「老後に2000万円不足」の報告書、麻生財務相「全体は読んでない」

    退職後の年金暮らしの夫婦が95歳まで生きるためには、「2000万円が不足」するとした金融庁の試算をめぐり、野党が国会で反発を強めている。

    退職後の年金暮らしの夫婦が95歳まで生きるためには、「2000万円が不足する」とした金融庁の報告書をめぐり、野党が反発している。

    報告書について、麻生太郎財務相(兼:副総理、金融担当相)は6月10日の参院決算委員会で、「豊かな老後を送るためには上手な資産形成も大切との見方が述べられたもの」と強調する一方、「全体を読んでるわけではない」と答弁した。

    麻生氏の発言は立憲民主党・蓮舫氏への答弁だった。

    金融庁「95歳まで生きるなら2000万円不足」

    槍玉に挙がっているのは、金融庁・金融審議会の市場ワーキング・グループによる「高齢社会における資産形成・管理」(6月3日公表)。

    報告書では、日本が「人生100年時代」という高齢社会を迎えるとした上で、「夫65歳以上、妻60歳以上の無職の世帯」をモデルケースに老後に必要なお金を計算している。

    このケースでは、毎月の収支は収入が年金の約20万円、支出は約26万円で、差し引き約5万円の赤字と試算。

    つまり20年で約1300万円、30年で約2000万円の金融資産の取崩しが必要になるとしている。

    また、老人ホームなどの介護費用や住宅リフォーム費用など「特別な支出」を含まないとした上で、以下のような見解を示した。

    「不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる」

    「当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くの お金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる」

    「公的年金制度が多くの人にとって老後の収入の柱であり続けることは間違いないが、少子高齢化により働く世代が中長期的に縮小していく」

    そのため、「自助の充実」が必要であるとし、長期・積立・分散投資による資産形成をするべきだと説明。

    特に、長期の資産形成を支援する制度として、「つみたて NISA」「iDeCo」を紹介した。

    こうした制度について「利用は国民の一部に留まっている」とした上で、「金融庁と厚生労働省は、それぞれが連携し、今後より一層の制度の周知に努めるとともに、若年期から資産形成に取り組むことの重要性についても、広報していくべき」と記述。「つみたてNISA」「iDeCo」などを奨励する表現になっている。

    麻生財務相、読んだのは「冒頭の一部」

    この「2000万円が不足」というフレーズは、報告書の発表後の4日、麻生財務相が資産運用を奨励する発言をしたこともあり注目を浴びた。

    6月10日の参院決算委員会で、立憲民主党の蓮舫氏は「国民が怒っているのは、100年安心』が嘘だったこと」と、公的年金制度の不安について政府を追及した。

    安倍晋三首相は「2000万円不足」の試算について、「不正確であり、誤解を与えるものだった」としつつ、「『100年安心が嘘であった』という指摘があったが、そうではない」と反論。

    「アベノミクスの進展で、もはやデフレではないという状況を反映し、今年度は0.1%の増額改定になった」と、改善を主張した。

    一方で、簡潔に答弁するよう求められる場面や、野党側のヤジが強まり、審議が中断する場面も見られた。

    公的年金制度の安定性をアピールする「100年安心」という言葉は、2004年の小泉政権下での年金改革で叫ばれた言葉。当時、安倍首相は自民党幹事長だった。

    麻生太郎財務相は「国民の皆さんに誤解や不安を与えた」としつつ、「高齢者の生活は多様。報告書は、豊かな老後を送るためには上手な資産形成も大切との見方が述べられたもの」と強調した。

    一方、蓮舫氏から報告書を読んだのか問われると「冒頭の一部に目を通した。全体を読んでるわけではありません」と発言し、委員会室からヤジが飛んだ。

    蓮舫氏は、注目が高まっている報告書を読んでいなかった麻生財務相を批判。「5分で読める」と皮肉り、Twitter上では「10分あれば読めます」とした。ちなみに記者が報告書を読んだところ、45分を要した。

    野党は公的年金制度に不安があるとして、参院選の争点にする構えだ。