• lgbtjapan badge

新世代の刺激的なドラァグクイーンたちを見事にとらえた14枚の写真

彼女たちは本物の家族だ。

「ドラァグ」は、ここ数年で一気にスポットライトを浴びる存在になった。Netflixの番組『ルポールのドラァグ・レース』や、ドラァグクイーンたちが子どもたちに本を読み聞かせるイベント『Drag Queen Story Hour』の人気により、メインストリームカルチャーの仲間入りを果たしたのだ。

その魅力をいっそう引き立てているのは、ショーの華やかさと、ド派手で「大きすぎてつぶせない」パーソナリティーだ。ドラァグ特有のビジュアルは写真家をひきつけて離さないが、なかでも際立っているのがピッパ・スコットの作品だ。

スコットは写真家として、バンクーバーのドラァグコミュニティーにスポットを当てた長期プロジェクトに取り組んでいる。地元のドラァググループ「ブラットパック」(Bratpack)に密着する彼女の繊細なアプローチについて、BuzzFeed Newsは本人から直接話を聞いた。


南カリフォルニアから、カナダのグレーターバンクーバーへと活動拠点を移した私は、自分が個人的に関われるドキュメンタリープロジェクトを探していた。

私のバックグラウンドの大半はアートが占めている。私は演劇一家で育った。父はイギリスで舞台演出家をしていたし、母はバーミンガム大学で演劇を教えていた。私は私で、20代のころにブロードウェイにあるサークル・イン・ザ・スクエア劇場で研修を受けていた。舞台芸術と個人的なつながりを持っていた私は、たちまちドラァグの世界に引き込まれた。そして、バンクーバーのドラァグシーンのことを調べているとき、「ブラットパック」というドラァググループのことを偶然知った。

ブラットパックは、メンバーのジェーン・スモーカーによって2015年8月に結成された。シーズンのあいだには(そう、テレビの連ドラと同じように、彼らにも「シーズン」があり、毎年1~9月に活動しているのだ)、一座を去るメンバーがいたり、新加入するメンバーがいたりする。

私がこのプロジェクトを始めたときのメンバーは、ジェーン・スモーカーとジア・メトリック、サンクス・ジェム、ケンドール・ジェンダー、シンシア・キッスの5人だった。シンシア・キッスが2018年末にグループを離れたため、現在のメンバーは4人だ。

彼女たちのドラァグに対するアプローチにすっかり魅了された私は、2018年の夏から、ブラットパックをドキュメンタリー写真におさめるプロジェクトを開始した。彼女たちのなかにも、バンクーバーのドラァグシーンのなかにも、コミュニティや家族をとても大切にする姿勢が見てとれる。

彼女たちは皆、自分の「ドラァグマザー」がいる。コミュニティのなかの新人のメンター役を務めてくれるマザーだ。ブラットパックはひとつの家族だ。私を彼女たちにのめり込ませたのは、その感覚にほかならなかった。彼女たちが互いに与え合うサポートは、感動的で美しかった。誰かがソロでショーを行うときは、たいていはほかのメンバーたちが観に行き、祭日もみんなでいっしょに祝っている。

リハーサルには、グループが一丸となって取り組んでいる。メンバー全員が振りつけを行い、どこが良くてどこが悪かったのかについて互いの意見を交換している。いろいろな衣装を試し、メーキャップやウィッグもしょっちゅう変えている。それらは、アーティストとしての彼女たちの声の一部なのだ。

ブラットパックは木曜日に、パブ「ザ・ジャンクション」でパフォーマンスを行っている。そのほかにも、個人として、グループとして、ドラァグコミュニティー内のさまざまなコラボやショーに参加している。先日も、バンクーバーの「コモドア・ボールルーム」で行われたイベント「It’s Just Drag!」に出演し、パフォーマンスを行った。

ブラットパックには熱心なファン層がついている。ガールグループと比較されることも多く、全員が際立ったパーソナリティーの持ち主であるため、「スパイス・ガールズ」がよく引き合いに出される。5人組だったころは、それぞれがスケアリーとベイビー、ポッシュ、スポーティ、ジンジャーに扮してパフォーマンスを行うこともよくあった。

