「趣味は宮崎駿」ジブリ・鈴木敏夫プロデューサーが「君の名は。」を語った

    趣味は「宮崎駿」

    巨匠・宮崎駿監督と長年タッグを組んできた稀代のプロデューサーは大ヒット映画「君の名は。」をどう見るか――。

    スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーは12月6日、自身のアシスタントをしていた石井朋彦氏の著書「自分を捨てる仕事術」についてのトークショーで、「君の名は。」と新海誠監督について語った。

    「ハウル」「もののけ姫」を上回る大ヒット

    大ヒットを続ける「君の名は。」は、8月末の公開から3カ月で興行収入200億円を突破。邦画としては「千と千尋の神隠し」(308億円)に次ぐ歴代2位になった。

    アニメとしてはジブリ作品以外で初めての100億円超え。宮崎監督の代表作「ハウルの動く城」「もののけ姫」「崖の上のポニョ」を上回る。

    鈴木プロデューサーは、若い男女の恋愛映画でありながら、死生観も埋め込まれた作品であることを指摘する。

    「まずはセリフ。『あの世』と言う言葉が効果的に、何回も使われている。それと対照的に、『此岸』って言葉も出てくる」

    新海監督は、宮崎監督と同じく、脚本も自ら執筆するスタイル。スタッフとは、絵コンテではなくビデオコンテの形で、セリフのタイミングも含めてストーリーを共有し、言葉のリズムや言い回しにこだわって製作したと語っている。

    「すべて背景が目立つように」

    新海作品がファンを魅了する理由の1つが、背景の美しさ。

    雲や空、緑あふれる自然、東京の街並みなど「君の名は。」でもふんだんに描かれている。美術監督の丹治匠さんは、10年以上にわたり新海作品に参加するベテランだ。

    これまでも評価の高かった背景描写に、今作では、作画監督・安藤雅司さんの人物描写力が加わった。安藤さんはスタジオジブリで活躍後に独立したアニメーター。「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」などの作画監督を務めた。

    生き生きと動きしゃべるキャラクターが美しい背景と溶け合うことで、作品全体の魅力が増し、新海監督の思い描く世界観を高いレベルで表現している。

    鈴木プロデューサーも、背景の存在感が印象深かったようだ。

    「新海さんっていう人は物語もセリフも音楽もキャラクターも芝居も、全て背景が目立つように作ってある。それが珍しいと思ったんですよ」

    「あの映画は、時間と空間を自由自在にできる。3.11をなくすことだってできる。素晴らしい映画だった。宮崎駿の影響を受けてるんですよ」

    プロデューサーの本質

    映画作りにおいて、プロデューサーとはどんな仕事なのか。鈴木さんは常々、石井さんにこう伝えていたという。

    「監督は映画を、プロデューサーは現実を演出する仕事。プロデューサーは、言葉を磨きなさい。言葉で伝えるのが仕事。現実を映画のシナリオのように組み替えて、頑張る」(石井さん)

    宮崎監督は「風立ちぬ」製作後、2013年に年齢や身体の衰えを理由に「引退宣言」をした。

    しかし、その後も制作意欲は衰えていない。先日放送されたNHKスペシャルでは、ジブリ美術館で放映する短編CGアニメに取り組みつつ、長編作品の企画書を書いていると明かしていた。

    「一番の趣味は宮崎駿なんですよ。もう彼と付き合って40年。未だに、彼って、僕のことを驚かしてくれるんですよね」

    訂正

    「監督は映画を、プロデューサーは現実を演出する仕事」という発言は、鈴木さんのものでなく、石井さんが記憶していた鈴木さんの言葉でした。訂正いたします。