台湾で同性婚が実現へ「すさまじい」司法判断はどうして下ったのか?

    台湾法に詳しい、明治大学の鈴木賢教授に聞く

    台湾の憲法を解釈する役割を担う司法院大法官会議が5月24日、同性婚を認めない現行民法について「違憲だ」と判断した。2年以内の立法を求め、もし立法がなされなければ、現行の法律のままでも同性婚を受け付ける。司法として、非常に強いメッセージを発した。

    この判断は、日本の台湾法研究者にとっても衝撃だった。BuzzFeed Newsの取材に対し、明治大学の鈴木賢教授(法学)は驚きを隠さなかった。

    「これはすさまじい。とても大胆な憲法解釈でした。もっと曖昧な形で、ボールを立法府にパスする可能性もあると思っていましたが……驚きました」

    出てきたのは、非常にハッキリした判断だった。

    現行民法のもとでは、同性カップルは、共に人生を送るための、親密で他人の立ち入る余地がない人間関係を結ぶ事ができない。これは婚姻の自由を保障した憲法22条と、法の下の平等を保障した憲法7条に反している……。

    なぜ、同性婚を認めるべきなのかについては、たとえば次のような理由が挙げられている。

    ・同性間で婚姻を認めたとしても、それが異性間での婚姻に影響することはない。社会秩序への悪影響もない。

    ・生殖と結婚とは関係がない。現行民法では、生殖能力がない人も結婚できる。結婚後に生殖できなくなったら離婚というわけでもない。

    ・「結婚するかどうか」や、「誰と結婚するか」を選ぶ権利は、誰もが持っているものだ。こうした自己決定権は、人格を健全に発展させ、人の尊厳を守るもので、憲法22条で保障された基本的人権の一つだ。

    ・同性間で結婚できないのは、不合理な差別である。

    鈴木教授は言う。

    「明快です。このような判断には、2015年に出たアメリカの最高裁判例の影響が及んでいるとみるべきかもしれません。台湾の司法院には15人の大法官がいますが、留学経験者が多く、海外の動向にも敏感ですから」

    「さらに、普通の事件も裁く日本の最高裁判所と違って、台湾の司法院大法官は憲法解釈だけをするので、学者の割合が多い。いまは実務家8人、学者7人で、大胆な判断もしやすくなっています」

    台湾の世論はどうなっていたのか。

    「同性婚に反対の声は、まだ台湾でもあります。しかし、同性婚を求める運動は何十年も続いていて、立法府に法案が出始めてからでも10年以上が経っています。議論の蓄積は、相当なものになっている。社会的には、大方の合意が得られているという判断を、大法官はしたのでしょう」

    政治的にも、実現に向けたハードルは低くなっていた。

    「現在の台湾は、同性婚を認めようと主張した蔡英文総統が当選し、彼女が主席を務める民主進歩党(民進党)が完全与党になり、大法官のトップも民進党の意を酌んだ人が任命されている、という状況です」

    ただ、台湾は最後の一歩が踏み出せていなかった。

    「蔡総統は選挙中、同性婚を支持すると言っておきながら、当選すると煮え切らない対応をしていました。与党内や選挙民にも反対の声がありますし、どういう形で法律を作るのかについても意見対立があるので、強いリーダーシップを発揮しないでいました」

    今回の司法判断は、そのような状況で踏み出された、最後の一歩だった。

    「台湾らしい判断だった」

    「まだ強い反対論が渦巻いている中で、司法という立場で、この問題に決着を付けてしまったのは、大胆でした。台湾らしいといえば、台湾らしいですが……」

    台湾らしいというのは、どういう意味なのか?

    「台湾の司法院大法官は戦後、古い法律を違憲にすることで廃止させ、それによって民主化推進の一翼を担ってきました。そうした長い歴史があるのです」

    その司法院大法官の判断によって、アジアとしては初めて、同性婚が法制化されることになった。

    司法という存在が、これほどまでに重大な判断を示すことを、どう考えるのか。

    「マイノリティの人権保障は、司法で決着を付けるべき問題だ、という議論があります。それは、少数派の権利の問題は、多数決には馴染まない側面があるからです」

    基本的人権の保障や法の下の平等をうたっている以上、多数派が反対しているからといって、少数派の人権を守らないでいいわけがない。

    台湾の議論は、他国へも波及するだろうか。

    「そうですね。今回の判断は、今後アジア各国が、同性婚をどう扱うかについて、大きな影響を与えるでしょう」

    鈴木教授はそう予想していた。