枝野代表「年金不安に向き合っていない」と安倍首相を批判(党首討論・発言詳報)

    立憲民主党の枝野幸男代表は、老後の年金暮らしで「2000万円不足する」とした金融庁の金融審議会の報告書を念頭に「報告書が出た後も安心ばかり強調され、有権者が抱える不安に向き合っていない」と指摘した。

    国会では6月19日午後、安倍首相と野党党首の党首討論が開かれた。

    立憲民主党の枝野幸男代表は、老後の年金暮らしで「2000万円不足する」とした金融庁の金融審議会の報告書を念頭に「報告書が出た後も安心ばかり強調され、有権者が抱える不安に向き合っていない」と指摘。

    その上で、政府が報告書を受け取らないとしたことを「見たくない事実は、なかったことにして、ごまかす姿勢。これが自分の暮らしと直接関わる問題で見せられた」と、政府の姿勢を批判した。

    一方で安倍首相は、年金運用におけるマクロ経済スライドの必要性を主張。

    さらに最低賃金について「政権奪還から6年間で125円増えた」「民主党政権時代も皆さんは頑張ったと思うが、皆さんは3年間で36円。我々は6年間で(民主党政権の)3.5倍の最低賃金が増えている」と実績を強調した。

    安倍首相と枝野氏の討論時間は20分。発言は枝野氏が4回、安倍首相が4回。やりとりは4往復だった。

    討論の詳細は以下の通り。

    枝野氏「安心ばかり強調」と批判

    枝野1:金融審議会のワーキンググループによる、いわゆる2000万円報告書を契機として、年金に関する関心と老後に対する不安の声が高まっている。

    総理は今回の事態の中で、多くの国民の皆さんが年金の何について関心を持ち、老後の何について不安を持っていると認識しているか。

    安倍1:年金によって自分たちの老後の生活を賄うことができるのかどうか、果たして年金は持続可能なのかどうかについて不安を持っていると考えている。

    枝野2:いまの不安が前提だと思うが、今回のいわゆる「2000万円報告書」を契機として、多くの皆さんの声が上がっている。

    その本質は、安心ばかりを強調して、実態と向き合わない姿勢にあるのではと考える。

    今回の2000万円という金額についても、確かに平均値であったり一つの試算ではある。

    しかしながら、多くの有権者がそれぞれの生活を考えた時に、自分が今もらっている年金、将来もらうと見込まれる年金だけでは、なかなか老後の暮らしが成り立たない。

    にも関わらず、今回の報告書が出た後も安心ばかり強調され、多くの有権者が抱えている不安に向き合っていないことに対して、多くの皆さんが怒っていると思う。

    これは年金問題ということで、有権者の生活と直接結びつく事案で、大きな関心の輪が広がった。

    これまで森友・加計問題をはじめとして、公文書の隠蔽、改ざんなどが繰り返され、それに対する責任の所在等についても曖昧なままきている。

    見たくない事実はなかったことにして、ごまかす姿勢。これが自分の暮らしと直接関わる問題で見せられたこと。それが短時間で多くの関心を招いている。

    今回の2000万円報告書を存在しないとか受け取らないとかの弥縫策(びぼうさく)ではなく、「一つの試算ではこういうこともある」「そうした場合は2000万円のような規模での貯蓄はできない」と不安を持つ皆さんたちと正面から向き合うこと。それが求められてている政府の姿勢ではないか。

    今回、改めて突きつけられたのは、公文書の管理や情報公開、議会における徹底した説明責任を果たす。こうしたことが求められているのではないか。

    安倍首相「年金生活者の生活事態は多様

    安倍2:先般の金融庁のワーキンググループ報告の問題点はなにかというと、枝野議員も指摘の通り、平均値で見るのが良いのかということ。ここに大きな問題があった。

    この報告書によると、月々、年金生活者の方々が5万円不足をする。いわば5万円赤字であって、それは95歳まで生きれば2000万円になるということから、大きな誤解が生じた。

    これには前提条件があり、前提条件としては2500万円平均で預金がある。その預金の中から5万円ずつ活用して生活していくということ。

    平均値なので2500万円預金があるということに「そんなにないよ」と違和感を感じる方も沢山おられるのではないかと。

    大切なことはなにかといえば、年金生活者の生活事態は多様。多様な実態に対して、しっかりと対応していくものとなっているのかどうか。

    ですから、大切なことは、例えば年金が少ない方については最大年6万円の給付をおこなっていく。無年金者には、原因である給付の払込期間を25年間から10年間に短縮することで、無年金者の数を減らしていく。

