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ゼロにできる赤ちゃんの障害がある 一生で2回、風疹ワクチンを打つだけ

先天性風疹症候群は防げます。

2013年、日本では風疹が大流行して、母体の感染の影響で先天性風疹症候群と呼ばれる障害を持った赤ちゃんがたくさん産まれました。アメリカやカナダなどでは、しっかりしたワクチン制度によって、風疹患者がほとんどいないため、妊婦に風疹が感染することはありません。その結果、先天性風疹症候群(CRS)の赤ちゃんはゼロになっています。

ところが、日本では今年2017年にも先天性風疹症候群の赤ちゃんが福岡で生まれたことが報告されました(参考1)。ゼロにできることがわかっているこの病気が、いつになっても日本から消えないことがとても悲しいです。先天性風疹症候群はゼロにできる障害です。みんながワクチンを打って悲しい思いをする人をゼロにしましょう。

ーー風疹とはどういう病気なのか?
一言で言えば、体にぶつぶつが出る病気です。患者のくしゃみの中のつばを吸い込んでしまったり、手に付いたつばが目や口などから体に入ったりして、うつります。

これは、飛沫感染といわれ、インフルエンザと同じですが、風疹の感染力はインフルエンザの数倍強いとされています。

そして、2〜3週間くらいの潜伏期間の後に、ぶつぶつが顔と体の中心部に出て、数日で手足に広がって、3日から1週間くらいたつと治ります。だから、「三日ばしか」とも呼ばれています。風疹という病気自体は比較的軽くて、数千人にひとりくらい重症化することはありますが、怖がることはありません。

現在の日本ではMRワクチン(風しん麻しん混合ワクチン)を1歳のときと、小学校入学前の2回打っています。ワクチンを2回打っていれば、ほぼかからないので、現代では子どもの患者は少ないのです。

しかし、すでに大人になっている人では事情が違います。三日ばしかならば、子どものときにかかっているか、子どもの頃にワクチンを打っているはずだから、自分には関係ないと思う人も多いかもしれませんが、そう簡単ではありません。

ーー軽い病気である三日ばしかが、なぜ問題なのか?
「軽い病気だけど、妊婦にうつると、産まれた赤ちゃんに障害を残すことがある」からです。

妊娠中に風疹の免疫のないお母さんが風疹にかかると、お腹の赤ちゃんにうつってしまって、妊娠初期だと70%程度の確率で赤ちゃんに障害が出ます。先天性風疹症候群と呼ばれるものです。

白内障で産まれてくる(出産して数ヶ月してからなる事もある)、心臓に障害を持って産まれてくる、耳が聞こえない、などが代表的なものです。昭和40年に、沖縄で風疹がはやったときに、米軍機が飛んでいてもスヤスヤ眠っている子どもがいる、ということで障害があることわかったという話があります。

さらに、流産や死産もあります。ちなみに、妊娠20週以降の感染であれば、ほぼ障害は出ません。つまり、風疹という病気自体は軽いけど、妊婦のお腹にいる赤ちゃんの障害が問題なのです。


ーー先天性風疹症候群で難聴の赤ちゃん
妊娠中に風疹に感染したために先天性風疹症候群になった赤ちゃんに会ったことがあります。よく笑うし、元気いっぱいのかわいい子でしたが、音がほとんど聞こえていないそうです。

母親は、上の子を産んだときに産科医から「風疹のワクチンをしたほうがいいよ」と一応は言われていたそうです。しかし、そこまで重要なことだとは思わずにいて、ワクチンを打たないまま妊娠して風疹にかかってしまいました。「風疹のワクチンを打ってさえいれば・・・」と、悔やんでいらっしゃいました。

また、妊娠中の風疹感染がわかったときに、産婦人科医が中絶を強く勧めて、3か所目の病院でようやく出産を受け入れてくれたという事実も衝撃でした(参考2)。

ーー2012〜2013年の風疹の流行
2013年に全国の風疹患者報告数は1万4000人を越えました。特に20~40代の男性が多くなっています。この大流行に巻き込まれて、45人の先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれました。ワクチンで予防できたはずだと考えると本当に残念です(参考3)。

私の勤務している病院でも、妊婦の夫が2人、妊婦の実父が1人、風疹になり、流行を実感しました。赤ちゃんに障害が残る可能性のある人もいましたが、いろんな検査から赤ちゃんへの感染はないと判断して、産むことになりました。結果的に大丈夫でしたが、「大丈夫と言われても生まれてみるまでは不安だった」とおっしゃっていました。

先天性風疹症候群の患者数に出てこなくても、妊娠中にこのような不安を抱えながら過ごした妊婦が大勢いたのです。障害の可能性などから中絶という選択をした人もいますが、その数は統計には出てこないということも、忘れてほしくないです。実際には先天性風疹症候群の赤ちゃんの数十倍の中絶があると考えられています。

