• lgbtjapan badge

私たちは男性でも女性でもない 「ノンバイナリー」の写真集が伝えるもの

「どんな人もありのままの自分でいられること。そしてクィアであるのは美しいことだと理解すること。それが大切です」

写真家のクロエ・アフテルは、6年前からノンバイナリージェンダーと呼ばれる人々を被写体にしたプロジェクトを始め、全米各地でポートレートを撮ってきた。ノンバイナリーとは自身を女性とも男性とも位置づけていない人をさす。撮影場所は、それぞれの人が落ち着けると感じる場所。子どものときに住んでいた家や公園などさまざまだが、どれもその人にとって受容の場所であり、気づきや学びのあった場所だ。

そんな心に訴えかけてくる数々の写真が、『Outside and In Between』と題した一冊の本にまとめられた。1枚1枚のポートレートには、それぞれの人が壁を乗り越えてきた物語や、自分らしさを発揮して生きてゆこうとする歩みを支えたコミュニティの物語が添えられている。

ここでは、企画の立ち上げから本にまとめるまでの道のりを写真家みずからに語ってもらうとともに、本書に収められた写真と文章をいくつか紹介する。


プロジェクトとして本格的に始動したのは2014年、San Francisco magazine掲載のジェンダークィア (従来の男女の枠組みにあてはまらないと感じている人)に関する記事の撮影で、サーシャ・フライシュマンを撮ったのがきっかけでした。

サーシャは2013年11月、カリフォルニア州オークランドで、スカートに男性もののシャツという服装で、高校から帰宅するバスに乗っていました。そこへ乗り合わせた男子高校生が、ふざけてサーシャのスカートに火をつけたのです。火は燃え上がり、サーシャはひどい火傷を負いました。本当にひどい、おぞましい、あってはならない事件が起きたのです。

サーシャの撮影後、同じように被写体になりたいと言ってくれる人が次々に現れました。ソーシャルメディアや友人を通じてなど、あらゆる方法を使って呼びかけたんです。被写体になってくれる人には、撮影場所には自分がほっとして落ち着けるところを選んでほしいと伝えました。撮影中、相手に安心してもらえることがとても大事だと思っていましたから。その人の本当の姿の姿をとらえた、美しい写真しか撮りたくなかったのです。

その人らしい、ありのままの姿を目にすると、力強い何かが伝わってきます。自分らしくいるために大きな犠牲を払わなければいけなかった人ならなおさらです。プロジェクトを通じて私が強く感じたのが、自分自身を偽らないでいられること、そしてそれを支えてくれる場所を見つけること、その両方がいかに大切か、です。その人の人生のそうした面を真に共有してくれる人がいると、世界の見え方が変わります。

私に本当の意味で自分を見せてくれた、すべての人に深く感謝しています。この本に出てくれた一人ひとりに、説得力があって心を動かされる、変化をもたらす力のあるストーリーがあります。みなさんを被写体にさせてもらえて、私はただただとても恵まれていたと思います。どんな人でも報復を受けたりせずにありのままの自分でいられることがとても重要ですし、クィアであるのは美しいことなんだと理解するのも大切です。

「撮影をして、自分はジェンダー・ノンコンフォーミングなんだと新たに認識しました。すごく解放されていくのを感じましたね。場所は自宅のアパートメントだったのですが、そのときまで、本当の自分を大切にして受け入れることを自分に許していなかったんです。自分の家にいるときでさえ」(アビー)

「初めて撮影に臨んだのは、ロックリッジにある夫の両親の家でした。…夫の家族のことを知ることになった場所です。あの家には自分が変わる前と後、両方の思い出があるし、あの空間にいるといつも自分を肯定されて尊重してもらっていると感じました」(エディ)

「自分のジェンダーアイデンティティはまだ模索しているところですが、自分のことは"エイリアン・プリンス"だと思っています。ジェンダーとは移行できるスペクトラムだし、そこから外れてもいいんだとわかるようになりました。だいたい人前では女性的な人とか女性としてふるまっていますが、それを嫌だと思っていて、でも不安や拒絶からものを言ったりはしないようにしています」(プリンス・ブリー)