    あるいは高齢者の皆さんにとって大きな負担の介護保険料の負担を軽減してくことをしっかり対応していく。

    さまざまな状況に向き合っていないのではないかということだが、さまざまな持続可能性に対する不安は何かというと、平均寿命が伸びていくから、受給期間が長くなるということが一点。

    そして例えば生産年齢人口が減少していくから、支え手が減少してくのではないかということ。そうしたものに向き合って、行った改正が平成16年の改正であった。マクロ経済スライドを導入して、平均寿命の延伸と被保険者の増減に対応するようになった。

    これによって将来の年金受給者の夫婦と負担のバランスをとると同時に、現在年金をもらっている方の受給水準と将来年金をもらう方の水準の均衡をとっていくことをお願いしている。

    そしてデフレが続いていけば、残念だが申し訳ないが受給者の皆さまにデフレスライドをお願いする。あるいはマクロ経済スライドによって、賃金の伸びには残念ながら追いつかないが、そのことによって持続可能性をお願いをしている。

    まさに私たちは、現実と向き合いながらご説明をしながら、制度の改正をおこなっているところである。

    枝野氏「問いかけに正面から答えていない」

    枝野3:縷々(るる)お話をいただいたが、私の問いかけには正面から答えていただけたとは思っていない。

    今回の報告書そのものは、一つの過程なりモデルを前提として2000万円というのはあるモデルに当てはまる人にとっては老後必要な金がつかもしれない。

    今回を契機にして、従来からそれは例えば2000万円のケースで想定されている20万円弱の年金、国民年金の方はとてもこんな金額の年金は受け取っていないし、受け取ることもありません。

    そうした皆さんたちは従来から、この年金だけでは老後食べていけないということを意識をしている。あるいは、この年金だけでは食べて行けないという中で暮らしている。

    厚生年金などで、一定の年金額を受け取っている皆さんも、すでに高齢者になっている皆さんは、数百万の貯蓄しか無いけど今更増やせと言われても困る。さあどうしようかという不安の中で過ごしている。

    そこにこうした報告書が出てきて、その貯蓄がない人たちはどうしたら良いのだろうかということに対しての答えの前に、報告書自体がなかったことにしてしまうという姿勢は、高齢者の抱える不安に正面から受け止めていることにはならない。

    年金制度については、たしかに改革しようと思えば長期的な期間が必要になる。現に、年金を受けている人の年金を大幅に上げるというのは現実的に難しいことはわかっている。

    ただ、やれることがあるのにやれていないと思う。それは、もちろん年金生活者も多種多様だが、それこそ国民年金で食べていくこともできていないという方にとって、年6万円とは言えども、そのこと自体は評価をしたい。

    そうした方々を含めて、一定程度の年金を受け取ってらっしゃる方を含めて、多くの皆さんが抱えている課題は、健康な間はなんとかなるかもしれない。ただ、最大の不安は、病気になったときの医療費、介護が必要になったときの介護、さらに年齢を重ねたことに寄って病気でなくても介護の必要度は高くなる。

    いま健康だからこの年金でやりくりしているが、病気になったり介護が必要になった時の不安が大きい。これに向かい合う姿勢が求められていると思う。

    低年金であっても、資産がなくても、万一の時に一定の医療や介護が受けられる安心。このことこそが、多くの高齢者の皆さん、まもなく高齢者になるみなさんが求められていることだと思う。

    私たちは、そのための総合合算制度を早期に導入するべきだと主張している。制度ごとに、医療費の自己負担、介護費用の自己負担を計算するのではなく、家計単位で医療介護保育障害者福祉に関するトータルの金額について自己負担に上限をかける。当然ながら年金を始めとする所得に応じて上限をかける。

    こうした制度を導入することで、年金が低い方でもその範囲で一定の医療や介護が受けられるという安心。これが作れれば、もちろん年金の額が増えていくことが一番良いことかもしれませんが、それは困難であるということは承知している。

    そうした中で、高齢者の皆さんの安心を高めることにつながると、私たちは国民の皆さんに提案をさせていただきたい。

    その前提として、そもそも質量ともに医療や介護のサービスが不足している。その大きな要因は低賃金による人手不足の慢性化だ。介護医療従事者の賃金を抜本的に底上げすることで病気になったり介護が必要になったときも一定の医療と介護が受けられるような質量の安定。その時にかかる自己負担の所得に応じた低廉化をすすめていくべき。