ーー風疹が流行したのはなぜか。

「ワクチンを打っていない大人がたくさんいたから」です。
風疹に感染しても、実際にぶつぶつがでるまでに2~3週間程度かかります。そして、ぶつぶつの出る1週間くらい前から感染力があるので、「かかった人は出歩かない」ではだめなのです。

ぶつぶつが出てから会社や学校を休んでも、既に周りの人にうつしてしまっていて、手遅れということです。また、病気自体は軽いので、感染したのがわかっていても仕事をしていた人もいました。感染拡大を止めるにはワクチンしかありません。

ところが、図2のように、2017年現在38歳以上の日本で育った男性はワクチンを1回も打っていません。妊娠しない男には関係ないからと、男には風疹ワクチンを打っていなかった時代があるのです。

つまり、妊娠を考えている女性が風疹ワクチンを2回打っておくことが最も大事ですが、38歳以上の男性が風疹ワクチンを打ってくれないと、風疹の流行を止めることはできません。そこが大きな課題です。

ーー先天性風疹症候群を防ぐにはどうしたら良いのか?

風疹の流行を止めること、それしかありません。そして、そのためにはすべての人が風疹のワクチンを一生で2回打っておくことです。家族や周囲に妊婦さんがいなくても、「妊娠」が身近にないライフステージの人でも、全員がワクチンを打って、風疹の流行を止めないと、障害を持った赤ちゃんがうまれることは防げません。

流行を止めるには、人口の95%程度以上の人が免疫を持つことが必要です。そうすれば、次々とうつっていく感染の連鎖は止められることがわかっています。すべての人がワクチンを打てば、たとえ一部に免疫がつかない人がいても、感染の連鎖がとまるので、流行は止まる、ということです。実際に、多くの国々では、そのような対策で風疹流行をなくしています。

図3、図4を見れば、ワクチンを打ってない年齢の患者数が多いことがわかります。女性もワクチンを打つことはもちろん必要ですが、38歳以上の男性が風疹ワクチンを打たないと、風疹の流行を止めることはできません。

日本では、大人の8割弱くらいが風疹の免疫を持っていますが、これは、流行を止められる数値ではありません。このまま対策が進まずにワクチンをうたない人が多いままだと、再び流行すると考えられています。流行すると、妊婦も巻き込まれて、1年後くらいに赤ちゃんが障害をもって産まれてくることになります。

ーー自分の風疹の免疫の有無がわからなくても、ワクチンを接種したほうがいいの?

まず、ワクチンが2回必要だということを再認識しましょう。子どもの時に1回だけ打っていても、不十分です。2回のワクチン接種が確認できない場合は、まずワクチンを打ちましょう。ワクチン1回では流行を防げないことがわかったので、現在17歳以下の子どもは、風疹のワクチンは1歳と5歳の2回接種になっています。

検査をして免疫があるかないかを調べてから打つ、これはお勧めしません。採血に行って、後日結果を聞きに行って、免疫なかったから打つ、...これでは、忙しい人では、ワクチン接種が数か月遅れてしまいます。調べずにワクチンを打ったほうが有利です。

ただし、「2回風疹のワクチンを打った」という記録が母子手帳にある人は、打たなくてもいいです。また、「本当に」昔に風疹にかかったことがあるのだったら、打たなくていいです。

「本当に」とは、親の「おまえ風疹にかかったから大丈夫だよ」という言葉を信用してはいけないからです。例えば「麻疹(はしか)」のようなぶつぶつの出る他の病気と間違えて「風疹」と医者が診断をしていたり、親が病気の名前を勘違いしていたり、ということがあるようです。間違いをそのまま母子手帳に記入することもあります。「絶対かかった」と言い切れない人は、ワクチンを打ちましょう。

実際に経験したことですが、妊娠初期の妊婦の夫が風疹にかかりました。その人は、「おまえは小さい頃に風疹にかかったことがあるから大丈夫」と親に言われていました。風疹にかかったことが間違いだったのか、それとも、年月が経つうちに免疫が無くなってしまったのか、それはわかりません。

しかし、「風疹にかかったことがある」ということが「風疹にかからない」ということではないのです。

免疫がある人がワクチンを打っても問題は何もないので、基本的にはワクチンを打つ方で、安全側で考えてほしいです。

――不妊治療の前に、男女ともワクチンを!
不妊治療をしている人は風疹対策をしましょう。今から妊娠しようとしているのですから、必ずワクチンを打ちましょう。ワクチンを打った後の避妊期間がもったいないという人もいますが、不妊治療を2か月間中断してでも、ワクチンを先に打った方が有利です。

顕微受精後に妊娠したのに、夫が風疹にかかってしまい妊娠中を泣きながら過ごした人もいます。2か月は障害のない赤ちゃんを産むのに必要な準備期間と思ってください。不妊治療でやっと赤ちゃんができたのに、中絶を含むような説明をするのは、悲しいです(参考6,7)。