毎週行われているブラットパックのミーティングで撮影した1枚の写真がある。そのなかの彼女たちは、ドラァグの世界を離れて、ゆったりと時間を過ごしている。われながら、彼女たちのあいだにある温かさや家族の絆を見事にとらえていると思う。彼女たちの笑い声さえ聞こえてきそうな写真だ。

私は写真家として、自分の心に響く、自分の感情をそのなかにとらえた写真を撮りたいといつも思っている。私がいちばん驚いたのは、ブラットパックに初めてアプローチしたとき、自分があまりにもドラァグの世界のことを知らないという事実だった。

ご多分に漏れず、私もドラァグの表面的なリアリティーに目が行き、その華やかさに注意を奪われていたのだと思う。そのせいで私は、ドラァグにはどこか軽いノリやハッピーさがあるという誤った認識を持っていた。たしかにそうした側面はある。けれども、もちろん彼女たちの現実はもっと複雑だ。

このプロジェクトにのめり込むにしたがって、私は写真に写り込んでいる「悲しみ」に気づくようになった。はじめのころの私は、アーティストとして、自分自身の感情を写真に投影しないようにしないと、と思っていた。しかし時間が経つにしたがって、この世界には多くの悲しみがあることに気づくようになった。幸せなんてほとんどないと言っているわけではない。だが、私を驚かせ、私の心を動かしたのは、この悲しみなのだ。

その悲しみは、受け入れられたい、見られたい、そして価値を認めてもらいたいという強い願望から生じていると、私は思う。しかし同時に、受け入れてもらうためには、私たちの大半が経験するよりも多くの障害を乗り越えなければならない。

見られたいというこうした願望が、そこに弱さや生々しさを醸し出し、その弱さや生々しさが、ほかの人々が写真のなかのパフォーマーたちと、より深いレベルでつながるのを促す。写真のなかのパフォーマーたちの誠実さを感じることができれば、そこには、ありのままの彼女たちとつながれる機会が生まれるのだ。

こうした親密さを私はどうやってつくり出したのか? 答えは簡単だ。彼女たち一人ひとりのことを心から慈しんだのだ。私は、彼女たちの物語を聞き、それを伝えたいと本気で思った。

私のインスピレーションの源は、写真家のアニー・リーボヴィッツだ。彼女がかつて言った、有名な言葉がある。「あなたは私の写真のなかに、私が恐れることなく、そこに写っている人たちと恋に落ちたという事実を見る」。私の写真からも、それが伝わってほしいと思う。

私のお気に入りの一枚は、ジア・メトリックことジョージオのポートレイトだ。その写真は、このプロジェクトが中盤に入るころに撮影された。

ある晩、ショーが終わったあとバックステージにいた私は、彼女に対して、何もせずにただ私を見上げてくれるようリクエストした。私は彼女の瞳を写真におさめたかったのだが、彼女が私を見上げた瞬間、私は思わず息を飲んでしまった。「ジア」のメーキャップやけばけばしさを突き抜けて輝く「ジョージオ」の魂を感じたのだ。

私はそこに、本当に見られたいという願望を強く感じた。ウィッグの下からはヘアネットが見えているし、メーキャップも中途半端だ。でも不完全だからこそ、私はこの写真が気に入っている。それは、「ジア」がガードを下げ、そのなかにいるアーティスト「ジョージオ」に彼女が戻ろうとする瞬間をとらえた一枚だった。この人間らしさや生々しさこそ、私が自分のアートのなかで追求したいものなのだ。


To see more of Pippa Scott's work, visit her website.


この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:阪本博希/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan


BuzzFeed Japanは東京レインボープライドの公式メディアパートナーとして、2019年4月22日から、セクシュアルマイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集「レインボー・ウィーク」を実施します。

記事や動画コンテンツのほか、オリジナル番組「もくもくニュース」は「もっと日本をカラフルに」をテーマに4月25日(木)午後8時からTwitter上で配信します(配信後はこちらからご視聴いただけます)。また、性のあり方や多様性を取り上げるメディア「Palette」とコラボし、漫画コンテンツも配信します。

4月28日(日)、29日(月・祝)に開催されるプライドフェスティバルでは、プライドパレードのライブ中継なども実施します。