「今回の撮影場所に、倉庫にあるローラーダービー(ローラースケートのチーム対抗レース)の練習場を選んだのはいくつか理由があります。長年のあいだにいろんな人間関係を経験して、仕事や家を何度か変えてきた中で、ローラーダービーはずっと変わらず続けていました。ローラーダービーを通して、自分がスポーツに打ち込むタイプであり、チームの一員でありリーダーであることに気づいたし、さらにはローラーダービーの世界に加わって初めて自由になれて、ノンバイナリーのトランスジェンダーであることを公言して受け入れてもらえていると感じられたんです」(ティーズリー)

「本当の自分でいようとする道のりは苦しかったし、怖いものでした。私たちはみんな人間です。みんな弱く傷つきやすい。男について、女について、人が持っている概念や考え方は私も理解しています。中間にあるさまざまな濃淡のグレーの存在が、太古の昔から明確にされなかった問題に決着をつけたり、それを緩和したりできるわけではありません」(ウィロウ)

左「ホームとは、郵便局の人が荷物を届けにきてくれるのを待ってる場所。髪をうしろへなでつけて、大音量でハウスミュージックを流しながら白いバンで乗りつける郵便屋さんがね。…合鍵を持った友達が連絡もなくふらっとくる場所でもある。自分が何よりも必要としてるときに必ず来てくれる。ホームっていうのはこうしたものすべてをひっくるめて、尊くて、かつ苦しいくらい複雑なんだ」(ピジョン)

右「"ホーム"とは、素のままの自分でいて心地いいのと同時に気分があがる場所。穏やかだけどエネルギーがわいてきて、目の前の"今、ここ"に向き合える感じ」(ヴァイオラ)

「自分はこういう人間だと定義するものはたくさんあります。最近は、自分にしっくりくると思えるアイデンティティを表す用語がどんどん出てきています。ジェンダー・ノンコンフォーミング、ノンバイナリー、ジェンダークィア、トランス、ジェンダーフルイド、ゲイ、クィア、プリンセス、ユニコーン、ファゴット、ゴッデス……どれもみんな、自分がしてきた体験のさまざまな側面を表しています」(ジェイコブ)

「リッチモンド(カリフォルニア州)にあるミラー・ノックス・パークへよく犬と一緒に行きます。ゆっくりリラックスしたいときのお決まりの場所で、この地域にある美しいものを味わいにきます。ここへくると、幸せで穏やかで、感謝したい気持ちになるので、ここが自分にとってホームなんだと思っています」(エイダン)

「ここにいると素の自分でいられて、他人を気にせず自分を表に出せます。もう仮面はかぶりません。ダイブしたあと、水面に出てきて空気を吸う感じです」(クリス)

「この場所を離れるのはつらいだろう/移りゆく太陽がつくりだす陽だまりで/飼い猫たちが眠っている記憶/壁のなかにわたしが秘密を描いてきた場所/このつかの間の時間が/わたしの広がりになった/わたしの息づかいの証に」(コートニー)

「夏のあいだ、ティーン向けの地域コミュニティセンターがこの公園でイベントを開くんです。自分もそこで人と親睦を深めたり、新しいつながりを作ったりしてきました。今、市の職員になったので、この公園で開かれるイベントに携わっています。ここには自分を人として成長させてくれた、たくさんの経験の思い出があります」(キム・H)

この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan


BuzzFeed Japanは東京レインボープライドの公式メディアパートナーとして、2019年4月22日から、セクシュアルマイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集「レインボー・ウィーク」を実施します。

記事や動画コンテンツのほか、オリジナル番組「もくもくニュース」は「もっと日本をカラフルに」をテーマに4月25日(木)午後8時からTwitter上で配信します(配信後はこちらからご視聴いただけます)。また、性のあり方や多様性を取り上げるメディア「Palette」とコラボし、漫画コンテンツも配信します。

4月28日(日)、29日(月・祝)に開催されるプライドフェスティバルでは、プライドパレードのライブ中継なども実施します。