実在する現代の魔女たち 11枚の写真

    「魔女と魔術の世界はとても柔軟で、一人ひとり個性の光る魅力があります」

    デボラ、ニューヨーク州ニャック

    魔女といえば、昔からどこか暗くて不吉な存在として大衆文化の中で描かれてきた。大きく曲がった鼻、緑がかった肌、いじわるそうなしゃがれ声で、私たちの血も凍らせる魔女。だが写真家のフランシス・F・デニーにとっては、「魔女」という言葉はもっと共感できる、心が通い合うような意味を含んでいるという。

    デニーは写真プロジェクト「Major Arcana: Witches in America」で、米国の東西を巡って魔女を名乗る人々を追い、その姿を写真に収めてきた。そこで出会ったのは、カルチャーの世界でよく見るステレオタイプな描かれ方よりもずっと奥深い魔女の姿だった。デニーにインタビューし、実世界の魔女たちとの出会いについて語ってもらったほか、私たちのステレオタイプを覆す現代の魔女をとらえたポートレートの一部を紹介する。

    魔女に関心をもったきっかけは何ですか。

    フランシス・F・デニー(FD): 6年前、ニューイングランド地方にルーツがある自分の家族の歴史と家系について調べて、2016年に「Let Virtue Be Your Guide」というプロジェクトにまとめました。そこで家系図をたどったときに、驚くような事実がわかったんです。10代前の祖父にあたるサミュエル・シューアルが、植民地時代に起きた悪名高いセイラム魔女裁判の判事だったうえ、その約20年前には、8代前の祖母メアリー・ブリス・パーソンズがマサチューセッツ州ノーザンプトンで「魔女」として告発されていたのです。自分の祖先にそんな二人がいたという偶然には意味があると感じて、いずれ掘り下げてみようと心の中にメモしておきました。

    ダイア、ニューヨーク

    それから2年ほど経って、セイラム魔女裁判について書かれたステイシー・シフの本を読んで、主要登場人物の一人、サミュエル・シューアルが祖先だったのを思い出したんです。本には清教徒(ピューリタン)が多くいた17世紀のニューイングランド地方の様子が鮮明に描かれていました。これが実にダークで怖い世界なんです。

    ここで想像力をかきたてられて、魔女の原型を追ってみることにしました。基本になる問いが3つあって、「現代の女性にとって魔女とは何を意味するか」、「現在魔女を名乗っているのはどんな人か」、「魔術を使うというのはどういうことなのか」です。

    魔女とどうやって知り合うんでしょうか。

    FD: こう言ってはなんですけど、このプロジェクトはある意味、人とつながろうとする巨大ネットワーキング活動みたいなものでした。被写体になってくれた人との出会いはほとんどが口コミか紹介です。12人ほどと知り合って撮影したあとは、自然に広がっていきました。始めた当初は知り合いに紹介してもらったり、ニューヨークの魔女祭り(WitchsFest)で声をかけたりしましたね。まったく知らない相手に近づいていってあなたは魔女ですかとたずねるのは少し勇気がいりますが、うまくいきました。

    マリーとエバン、ニューヨーク

    撮影については、撮っている最中はいろんな指示を出しますが、どんなスタイルで撮るかにはあまり口を出しません。撮影場所は被写体の方に選んでもらい、着るものもおまかせしています。自分をどう表現するかについて、その人自身が主体的に関わって決めるのが大切だと思っています。このプロジェクトの趣旨を考えると特にそうです。撮影のときはほぼ必ず最初にカジュアルなインタビューをします。私は相手のことを知ることができますし、先方にも私がカメラを構える前に安心してもらえればと思っています。

    誰でも魔女になれるのでしょうか。それとも魔術は生まれつき備わっているものなのでしょうか。

    FD: プロジェクトにはいろいろな魔女が登場します。魔女になるのに唯一の方法があるわけではなく、要件や正式な決まりもありません。ただ、ウィッカ(自然崇拝に近い信仰の一種)の魔女は「加入」するために一連の段階を踏むのが一般的です。

    ウィッカは新異教主義(ネオペイガニズム)の一派で、魔女をWitchと大文字で綴ります。ウィッカの中にはたくさんの分派がありますが、魔女になるための基本的なプロセスは共通しています。魔女の世界には「世襲制魔女」として母系に受け継がれていく慣習も存在しますが、それが絶対的な特徴というわけではまったくありません。

    まさしく、魔女への道はひとつに限定されていないわけです。

    キール、ブルックリン

    私にとっては、どんな形の魔術も、内面の充実や気づき、パワーをはぐくむものです。満たされたパワーは、例えば未知の挑戦をする自分を守るおまじないのように、自分自身に向けられることもあります。あるいは薬草を扱うハーバリストとしての癒しのパワーのように、他者に向けられる場合もあります。魔術は単独で使うこともあれば、何人かで一緒にとりおこなう場合もあります。コヴェンと呼ばれる魔女の集会もありますが、必ずしもその形とは限りません。どうやって魔術を使うかはその人次第です。

    サーパンテッサ(蛇使いの意)、ニューヨーク州エソパス

    実際に魔女のみなさんとともに過ごしてみて、プロジェクト当初の予想と比べてどうでしたか。

    FD: 全体として、魔女のみなさんは実に惜しみなく時間を割いてくれましたし、とてもオープンで、私を信頼してくれました。被写体のみなさんが、自分の魔女としての一面をこうして共有することを真に楽しんでくれたようです。みんなそれぞれ違いますが、一人ひとりを知り、相手を引き出していくプロセスは私にとってすばらしい経験でした。

    棘があってやりにくい人も何人かはいましたが、一緒にいて明らかに居心地がわるいと感じたのはほんの2、3人でしょうか。一人、インタビュー中に自分はサイコパスだと打ち明けた人がいました。でも、プロジェクトを通して出会った人のほとんどが温かくて感じよく、すばらしく心の広い人でした。

    写真を見た人にどんなことを感じてもらいたいですか。

    FD:私の写真を見て、これまで抱いていた魔女の概念を覆してもらえればと思います。現代の魔女は、昔からのステレオタイプや誤ったイメージを大きく超える存在です。これまで魔女といえば、悪魔信仰をはじめ、敵に呪いをかける、何かよからぬ行いをしている、何かと「愛と光」を掲げるヒッピー系の異端集団、のように思われてきました。魔女と魔術の世界はとても柔軟で、一人ひとり個性の光る魅力があります。

    こちらがどのように見ようと、決まった一つの形はないんです。

    シャイン、ニューヨーク


    マヤ、ロサンゼルス

    ランディ、バーモント州プレインフィールド

    ウルフ、ブルックリン

    レオノア、バーモント州モンペリエ

    キーヴィ、ブルックリン

    カレン、ブルックリン

    フランシス・F・デニーのプロジェクトMajor Arcana: Witches in Americaはこちら


    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan