このポーズがなければ「助けなくても良い」って思わないで。視覚障害のある男性の願い。

    視覚障害者の当事者にも賛否両論があるポーズ。どう受け止めてほしいのか。

    全盲や弱視の視覚障害者が使う白杖(はくじょう)を頭上50センチほどに掲げるポーズがある。

    「白杖SOSシグナル」と呼ばれ、周囲に助けを求める際にする合図だが、当事者間でも認知が広がっておらず、ポーズ自体に賛否両論がある。

    そんな課題が残る中、ポーズをどう受け止めてほしいと考えているのか。発案した団体に話を聞いた。

    シグナルは40年ほど前の1977年に生まれた。考案したのは福岡県盲人協会だった。

    当時はまだ視覚障害者への理解が進んでおらず、「助けてください」と声をあげることを躊躇する人も少なくなかったという。

    白杖使用者なら必ず持ち歩く白杖を使い、声をあげなくても助けを求められないか。

    そうした考えのもとに提唱されたのが、白杖を立てて50センチほど掲げるポーズだった。

    広まらなかったシグナル。見つめ直した契機

    しかし、シグナルは当事者間ですら浸透しなかった。

    白杖使用者からも「恥ずかしい」との声が少なくなかったのが、大きな理由の一つだ。

    もう一度、全国的に広める努力をしよう。そう考える契機となったのが、2011年の東日本大震災だった。

    震災で建物が倒壊し、地面にひび割れも起きた。視覚障害者の多くが、歩き慣れた場所でも立ち往生するなどし、逃げ遅れて死亡した。

    また、避難所での生活において、支援物資などが書かれた掲示板の情報を知ることができなかったり、トイレの場所を把握できなかったりしたという。

    東日本大震災は、そのように視覚障害者が「災害弱者」であることを改めて浮き彫りにした。

    そこで、福岡県盲人協会はシグナルの必要性を見つめ直し、啓発に力を入れようと再び動き出した。

    全国に徐々に広がるシグナル。しかし、課題は多い

    震災後の2015年には、日本盲人会連合が全国に広めることを決議。

    「白杖SOSシグナル」として岐阜市がシンボルマークを決定し、内閣府が「障害者に関係するマークの一例」としてHPにも掲載されるようになった。

    ポスターの配布活動などを通して、シグナルは着実に広まってきている。

    「それでも、当事者にも伝わっていない実感がある」とBuzzFeed Newsに語るのは、福岡県盲人協会の池田精治会長だ。

    池田会長自身、シグナルによって3回ほど助けられた経験があるという。しかし、こう話す。

    「白杖を使わない方や使っている方からも、『シグナルは必要じゃない』という意見も出ますね。協会の会員の方でも、シグナルを使っている人もいれば、使わない人もいると思います」

    「シグナルを出していない=困っていない」なのか

    シグナルがネット上で話題になるたび、白杖を使う視覚障害者から「SOSのサインだと聞いたことはなかった」「恥ずかしい」「ダサいから広まってほしくない」といった意見もあがる。

    とりわけ指摘されるのが、シグナルが浸透することで「シグナルを出していない」のはつまり「困っていない」「助けなくても良い」と考える人が出てしまうという懸念だ。

    しかし、「シグナルを出していなければ助けなくても良い」と考えてほしくない。それが池田会長の思いだ。

    「あくまで助けてほしい際のサインの一つです。シグナルを出していないからといって、困っていないということではありません」

    「視覚障害者の仕草や動きを見て、困っていると認識してもらえない実情があるので、シグナルを広めたいと思っているんです。『サインを示していなかったら助けないで大丈夫です』と思ってもらいたいとは決して考えておりません」

    シグナルを広めたいもう一つの理由

    シグナルを広めたい理由には、もう一つあるという。

    そもそも、白杖を使っている人が視覚障害者だと知られていない実情があるからだ。

    白杖は、それを使う視覚障害者が歩く際、路面や周囲の情報を得て安全・安心を確保するために欠かせないものだ。

    しかし、高齢者や足の不自由な人などが使う「杖」だと勘違いしている人がいるというのだ。

    白杖使用者は点字ブロッグの上を歩いたり、白杖を左右に振ったりしているので、そういった杖と同じように見えないのではないか。

    そう尋ねると、池田会長は「そう思いますよね。しかし、それが現実じゃないんですよね」と言う。

    「白杖を見て、視覚障害者だと理解してもらうこともシグナルを広めたい目的の一つです。白杖を通じてコミュニケーションがしたいです」

    シグナルを実際に見かけたら...

    外を歩く視覚障害者には、常に危険が伴う。スマートフォンを使いながら歩く「歩きスマホ」をする人とぶつかったり、点字ブロックに置かれた物につまずいたりするケースも少なくない。

    白杖を使っていても視覚障害者だと認識していない人から、文句を言われることもあるという。

    当事者はどんな配慮を望んでいるのか。池田会長は最後に、こうメッセージを送る。

    「視覚障害者は、ハンディキャップがあることを知っていただきたいです。私たちは必死に外に出ておりますので、理解して歩いていただき、配慮いただけたら助かります」

    では、シグナルを実際に見かけたら、どうすれば良いのか。岐阜市のHPにはこう記される。

    • まず、正面から「どうかなさいましたか。」などと声をかけてください。
    • お困りごとの内容により、ご自分の肩やひじなどに手をかけてもらい、ゆっくり誘導するなどの支援をしてください。
    • 白杖を持つ手にふれないようにしてください。