環境下で育った2人が自身の考え方を決めたのは「出会った人たちの影響が大きい」と口をそろえる。

基地問題については、一致する部分もある。沖縄には多くの米軍基地が集中しており、国全体で見て基地負担に偏りがあるという点だ。

一方で、2人は交流を深めても、辺野古移設への意見は変わらなかった。

嘉陽さんは「反対」を続けるよりも、まず普天間基地を辺野古に移設し、そこから米軍基地をどう減らしていくかを考えていくべきだと思っている。

対話が生んだ変化

ただ、変わったこともある。

嘉陽:反対されている方々の気持ちを前よりも理解できました。

沖縄の歴史が背景にある。全部が全部、反対なわけではない。今の大きすぎる負担を少しでも減らしてほしいだけなんだと。

それで、自民党はもう少し説明責任を果たすべきだと感じました。

辺野古をめぐる議論は、感情の問題でもあると思っています。県民感情を粗末にしていいわけではなく、どれだけ寄り添った姿勢で、丁寧かつ具体的な説明をできるかが大切だなと気づきました。

元山:僕は、支持する候補者や政党、そして主義主張が違う人とも付き合っていくことはできる、と実感できました。それぞれの生い立ちやバックグラウンドは千差万別です。どうして考え方が違うのかを、ちゃんと知りたいんです。

だから、嘉陽くんと会って話せたのはすごく大きいです。

嘉陽:僕らより、むしろ周りが変わったと思います。対話を続ける僕たちの姿勢を見て、周囲の仲間が「たしかにそうだな」って変わってくれたことを感じました。

考え方の違う人を拒絶せず、「話すのは大事だよね」「どうしてそう考えるのか」と興味を持ってくれるようになったんです。

反対多数の県民投票、2人の見方

県民投票の投票率は過半数を超え、反対多数という結果が出た。しかし、日本政府に対する法的拘束力はなく、政府はこの結果でも移設工事を進める構えだ。

結果を見て、2人はどう思うのか。

元山:嘉陽くんからぜひ話を聞きたい。

嘉陽:盛り上がってないなと思っていたんです。

だから、びっくりしました。投票率が50%を超えるとは思っていなかったので。

これだけ保守が静観している中での数字です。けれど、結果を見ると、盛り上がってますよね。ふだん投票に行かない人も投票したということだと思うので、率直に「沖縄はすごいな」と思いました。

元山:僕も同じ実感があります。いわゆる「無党派」というか、選挙に足を運ばない人も投票に行ったから、50%を超えたと感じます。

「沖縄のために」

2人はどちらも「沖縄のために」という強い思いを持っている。

県民投票には「分断・対立を招く」といった批判もあったが、そうは考えていない。もともと無関心だった人をも巻き込み、共に考え、発信し、行動することで、基地問題の改善に貢献したいという思いがある。

だからこそ、投票率が重要だったのだ。

大学院への復学、その後は

元山さんは県民投票を終え、4月から東京の大学院に復学する予定だ。「そのあとのことはまだ考えられていません」と話すと、嘉陽さんがこれからも協力しようと提案した。

嘉陽:僕は、保守側から関わった人間として、県民投票の結果を沖縄の保守がどう受け止めるかが大事だと思うんですよね。

沖縄から日米両政府にボールを渡すのではなく、逆に沖縄の保守がボールを取りに行って、動くべきだと思うんです。そして、何かしら風穴を開けられたらいいですね。

それに県民投票を機に、主義主張が違っても議論をしようという空気感がせっかく生まれたので、元山さんと一緒に何かできたら良いなと思います。

「これからは分断や対立じゃなくて対話を」

元山:たしかに。今後も辺野古の基地問題や県民投票だけでなく、経済など他の問題についても話を聞き、それぞれの意見を言い合える場を定期的につくれたら良いなと思います。

嘉陽:それはあったほうがいいよね。利害関係抜きにつながれるのが、僕ら若い世代の強みだと思うんですよ。2人が連携したほうが物事を動かしやすい気がするし、無関心な人でも考えるきっかけになると思う。

元山さんがよく言うけれど、「これからは分断や対立じゃなくて対話を」というのを僕らからつくっていきたいという思いがすごくあります。

基地問題に対して異なる意見を持つ2人が出会い、密な関係を持った。そして県民投票について、「成功だと思います」と口をそろえた。

2人がいう「成功」とは、対立や分断を乗り越えた対話の空気が、沖縄で若者の間にできつつあるということだ。違いを越えた対話なしに、健全な民主主義は育たないのだから。