――以前の妊娠の時の検査データを確認しましょう。
過去に妊娠したことのある女性は、風疹の免疫の検査をしているはずです。

血液検査の「風疹HI」という項目が、「8倍未満」「8倍」「16倍」という数字だった人は、出産後にワクチンを打つように勧められています。「32倍」「64倍」「128倍」「256倍」...の人は免疫があるので不要です。

――授乳中は、ワクチンを打っても大丈夫か?
授乳中でも大丈夫です。むしろ、授乳中の人はすぐに妊娠する可能性が低くて、2か月の避妊期間をとりやすいので、おすすめです。

――ワクチン後の避妊は、男性には不要!
男の人は妊娠することはないからです。

――ワクチンは、どこで打てるの?費用は?
国産のMRワクチンは、子ども向けに確保する必要があるので、大人は断られる場合もあります。

子ども達のためにも、大人は輸入ワクチンを置いてあるトラベルクリニックに行って、MMRワクチン(麻疹・おたふく風邪・風疹混合ワクチン)を打ちましょう。

風疹を問題にしているのに、どうして麻しん(はしか)やおたふく風邪まで必要なのか。それは、麻しんもおたふく風邪も怖い病気だからです。一緒に予防した方が得だからです。

麻しんは、とってもこわい病気です。麻しんにかかると赤ちゃんは1000人に1人くらいは亡くなります。おたふく風邪も数百人に一人の割合で片耳が聞こえなくなったり、不妊症になったりします。MMRワクチンを打った方が得です。

風疹ワクチン(MR/MMRワクチン)の費用は概ね1万円くらいです。

――ワクチンの副反応が心配です。
「風疹ワクチン(MR/MMRワクチン)」は、非常に安全性が高いことがわかっています。
ワクチンを打った場所が赤く腫れてしまったりとか、数日熱が出るとか、そういうことより、実際に感染して赤ちゃんに障害がでたり、命の危険があったりすることのほうがずっと危険です。

「ワクチンを打つリスク」と「ワクチンを打たずに、その病気にかかってしまうリスク」を比べて判断しましょう。2013年の流行を考えれば、ワクチンを打つ方が有利だとはっきりしています。

――ビジネスマンとしての「リスクマネジメント」としても風疹ワクチンを!
風疹にかかったら、1週間くらい出社停止になります。さらに、社内で感染が広がった場合には仕事が進まなくなります。

また、同じフロアに妊娠中の女性がいた場合、もし先天性風疹症候群の子どもが産まれてしまったら、仕事のパフォーマンスは落ちてしまうでしょう。もし、取引先に感染させたらどうするのでしょう。

感染症に対するリスクマネジメントという面でも、社員にワクチンを打って予防をしてもらいたいです。Yahoo! JAPANなど社員のワクチン接種に助成金を出したところもあります(参考4)。

――最後に
先天性風疹症候群は予防できます。できるのに、その手段がわかっているのに、未だに悲しい思いをする人がいるのです。日本という国として一体どうなのでしょうか。すでにゼロにしている国がたくさんあります。みんながワクチンを打って、そういう赤ちゃんをゼロにしましょう。

まとめ


●風疹ワクチンを打たなくてよい人
(1)過去に「2回」のワクチン接種の記録がはっきり残っている人
確認する方法は、日本では母子手帳だけです。公的な記録はありません。
(2)過去に風疹にかかったことが、「絶対に確実」である人
はっきりしない場合は、ワクチンを打ちましょう。ワクチンは何回打っても問題ありません。私はいろんな理由で4回打っています。
(3)採血検査で風疹の抗体があることが確認されている人

●風疹ワクチンを打つべき人
(1)過去に「2回」のワクチンを打ってない人
特に優先されるのは以下の人たち
・いつか妊娠するつもりの女性
・20~50歳代の男性(ワクチンをちゃんと受けた人が少ない)
・妊婦の夫や同居の家族
(2)前回妊娠時の検査で、風疹HI抗体価が「8未満」、「8倍」、「16倍」の女性

【参考】
1.感染症週報2017年第41週(4ページ 5類感染症 参照)国立感染症研究所
2.トーチの会 風疹体験談
3.NHK「ストップ風疹 ~赤ちゃんを守れ~
4.職場における風疹ガイドライン 国立感染症研究所 
5.年代別風疹抗体保有率 国立感染症研究所
6.カニサンハウス たえこのへや...不妊治療後に先天性風疹症候群の妙子さんを出産し、18歳で亡くされた可児さんのページ
7.風疹の障害で娘を亡くした母の願い

【太田寛(おおた・ひろし)】 産婦人科専門医

1989年京都大学工学部卒業後、日本航空に勤務。2000年東京医科歯科大学卒業。茅ヶ崎徳洲会総合病院、日本赤十字社医療センター、北里大学公衆衛生学を経て、2012年より瀬戸病院。日本医師会認定産業医、日本産科婦人科学会専門医、インフェクションコントロールドクター、医学博士。


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