    医療介護のサービスを提供している賃金の底上げにかかる費用は、一時的に現役世代の所得の底上げになる。高齢者にとってだけでなく、現役世代の賃金の底上げ、雇用の拡大につながっていくと考える。

    いまこそ、総合合算制度と医療介護の質量ともに賃金の底上げによる充実を勧めていくべきだと思うが、総理の見解は。

    安倍首相「新雇用は6年間で380万人

    安倍3:高齢期によって生活を支えるものは、年金が大きな柱。基礎年金と厚生年金、企業年金等があるが、これについてはすでに答弁をした通りで、国民年金だけではなかなか生活費すべてを賄うことができないことは話をさせていただいたところ。

    委員も承知の通り、給付と負担のバランスである。給付をするためには負担をしていただかないといけない。同時に、年金は保険料と税金を投入する。さらには積立金と運用益。

    そこで委員が言ったような若い人たちの給料が増えることは支え手のみなさんの保険料も増えていくので、年金財政にはプラスになると思う。

    その一点においては、この6年間で380万人が新たに働き始めた。正社員もこの6年間で150万人増えた。

    政権交代前は50万人正社員が減っていたが、150万人増えたことで、マクロ経済スライドの数字は0.9から0.2に大きく「改善」と捉えている。数値として改善した。

    平均寿命が伸びているにも関わらず、働いている方々の保険料が増えたことによって改善している。

    まさに、委員がおっしゃったように経済が成長していくことによって、新たな働き手が増えて、働きたい人が仕事ができるという環境を作ることが極めて重要である。

    経済が成長していくことによって、44兆円の運用益が出ている。民主党政権時代の約10倍の運用益は出ている。

    しっかりと経済を成長させ、働き手を増やし、雇用を増やし、そのことで保険料収入も増えている。マクロ経済スライドのマイナス分も減っていくということになる。これからもしっかりと増やしていきたい。

    最低賃金についても、政権を奪還してから6年間で125円増えている。民主党政権時代も皆さんは頑張ったと思いますよ。皆さんのときには36円増えている。みなさんは3年間、我々は6年間。しかし私たちは(期間は)倍だが、3.5倍最低賃金が増えている。

    経済を成長させ、収入を増やし、税収も増えているので、その税収を活用して社会保障の基盤を厚くしていく。成長と分配の好循環を作っていくこと。

    最初に申し上げたように、皆さんの収入が増えていくということについては、社会保障の基盤を大切にしていくことにおいて、大変大切であり、まさにそのことを私たちはおこなっている。

    枝野氏、実質経済成長率の低下を指摘

    枝野4:私も民主党政権の一翼を担った。至らない点がたくさんあったことは改めてこの場でもお詫びしたいが、経済の数字の最終成績はどこなのかと言ったら、やはり実質経済成長率。

    2010年から12年の実質経済成長率は1.8%。2013年から18年は1.1%。これが客観的な経済のトータルの総合成績であることは、自信をもって申し上げたい。

    先程の安倍総理のお話は、私の問いかけには答えていただけなかった。年金の範囲の中で、一定の医療や介護が受けられる総合合算制度について、答えをスルされた。

    これについては一時、導入の方向で話が進んでいたものが、軽減税率導入の財源にするために実施されないという流れになってきたことは、付記をしておきたい。

    全体としての雇用の話を一生懸命していたが、私が提起したのは、特に安心できる医療と介護、安心できる老後のためには、介護従事者のほとんど、かなりの比率の医療従事者が比重に重労働であり、かつ低賃金で慢性的な人手不足に陥っている。

    そもそも老後の安心のためのサービスの質も量も不足している。そこをまず充実させていくために、かなり抜本的な所得底上げ、そこに財政を投入していくことを申し上げたが、一般論に転換された。これではなかなか現実には介護従事者の所得の上がり方は微々たるもの。

    急激に増えている高齢者の数に対応して、いま不足分を埋めてまで安心できる介護をつくる状況はとうていできない。抜本的に分配のやり方を変えて、介護・医療従事者、低賃金でありながら人手不足の分野。これは老後の話だけではない。保育士などにも当てはまる問題。

    こうしたことをすすめていくこと。これを私どもは今の社会・経済政策に対する明確な対案として訴えていきたい。

    ぜひ、安心できる医療や介護をどうするのかという具体的な案を示していただきたい。

    安倍4:1点だけ申し上げる。実質成長の自慢をなされたが、名実逆転をしている実質成長の伸びは、デフレ自慢にしかならないと申し上げておきたい。

    安倍政権においてはしっかりと経済を成長させていくわけで、これからも成長と分配の好循環を回していきたい。