• okinawabfj badge

忘れない辺野古での恐怖と悲しみ 彼女にとっての分断・対立、そして県民投票

県民投票には「分断・対立を生む」という批判もある。そんな中で彼女は、なぜ奔走したのか。

沖縄県の名護市辺野古に行った4年前のある日のことを、彼女は今も忘れていない。

米軍基地のゲート前。埋め立て反対派と機動隊の間で暴言が飛び交い、時には体を張った抵抗も。

那覇市で生まれ育った自分がふだん接する沖縄の人々とはかけ離れた姿が、そこにあった。「怖い」。素直にそう思った。

宜野湾市内にある大学に職員として勤務する大城章乃さん(27)。2月24日にある普天間基地の移設に伴う辺野古埋め立てに関する県民投票にこぎつけた「『辺野古』県民投票の会」のボランティアだ。

「怖い」と思った基地の問題に関する活動に、なぜ参加したのか。

県民投票には「分断・対立を生む」という批判もある。どう思うのか。

海外の高校に通い、東京の大学に進学した大城さんが、辺野古の現場で反対運動に接するのは、2015年のあの日が初めてだった。

沖縄県庁前から、建設阻止活動のための貸切バスが出ていた。本土の友人に誘われて乗り込み、現地に向かった。すると道中、辺野古への移設反対の思いを込めた歌の練習が始まった。「なんだこの人たち」と思った。

ゲートの前に着くと、普段見かけるような穏やかな沖縄の人々は、そこにはいなかった。

反対派の人々が、機動隊の前で拳をあげながら歩いている。皆が怖い顔をして、「わー!」と叫んでいると感じた。

「私が知っている沖縄ではなかった。すごく怖くて、対立が生まれているのが悲しくて。その姿を見るのが耐えられませんでした。だから、1時間くらいして別のバスに乗って、近くの町に行ったんです」

ゲート前にいる人たちを尊敬する気持ちもあるし、怒りをぶつけざるを得ない状況があることもわかる。しかし、辺野古への土砂埋め立てに反対だったとしても、対立を深めるような運動のやり方に意味があるだろうか、と思えた。

ハワイで見つけた目標

その後、大城さんはハワイ大学の大学院に留学。同じ寮に暮らす学友たちに、大きな影響を受けた。

学生同士でテレビを観ながらでも、当たり前のように政治的な話をするのだ。だが、意見が違っても相手を尊重し、決して上から目線になったり、罵り合ったりはしない。

2016年の米大統領選挙の話題になっても、支持しない候補者の話になっても頭ごなしに否定せず、政策ごとに良い点も悪い点も議論していた。地球温暖化や女性差別など、気軽に参加できるような雰囲気にも驚いた。

さらに、かつて沖縄から組織的に移住した人々の子孫たちや、グアムやハワイなど基地がある島々の人などと知り合った。その交流を通じて、ある目標を胸に刻んだ。

「沖縄で政治の話を気軽にできるような環境にしたい」

沖縄を取り巻く基地や外交の話が、地元で日常の話題にあがることは、めったにない。基地のことは、一種のタブーのようになり、どこか口にしにくい空気があるのだ。

「ハワイでは話ができても、地元の友だち相手となると、話を切り出せない」と自身も身にしみてわかる。

政治を語る環境への一里塚

帰国後、県民投票の会に参加した。

会の前身である「県民投票を考える会」が2018年3月に開いた勉強会がきっかけだった。

そこでは、いつ、どうすれば県民投票を実施できるかという具体的な検討が進んでいた。そして、県民投票とは何かを知りたいと顔を出しただけの大城さんも、運動を支えるメンバーとして数えられていた。

当時の会が目指していたのは、県知事選があった昨年9月に県民投票を行うこと。

「あまりにも急すぎる。そんな短期間で、大きなことができるとは思えない」。だから「考えさせてください」と誘いを一旦は断った。

しかし、考えは変わる。のちに県民投票の会の代表で、大学院生の元山仁士郎さんからメッセージが届いた。それをきっかけに、元山さんとも直接、話すことに。

沖縄の地域社会は広いとは言えない。元山さんは陰口にもひるまず、顔も名前も出して行動していた。

「同世代がここまで頑張ろうとしているのを知って、応援したいと思ったんです。その勇気に賛同したいという思いもありました」

「沖縄で政治の話を気軽にできるような環境にしたい」という目標に、一歩近づけるとも思えた。

「対立」をもたらすのは誰か

2018年4月、県民投票の会が発足した。県民9万人分以上の署名を集め、その年10月の県議会で、県民投票を行うことが決まった。

県民が意見を示す場はできた。その一方で、県民投票に対して「県民の対立・分断を生む」との批判もある。

大城さんはどう考えるのか。

「県民投票によって、県民の持つ意見の違いと対立が明らかになるのは、事実だと思う」

「でも、それを生んでいるのは誰なのかと、私はいつも考えるんです」

「私たちも、県民同士に対立してほしくて、県民投票の運動を進めてきたわけではないんです。県民を対立させている人は、県外にいるのではないか。私はいつも、それを念頭に置いています」

県民投票だけで終わらない「目標」

会は「話そう、基地のこと。決めよう、沖縄の未来」というスローガンを掲げる。

活動する中で、多くの県民と話す機会があった。

「やっても意味はあるの?」「忙しいから投票しない」。投票に行ってほしいのに、さまざまな思いを聞き、もどかしさすら感じた。

「賛成や容認だと思っている人は、県内にも間違いなくいる。それなのに、賛成と言いにくい空気感が沖縄にはあるのも、問題だと思っています」

県民投票の実現で、「政治を気軽に語れる環境づくり」という大城さんの目標の実現に一歩近づいたのだろうか。そう尋ねると、「ちょっとずつですかね」と言った。

沖縄の社会は米軍基地の問題だけでなく、子どもの貧困や、非正規労働者の割合が全国トップといった深刻な問題を抱えている。

県民投票を終えれば会は解散を予定。大城さんは4月にドイツ留学を控える。今後の沖縄について話す彼女の顔は、達成感すら見える明るい表情をしていた。

「いつかは県民投票の会に集まったメンバーで、基地のこと以外の教育や観光、貧困などの問題を話し合ってみたいんです。だから、県民投票はひとつの区切りですが、きっと、メンバーとはこれからもつながると思っています」


今回の県民投票は、「賛成」「反対」「どちらでもない」の3択だ。

各メディアの速報では、「反対」が過半数を占めるのは確実な情勢だ。

最多得票の選択肢が、有権者の4分の1に達した場合には、玉城デニー知事が、その結果を安倍晋三首相とトランプ米大統領に通知することになっている。

ただし、日本政府は県民投票の結果がどうであれ、移設工事を進める構えだ。