国賓として来日中のトランプ米大統領は28日午後、3泊4日の日程を終えてエアフォースワンで帰路につく。
ゴルフ、相撲観戦、炉端焼きでの会食、そして新天皇との会見――。トランプ氏への“接待攻勢”で、懸案となっている貿易問題で譲歩を引き出す作戦だったが…。
来日中、トランプ氏は随所で「したたかさ」を見せた。
滞在期間、異例の3泊4日
今回、トランプ氏は国賓として来日。5月に即位した新天皇と会見した初の外国元首となった。滞在日程は3泊4日。世界一忙しいと言われるアメリカ大統領としては異例の長さだ。
滞在先の東京・大手町のパレスホテル周辺には警備の警察官が多数展開。ものものしい雰囲気に包まれていた。
トランプ氏への異例の厚遇、その背景には両国で懸案となっている貿易協定の交渉がある。
TPP(環太平洋経済連携協定)から離脱したトランプ政権は、自動車や牛肉、農作物の関税引き下げ・撤廃を日本に求めている。
日本としては、改元後初の国賓としてトランプ氏を招き、交渉で譲歩を引き出したい思惑だ。
異例の「おもてなし」 皮肉る海外メディア
訪日2日目の26日。トランプ氏は千葉で安倍首相と共にゴルフをし、両国国技館では枡席に特設されたソファーで大相撲を観戦した。
表彰式では土俵にあがり、表彰状を朗読。優勝力士の朝乃山に新たに作られた「アメリカ大統領合衆国杯」を満面の笑みで授けた。
相撲を見終わると、安倍首相とトランプ氏は六本木の高級居酒屋へ。炉端焼きに舌鼓を打った。
安倍首相もトランプ氏も、SNSでのアピールには余念がなかった。
ただ、一枚上手だったのはトランプ氏のようだ。
まず、日本側を見てみよう。今回のトランプ氏訪日を、首相官邸はInstagramで紹介。ストーリー機能まで活用し、安倍首相とトランプ氏の親密度の高さをアピールした。
ゴルフ場では、安倍首相とトランプ氏のセルフィー(自撮り)を紹介。日米首脳会談では両首脳がおそろいの赤いネクタイを着用していることを強調するハッシュタグ「#おそろコーデ」まで使う塩梅だ。
首相官邸はここ最近、Instagramでの発信を強化。新元号「令和」の発表もInstagramで生中継。若い世代へのアピールを図っている。
安倍首相もTwitterでトランプ氏とのセルフィーを紹介。8万回以上のリツイート、37万以上のいいねを得るなど、大きな反響を呼んだ。
一方のトランプ氏。安倍首相とゴルフを楽しむ様子や、相撲観戦が「素晴らしかった」と報告するなど、日本側からの歓迎ぶりをアピールした。
ただ、それだけではなかった。日本滞在中、トランプ氏はこんなツイートもしている。
1つ目のツイートでは、日本政府関係者の話として政敵の民主党を攻撃。
2つ目は貿易協定の交渉について。参院選を控える安倍首相に配慮してか「7月の日本の選挙の後」としつつ、「大きく進展している」「大きな数字を期待している」とアピールした。
今回の訪日について、アメリカ国内では目立った成果は得られないだろうという論調が目立っていた。
来年の大統領選で再選を目指すトランプ氏としては、訪日の機会を最大限利用したい「したたかさ」がツイートから垣間見える。
日米首脳会談でも、トランプ氏がけん制
Twitterだけではなかった。日米首脳会談でも、トランプ節は炸裂した。
会談の冒頭、トランプ氏はここでも日米貿易交渉について「8月には両国にとって良い発表ができるだろう」「早期に貿易の不均衡を是正しなければならない」とぶちあげた。
会談後の共同記者会見でも「すれ違い」が見える場面があった。
安倍首相は会見の中で、先月の訪米時にメラニア夫人の誕生日を共に祝ったことに言及。
トランプ氏を「ドナルド」と呼び、「個人的信頼関係」「ゆるぎようのない緊密な同盟」「友情に感謝」「日米の立場は完全に一致」と、蜜月ぶりをアピールした。
ただ、報道陣からトランプ氏が「8月に良い報告ができる」と述べたことについて「同じ認識か」と問われると、「信頼関係に基づき、議論をさらに加速させることで一致した」と述べるに留め、具体的な回答は避けた。
一方のトランプ氏。新天皇即位後の最初の国賓として歓迎されたことに謝意を示しつつも、貿易に関する内容では本音をのぞかせた。
特に農産物について。日本側はあくまでTPPと同水準の関税撤廃・引き下げが限度という立場だが、トランプ氏は「TPPは私と全く関係ない。アメリカはTPPに縛られない」と、譲歩しない姿勢を表明した。
今回の「おもてなし」は成功か、それとも…
安倍首相はトランプ氏が大統領選に当選した直後から、個人的な信頼関係を積み重ね、日米外交を強化しようと試みてきた。
これまでトランプ氏との会談は実に11回。直近では先月の訪米、今回のトランプ氏訪日、来月のG20サミットと3カ月連続で会うことになる。
ただ、「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ氏のこと。自国の経済的利益に直結する貿易協定の交渉で、自身の支持者と安倍首相との個人的な関係、どちらを重視するだろうか。
安倍首相としては貿易協定の合意を少なくとも参院選後まで先延ばしできることになったが、トランプ氏がバラしたことで「先延ばし」が既成事実となってしまった。
両首脳間でどんな話し合いがあったのか、野党側は国民に明らかにすべきだと求めている。
今後、トランプ氏は得意のディール(取引)を要求してくることだろう。「個人的信頼関係」で交渉の猶予は得たが、その中身まで譲歩を引き出せるかは不透明だ。
今回の「おもてなし」は成功と失敗、どちらだろうか。