大手広告代理店・電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24歳)が長時間労働の末に自殺してから、12月25日で3年が経った。
母・幸美さん(55)が、まつりさんの命日にあわせて綴った手記をTwitterで紹介した。
働き方改革法は「改革とは程遠い」
手記の中で、幸美さんは「電通での長時間労働とパワハラがなければ、今も元気で働き、好きな場所へ行き、美味(おい)しいものを食べ、大声で笑っていたはずです」「大切な娘を守ることができなかった私の苦しみは消えることはありません」と悔しさをにじませた。
2019年4月から「働き方改革関連法」が施行される。
これについて幸美さんは「過労死、過労自殺を防止するには改革とは程遠いもの」と指摘。
その上で、「過労死を防止するためには労働基準法違反の罰則を強化する法律の改定が必要だと思います」「すべての業種職種で長時間労働やハラスメントをなくすような法改正や取り組みがなされることを望みます」と訴えた。
幸美さんは12月17日付で、過労死した人の遺族や労使の代表者らで構成される厚労省の「過労死等防止対策推進協議会」の委員に就任。
「人手不足や経済発展や国民的イベントが人の命を大切にしない理由として許されてはいけません」と呼びかけた上で、委員として「微力ながら声を上げ続けていく」と綴った。
弁護士を通じて公表した手記全文は以下の通り。
幸美さんの手記(全文)
まつりの幸せが全て奪われたクリスマスの日から3年が過ぎました。
あの日までの24年間まつりの幸せが私の幸せでした。
まつりと一緒に見る空の青、山の青、海の青、花の色、すべてが輝いていました。
生まれる前から慈しみ育てた、自分の命より大切な娘に先立たれた悲しみと苦しみは言葉では言い表せません。
まつりのいない今でもまつりのことばかり思い、まつりの名を呼んでいます。
ちいさい頃から平凡な私を超え、自分の人生を自分で選び懸命に生きてきたまつり。
電通での長時間労働とパワハラがなければ、今も元気で働き、好きな場所へ行き、美味(おい)しいものを食べ、大声で笑っていたはずです。
いつものように「お母さん大好き」と言って抱きしめてくれたはずです。「どんなことがあっても大切な娘を守る」それができなかった私の苦しみは消えることはありません。
電通は、まつりの生まれた年に社員の大嶋一郎さんが亡くなり「不幸な出来事が二度と起こらないよう努力します」と誓いました。しかしまつりの命が犠牲になりました。
電通は再び労働環境の改革を誓いました。
何十年も放置されていた大企業での取り組みは大規模なシステムの導入や業務の改善と適切な人員の配置、社員教育、かかる費用は膨大なものになるでしょう。
不眠不休で命を犠牲にするビジネスモデルが異常で間違っていたと言う意識の改革が必要なのです。会社も社員も非常識な文化や成功体験を捨て改革の意識を共有して本気で取り組み、電通単体でだけでなく電通グループ全体で改善を行い、犠牲者を二度と出さないよう本気で取り組んでほしいと思います。
昨年電通は労働基準法違反で罰金50万円の有罪判決を受けましたが、上司に関しては不起訴処分になりました。私は検察審査会に申し立てをしましたが、今年7月に不起訴相当が決定しました。他の管理職も同様な労務管理をしていてひとりだけ処分すると不公平になるからと言う理由がありました。サービス残業も深夜労働も労基法違反もみんながやっているから処分されないと言うのは納得できません。
過労死を防止するためには労働基準法違反の罰則を強化する法律の改定が必要だと思います。
働き方改革関連法が今年6月に成立し来年4月から施行されます。過労死、過労自殺を防止するには改革とは程遠いものだと思います。すべての業種職種で長時間労働やハラスメントをなくすような法改正や取り組みがなされることを望みます。
人手不足や経済発展や国民的イベントが人の命を大切にしない理由として許されてはいけません。人の命は人件費と言うコストではありません。経営者や労働者、国民全ての人が意識を変えなければいけません。
日本の社会全体で働く人の命と健康が守られることを望みます。
まつりの死から働き方が変わった職場があると聞いています。
世界がどんなに変わろうとまつりの苦しみは消える事はなく、まつりは人生をやり直す事はできませんが、まつりと同じ苦しみを持って生きる人をなくすため、過労死・過労自殺をなくすため、過労死等防止対策推進協議会委員としても微力ながら声を上げ続けていく決意です。