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新元号「令和」の出典『万葉集』の序文、ルーツは中国の『文選』と指摘も

「令和」は国書である『万葉集』が典拠とされた。だが、国書に記されている言葉のおおもとをたどれば、中国の古典に由来するものが多い。

政府は5月1日から施行される新元号「令和」について、その典拠を『万葉集』であると説明した。

日本の元号はこれまで、出典が確認できるものは全て漢籍(中国の書籍)だった。「令和」は史上初めて国書(日本の書籍)が典拠となった元号になる。

安倍首相が語った「国書」へのこだわり

安倍晋三首相は4月1日の記者会見で『万葉集』について、「わが国の豊かな国民文化と長い伝統を象徴する国書」と紹介した。

新元号「令和」の意味については、「人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ、という意味が込められております」と説明。

その上で、以下のように述べた。

「悠久の歴史と薫り高き文化、四季折々の美しい自然、こうした日本の国柄をしっかりと次の時代へと引き継いでいく」

「厳しい寒さのあとに春の訪れを告げ、見事に咲き誇る梅の花のように一人一人の日本人が、明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる。そうした日本でありたいとの願いを込め、令和に決定いたしました」

質疑応答の中でも「我が国は歴史の大きな転換点を迎えていますが、いかに時代がうつろうとも日本には決して色あせることのない価値があると思います。今回はそうした思いの中で、歴史上初めて、国書を典拠とする元号を決定しました」と答えた。

安倍首相のこれらの言葉からは「国書」へのこだわりが垣間見える。

「万葉集」現存する日本最古の詩集

「万葉集」は20巻からなる現存する日本最古の歌集で、奈良時代(770年ごろ)に成立したとされる。

約4500首の和歌が収録され、恋愛を詠んだ相聞歌から死者を悼む挽歌、それ以外の雑歌などに分類。詠み人は天皇、皇族、貴族のみならず一般庶民や防人など幅広い人々の歌が収められている。

収められた和歌は全て「万葉仮名」で記されている。つまり、日本語の音を表すための当て字であり、漢字そのものには意味がない。これが『万葉集』の特徴の一つだ。

ただ、『万葉集』の中でも漢文で記されているものがある。それが今回の元号の引用文のような、それぞれの和歌の序文だ。

「令和」の引用文、なにが記されている?

新元号「令和」の引用元は、『万葉集』の「梅花(うめのはな)の歌」三十二首の序文だ。

天平二年正月十三日 萃于師老之宅、申宴会成、于時、初春月、気淑風、梅披鏡前之粉、蘭薫珮後之香

(天平二年正月十三日 師の老の宅に萃まりて宴会を申く。時に初春の月にして、気淑く風ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫らす)

天平2(730)年の正月、大伴旅人が開いた宴会の情景を記したもの。この宴会には32人が参会し、それぞれが梅の花にまつわる和歌を詠んだ。宴会を催した旅人は、編纂者の一人とされる大伴家持の父だ。

初春のよき月に、さわやかな空気のなか、風が柔らかく吹いている。梅の花はまるで白粉のよう…と、その美しさを描写している。

この序文について、岩波文庫の編集部がTwitterで興味深い解説を紹介している。

新元号「令和」の出典、万葉集「初春の令月、気淑しく風和らぐ」ですが、『文選』の句を踏まえていることが、新日本古典文学大系『萬葉集(一)』https://t.co/2VXbiq7Iw8 の補注に指摘されています。 「「令月」は「仲春令月、時和し気清らかなり」(後漢・張衡「帰田賦・文選巻十五)」とある。」

これによると、「初春の月にして、気淑く風ぎ」の箇所について、『新日本古典文学大系「萬葉集(一)」』の補注では、中国の詩文集『文選』に収録されている詩、後漢の学者・張衡の「帰田賦」の一部を踏まえていると指摘されているという。

平安時代に愛読された『文選』

『文選』は中国の周〜梁まで、およそ1000年間にわたる100人以上の詩・散文800あまりを収録。梁の昭明太子(501〜531)が編纂し、中国の詩文の模範となった。

奈良・平安期の貴族にとって、漢文の素養は必須とされ、特に『文選』は基礎教養とされた。

『枕草子』では「書は文集、文選」、『徒然草』では「文は文選のあはれなる巻々、白氏文集」と記され、白居易の詩文集と並び称され、愛読された。どちらも平安文学にも大きな影響を及ぼした。元号の典拠としても、『文選』は過去25回登場している。

過去の優れた詩歌を自らの詩歌・文章に引用することは「引歌」という表現方法の一つだ。『万葉集』と『文選』の該当部分を漢文で見ると、よりわかりやすい。

「初春令月、気淑風和」(『万葉集』)

「仲春令月、時和気清」(『文選』)

確かに「令和」は、国書である『万葉集』が典拠とされた。だが、国書に記されている言葉のおおもとをたどれば、中国の古典に由来するものが多い。

今回の元号「令和」も、『文選』にルーツを持つ言葉であると同時に、『万葉集』ならではの独自の言葉の組み合わせを交えたものと言えよう。

国は異なれど、古の時代に生きる人々は「漢字」という同じ文字を用いて、恋の喜びや別れの悲しみ、自然の美しさを紡いできた。

『万葉集』で詠まれている梅の花。日本では奈良〜平安にかけて「花」といえば梅だった。

中国でも、国を代表する花として知られる。台湾がオリンピックなどに出場する際に名乗る「チャイニーズタイペイ」の旗は、梅の花があしらわれている。

国文学研究資料館長のロバート・キャンベルさんは朝日新聞(2019年3月19日朝刊)の取材に、こう話している。

「北東アジアは一つの漢字文化圏。元号の典拠が国書か漢籍かと対立的に見るべきではない」

キャンベルさんは「令和」について、Twitterで「文選『仲春令月、時和気清』(張衡『帰田賦』)へのオマージュを含めてナイスチョイス」と評価している。

「令和」ぱっと見で「和せしむ」と読み世の中が平和になるよう仕向けること、平和に「させる」心で感心もしたが、万葉集「梅花歌」序の季節感あふれる取り合わせだと分かり再度合点。文選「仲春令月、時和気清」(張衡「帰田賦」)へのオマージュを含めてナイスチョイス。と言って、和せしむもいいなと

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